電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2024-02-25 06:00
投稿日:2024-02-25 06:00

ストリップの新作「電マの新井」が大好評!

『電マの営業・新井です!』(略して「電マの新井」)という新作が大変好評だ。

 書店員にとっての新作といえば「新しく出版された本」のことだが、現在の私はストリッパー。新作といえば、自身の新しい演目を指す。

 数年に1作しか出さない人もいれば、毎月新作を出す人もいる。そういうところは、作家に近い職業と言えるかもしれない。

新作に込めた思い

 1回のステージは約15分。その間に服を脱ぎ、観客を楽しませることができるなら、何をやってもいいのがストリップだ。

 バレエやヒップホップをひたすら踊ってもいいし、演劇をしてもいいし、コントをやってもいいのである。

 私は比較的ストーリーものを作ることが多く、シリアスな内容になりがちだ。実在の小説を自分なりの解釈でステージにしたものもある。

 そういった演目は、構成や音作りに時間がかかるし、演じる側も観客にも負荷がかかるため、たまには息抜きが必要だ。

 不真面目でPOPで、頭を空っぽにして楽しめるものを作ろう。そうして生まれたのが、件の新作なのである。

「電マの新井」の気になる制作費

 ステージで使う衣装や小道具、練習のためのスタジオ代などは、すべて自己負担だ。凝った新作を出せば出すほど、生活は苦しい。

 しかし「電マの新井」のために買ったものといえば、ピンクの電マ2本(Amazonで最安値)、ラブホテルみたいな安っぽいタオル2枚、マツキヨのコンドーム1箱くらい。

 あとは手持ちの服や道具を活用する。これで夢のような低コストが実現した。

 私の役柄は、肩こり・腰痛に効く電動マッサージ機を売り歩く、営業の新井。彼女は「ピンクの電マ」が思ったように売れないことに悩んでいた。

 営業という仕事は、自分に向いていないのかもしれない。落ち込んで歩いていると、ラブホテル清掃スタッフ募集の看板が目に入った。

 そして、その場で転職を決める。

電マの“真の需要”に気が付いて…

 場面は変わり、ラブホテルの客室。シーツを交換し、箱ティッシュとコンドームの補充。そして、あの売れなかった「ピンクの電マ」を枕元にそっと置くのだ。

 全室電マ完備。電マ用の特大コンドームまである。肩凝りをほぐすために使われていないことは明らかだ。あれほど売れなかった商品の需要は、こんなところにあったのである。

 営業先のオヤジがニヤニヤ笑っていた理由が今更わかった。ちくしょう、あいつら知ってやがったな!

 バカ正直に健康器具として売り込もうとしていた自分がむなしい。むしゃくしゃした新井は、自分が清掃した客室に忍び込み、裸になって電マを手に取った――。

拍手をもらえれば大成功

 ――という、シンプルでわかりやすい演目だ。なんだ、この三文小説みたいなストーリーは。

 それが思いのほかヒットして、書き手のはしくれとしては複雑な思いはあるが、私は楽しんでもらうために服を脱いでいるのだった。

 拍手をもらえれば大成功である。電マだって、当初の健康器具としてではない需要で売り上げを伸ばしたが、売って利益を得るために作ったのだから、大成功なのだ。

どや顔で電マ、日々羞恥心との戦い

 好評に気を良くして、電マを股間にあてがっていた私だが、ステージの回数を重ねても、すっかり羞恥心を失くしたわけではない。

 客席に女性がいると、途端にもじもじしてしまう。これはあくまでも観客を楽しませるためにやっているのだ、と弁解したくなってくるのだ。

 銭湯は女湯で、同性しかいないから恥ずかしいと思うことがなく、素っ裸になれる。それなのに、「電マの新井」は、異性しかいないほうが、恥ずかしくない。女心は複雑だ。

女性客はどん引きしている?

