更新日:2023-12-21 06:00
投稿日:2023-12-21 06:00
 素朴な疑問、と頭に付ければ何を聞いても許されるとは思っていないのだが、失礼を承知で、どうしても聞きたいことがある。
 あのぅ、素朴な疑問なんですが、そのあえぎ声は、どこまでが本当ですか?

全国のストリップ劇場は個性派ぞろい

 現在、全国に残された17館のストリップ劇場は、ステージの大きさや形、座席の数や配置も何もかも、実に様々だ。

 映画館みたいに立派なシートもあれば、相撲の枡席みたいに靴を脱いで座るスタイルもあり、再入場が何度でもできるかと思えば、外出が一切許されない場合もある。初めて行く劇場では、諸々注意が必要だ。

 踊り子にとっても、舞台袖がステージの右だったり左だったり、楽屋がステージの階下だったり、2フロアも上だったりと、ダンスだけでなく、行動パターンも臨機応変に対応していかなければならない。

 ぼうっとしていると、今自分がどこの劇場にいるのか分からなくなって、袖にはけようとしたら壁に激突したり、楽屋への階段を下りようしたら上りで、向こう臑(ずね)をしたたかにぶつけたりする。

 こうして踊り子は、生傷が絶えないのだ。

全国の東横インは画一的

 ビジネスホテルの「東横イン」のように、ストリップ劇場にもスタンダードがあればいいのに、と思う。

 どこの東横インに泊まっても定番の間取りと共通のルールで、初めての地でも勝手知ったる常宿感。

 全ての劇場が東横イン的なら、10日ごとに劇場を移動する踊り子は、もう少しいろいろ楽だった気がする。

他人のあえぎ声が聞こえてきたのは…

 仕事や旅行で何度となく利用した東横インだが、泊まった部屋で、隣から激しいあえぎ声が聞こえてきたことは、今のところ一度もない。

 そういう目的なら、大して変わらない価格のラブホテルがあるし、そちらのほうがそれに適した備品も揃っているだろう。

 住んでいるアパートも幸い角部屋で、単身者専用のため、夜もいたって静かである。それならどこで私は他人のあえぎ声を耳にするのかといえば、あろうことか、職場である。

 それも、ついさっきまでバックヤードで世間話を交わした同僚の、あえぎ声だ。つくづく、おかしな仕事をしていると思う。

楽屋の踊り子と振動と爆音事情

 都内の某劇場はステージも楽屋もワンフロアに納まるコンパクトさで、誰かが踊っている間は、楽屋で会話をすることもままならない。

 ステージの音が全く聞こえず、開演しているのか不安になる劇場もあるが、高架下の飲み屋で電車が通過し続けているような状況は、なかなか過酷である。

高架下の赤ちょうちんと同等レベル

 カウンターの端に置いたスマホが、着信したかのように震えて落っこちるほどの振動も、楽屋には伝わってくる。

 その爆音と激しい揺れが、ダンスの音楽とステップのうちは、まだ良い。ここはライブハウスだ、こんな小さなハコで米津玄師が、あいみょんが、BTSが歌っている、と思えば気持ちが高揚するくらいだ。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


犬を飼いたいと思ったら…救える命があることも知ってほしい
 近ごろは空前のペットブームですね。「犬って可愛いなぁ」と思う人も多いのではないでしょうか。散歩をさせている犬をみれば「...
小さな優しさが呼んだ奇跡…ワタクシは花のチカラを信じます
 死ぬまでにしたいことはなんですか――? そんなことを突然聞かれても、どれだけの方が答えられるのでしょうか。  あ...
大人のストレス発散方法5つ! イライラ社会をどう生き抜く?
 日々、ストレスを感じることは多くあります。仕事や人間関係でどうにもならないことに遭遇すると、やきもきしてしまいますよね...
愛しいあの子を待ち伏せ…気品あふれる白い“にゃんたま”王子
 きょうは、幸せの白いにゃんたまω。  綿アメみたいにふわっと品性あるにゃんたまなので、「白にゃんたま王子」と名付...
身近な人の変化に気づいて 認知症の兆候が疑われる3つのこと
 身近な人の変化に「認知症かも……」と疑いたくなることはありませんか? 認知症が社会的な話題となり、「もしかして」と思う...
ストレス発散や美肌にも…キックボクシングで女性の悩み解決
 働き方改革で残業が少なくなりアフター5(ファイブ)を楽しむ時間の余裕ができた今日この頃。早く帰っても何をしたらいいのか...
いよいよ子宮全摘へ 入院女子が涙した必須&便利グッズ17選
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
暑い日はずっとシエスタ…大事な“にゃんたま”を冷やす後ろ姿
 暑い日をどう過ごすか。  きょうは「夏だって毛皮を纏ってるぜ!」のにゃんたま君の知恵を拝見しましょう。  ...
ピルでツルツル肌に? 知っておきたい8つのメリットと危険性
 ピル連載も4回目。第1回目の「日本はピル後進国!『ピル=避妊』の考え方は遅れています」でも少し触れましたが、今回は、ピ...
勤務時間が長い! “自分しかできない仕事”をゼロにする方法
 定時上がりは憧れるけど、いつも勤務時間内に処理しきれず残業――。当然、プライベートの時間はカット。1日1時間の残業で、...
不妊症大国ニッポン…卵子凍結で産みたい人が産める社会へ
 子供を産みたい人がちゃんと産めるような社会にしたい。不妊治療で悲しむ人をゼロにしたい。これが私の願いであり、目標です。...
ワンオペ育児の日本と違う…台湾の妻が悩む“親戚の過干渉”
 国や地域によって、育児にまつわる文化の違いは様々ですよね。日本では日々忙しく過ごしているワンオペ育児ママが沢山いらっし...
「サボテン」には感情が? あなたの優しい言葉がトゲを抜く
「スマホをやりながら寝るのって絶対に睡眠妨害されてますよ。」  最近ワタクシの体メンテナンスをしてくださる方から言...
高級タワーマンションのラウンジで自撮りをする女の一生
 最近、たまたま都内の最高ランクのタワーマンションに行く機会が数回あったのですが、そこで2人組の美しい女性がラウンジのソ...
去勢手術は3日後…にゃんたま記念撮影でモフモフとお別れ
 これぞ! 鈴カステラ! 出来立てホヤホヤの美味しそうなにゃんたま!  食べちゃいたくなる、愛おしいにゃんたまω!...
猛暑の夏…健康な高齢者でも熱中症予防を“家族ですべき”理由
 介護士をしていた経験をもとにライターをしています。筆者はこれまで、認知症の症状や認知症を発症した時の具体的なケアについ...