「夫の駐在時にね…」なぜあのコが?田舎の同級生“玉の輿婚”に心ざわつく

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-04-13 06:00
投稿日:2024-04-13 06:00

【武蔵境の女・竹島千佳33歳 #2】

 独身時代は都心に暮らし、華やかな生活をしていた千佳。しかし、結婚を機に都内から離れ、武蔵境に住み始めた。しかし、妥協して暮らし始めたこの地に物足りなさを感じていた。【前回はこちら

  ◇  ◇  ◇

 翌日。

 千佳はいつものごとく中央線の長旅を終え、勤務する丸の内のオフィスにたどり着いた。

 企業の依頼に応じて、市場調査やインタビューを行いデータを分析するのが千佳の仕事。だが、気分の重い月曜に限って、憂鬱な案件の対応を任されていた。

 ベビー用品関連企業がクライアントの、子育て座談会があるのだ。対象は湾岸エリアに住む30代の専業主婦たち。千佳は司会を担当する。

 つまり、一生懸命手を伸ばしても届かなかった憧れの対象者を目の当たりにするということ――気乗りはしないがこれも仕事だ。モードを切りかえ、会場の会議室に入った。

ひとりの女性に声をかけると…

 扉を開けると、いかにもベイエリアの奥様という上品な雰囲気を醸し出している女性がひとり座っていた。

 集合時間までは15分以上ある。真面目な人だと千佳は感心する。

「司会の竹島と申します。もう少々お待ちください」

 女性に声をかけると、彼女はなぜか肩を大きく揺らした。そして、千佳の顔をじっと捉え続けた。

「あの、なにか?」

「…ふ、古谷千佳さんだよね? 同じ中学の」

 古谷は千佳の旧姓だ。

 ただ、こんな同級生がいただろうかと首をかしげる。どう見ても、千佳の故郷・群馬のはずれにいるような人間には見えなかった。

 傍らにはセリーヌのバッグ、髪も美容院でセットしてきたかのように丁寧に巻かれ、爪の先までも手入れが施されている。彼女はまるで雑誌VERYの特集ページから飛び出してきたような都会的な輝きをまとっていた。

都会的な輝きをまとう女性の正体

「ええと――」

 必死で過去の記憶を呼び戻すも、自力では無理だった。口ごもっていると、彼女の方から答えを出してくれた。

「山本芙美だよ」

 中学の時のクラスメイト・山本さん。

 手元資料によると既に結婚して苗字は変わっていた。言われてみれば面影はある。住所は豊洲の高層マンション、夫は大手総合商社勤務だという。

 ――なるほど、ハイスぺを捕まえたってわけ。

 納得するなり、千佳は芙美の手を握った。

「きゃー! おひさしぶりっ」

「ほとんど話したことなかったし、忘れられていると思った」

「忘れないよ~。芙美さん、成績上位でよく名前見ていたし。すごく懐かしい!」

 千佳は芙美と抱き合って、18年ぶりの再会を祝う。実は当時ほとんど喋ったことはなかったのであるが…。

東京のど真ん中でかつての同級生とランチ

 座談会はつつがなく終了し、流れで千佳は芙美とランチをすることになった。

「今日はご協力ありがとう。芙美さんはどちらの紹介で来てくれたの?」

「夫の駐在時代のママ友がこちらのクライアントとお知り合いらしくて、お誘いを受けたの」

 丸ビルの3000円ランチに舌鼓を打ちながら交わす同級生との会話は、思い出話よりも現状報告が中心となった。共有する思い出がないから当然だ。

 東京のど真ん中で、芙美と背筋を伸ばしてイタリアンを楽しむ。

 こんな未来を、当時の自分に言ったら、きっと困惑するだろう。

「ママ友…お子さんはおいくつ?」

「9歳と10歳よ。一昨年までずっとカナダにいたから、今はインターに通わせているの」

 芙美から発せられる言葉は、どれも刺激的だった。千佳は小さく頬の内側を噛みながら耳を傾ける。

「ウチの子たち、帰国時は日本語が不自由だったから仕方なくよ。それよりも千佳さんのほうがすごい。仕事バリバリしているんだもの。相変わらず頑張り屋さんでカッコいいね」

「そんな…」

 謙遜しながらも、千佳は惨めな気持ちになっていた。

 あのころ、教室の隅で静かに本を読んでいたあのコ。

 当時は自分の方が高みで見ていたはずなのに…。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


家に入ってきたハチの駆除に散財したお金 2023.5.23(火)
 突然ですが、4月~梅雨に注意したほうがいいことって何かわかりますか? 実はこの時期はハチの巣づくりのタイミングで、気温...
いざ勝負! 恋のライバルを蹴散らした“たまたま”の運命の時
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
スマホはポケットに入れて…水音に心静まる 2023.5.22(月)
 やることだらけ、情報だらけな日々にどっぷり浸かっていると、何もない時間の過ごし方を忘れてしまいそう。  スマホは...
自分で収穫して食べるとこんなにおいしい 2023.5.21(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
“福利厚生費”で首が回らない? オタ活から卒業するためのステップ5つ
 ここ2、3年ですっかり市民権を得たオタ活。推しの存在に癒され、オタ活に充実感を得ている人も少なくありません。しかし、ふ...
「Z世代は仕事できない」と感じたら…長所を知れば見る目が変わる?
 世代を指す用語としてよく聞くのが「Z世代」という言葉です。「Z世代」とは、1996年頃から2012年頃の間に生まれた世...
早く成長してほしい…後輩が育たない先輩がやりがちなミス
 みなさんは後輩に対してイラッとすること、どのくらいありますか? 私はこれまで後輩の立場になる方が多かったので、そこそこ...
ひとりキャンプの夜対岸 深夜に見たのは… 2023.5.19(金)
 ひとりキャンプの夜対岸は家族連れ等でにぎわっていたが、ゴーゴーと流れる水音でかき消され、こちらは静かだった。  ...
ひんやりして最高にゃ♡ 石の枕で“たまたま”もクールダウン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
丸亀製麺・原菜乃華のダンスにキュン♡「丸亀シェイクうどん」をガチ食い
 2023年5月16日、丸亀製麺からお持ち帰り用の新メニューが発売されました。その名も「丸亀シェイクうどん」。なんと、バ...
歯の矯正治療は自費診療で定価ナシ!で、おいくらに?2023.5.18(木)
「健康的な自前の歯」を維持するべく、歯科矯正を決意したアラフィフ女です。ワイヤー矯正の費用は100万円以上かかるんだよね...
プリンセスたちの「その後の人生」を考えた 2023.5.17(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ナニこれw 芸術家も虜にする「アプリコットファッジ」は発見即買い!
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべき花屋。神奈川の片田舎にありますが、“お花の先生”がたにもご愛顧いただいております。 ...
美部屋を死守してぇ ずぼら40女が実践する掃除術3選 2023.5.16(火)
 GWにキッチンの大掃除とリビングの模様替えをしました。9連休だというのにどこにも行かず、夫と2人てんやわんやの大仕事。...
アプリもう不要!? 映えるエモい写真をiPhoneだけでクリエイトしてみた
「今」という貴重な一瞬をとらえてくれる写真。記憶に残すだけじゃなく、写真にして大切にしておきたい! と思う瞬間ってたくさ...
2023-05-16 06:00 ライフスタイル
二人暮らしで生活費月10万円は可能? とっておきの節約術4つ
 恋人と二人暮らしをはじめて実感するのが、「なかなか貯金が貯まらない」ということ。これから結婚や出産など、大きな出費に備...