 ステージ後の写真タイムで、女性のお客さんに、電マを使ったことがあるか尋ねてみた。彼女は、電マの刺激が強すぎて、とても気持ちいいという境地には至らないと言う。

 すると途端に自分の局部が鈍感であるように思われて、いたたまれない。もしかして女性客たちは、「電マの新井」にどん引いていたのではないか。

 しかしエロビデオでは、もっと立派な電マをガンガンに押し当てられた女優さんが、いろんなものを吹いていたではないか。

 あれ、それって、エロビデオと現実を混同した、素人童貞の男子によくある勘違い?

女性読者のホンネ、求ム。

 女性読者が圧倒的に多いはずのコクハクにおいて、このエッセイは全く共感を呼ばず、ただ赤っ恥を晒しただけで終わるのかもしれない。

 実際のところどうなんでしょう。編集部宛てに率直なご意見、お待ちしています。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


電話の声似すぎ問題でお母さんも大混乱! 仲良し姉妹LINEあるある3選
 仲の良い姉妹に憧れる人は多いですよね。実際に、仲の良い姉妹は、成人して家を出ても頻繁にLINEのやりとりをする仲良し姉...
年齢差感じる“トンデモ新入社員”の珍行動 あちこちマイペースすぎん?
 仕事に対する姿勢は、年代によって大きく違います。そのため「仕事とはこうあるべき」と信念を持って進めてきたお局や大先輩た...
隣に誰かがいるのに「人恋しい」と思ってしまうこと、ない?
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
40女、無印良品でクリスマススワッグづくりに人生初挑戦!
 クリスマスシーズン到来。40半ば、人生初のクリスマススワッグづくりに挑戦してきました。おいおい自分、丁寧な暮らしをして...
独身友人が“メンタル落ち”に…結婚しないなら孤独を避けよ!
 セックスレスや婚外恋愛、セルフプレジャーをテーマにブログやコラムを執筆しているまめです。  現代は、結婚する・し...
つーかなんであの子が? 同僚への嫉妬心の抑え方と嫉妬された時の対処法
 同期入社の同僚でも、時が経つと仕事ができる人、できない人、差が出てきますよね。中には、同僚に嫉妬してしまう、もしくは嫉...
猫島の美しい光景…探検ごっこで美少年“たまたま”が見張り番
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ストレスで声が出ない…急遽ソロ参戦した夫の「親子遠足」で学んだこと
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
いじめてる? 抱きしめてる? 君たちにはどう見えるか?
 どちらにみえるかは、そのときの自分の心の持ちようで見え方が変わりそう。  きっと、それって狛犬だけの話じゃなくて...
「嬲ると嫐る」“本家”はどっち?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり読み切り漫画/第62回「おとこまえ ダンシ会」
【連載第62回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
流鉄・幸谷駅で発見!「猫のコーヒー」自販機で出合った癒しの紙コップ
 千葉県の松戸市と流山市を結ぶ、6駅しかない小さなローカル線、流鉄流山線。常磐線と武蔵野線につながるJR新松戸駅への乗り...
彼の浮気タレコミにも“無”、冷たっ!合理的な人から届くLINE3つの特徴
「合理的」とは、明確な目標があり無駄がない様子をいいます。  特に仕事では、合理的な人がとても高く評価されますよね...
肩こり・腰痛 マッサージに行けない時のホームケアグッズ3選
 パソコンなどの座り仕事の方は肩こり、腰痛、眼精疲労などに悩まされている人が多いのではないでしょうか。  私もこの...
男性同士は褒め合わない?男女で全く違う「褒め文化」の話
 先日、友だちが彼氏とケンカして家出し、我が家にやってきました。とにかく怒ってたので話を聞くと、「私は彼氏を褒めるけれど...
寿司か、シミ取りレーザーか。
 ストリッパーの仕事は10日単位である。会社員時代は7日単位で、そのうちの2日は休む習慣だった。だから10日なら3日くら...