女はお嫁さん要員? 年収800万でも「行き遅れ」と見下される田舎の地獄

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-09-07 10:08
投稿日:2024-09-07 06:00

【新宿の女・西村咲子38歳 #2】

 西新宿の高層ビル内にある大手食品会社のデザイン室に勤務し、初台に暮らす咲子。実家とはほぼ縁を切ってはいるものの、悠々自適におひとりさまを満喫している。そんなとき、突然弟・将平が目の前にやってきて…。【前回はこちら

 ◇  ◇  ◇

「新宿に住んでいるっていうから、タワマンとかだと思っていたよ」

 案内した自室のお手洗いから出てきた将平は、出てくるなり半笑いで、咲子の部屋の感想を述べた。

「しかも、1駅使うし、3階って…」

 言葉とは裏腹に、満足げな様子で彼はソファの真ん中にどかりと座る。その場所は、いつも咲子がテレビや食事をする際の定位置だ。

 勝手に侵食しないでほしかったが、疎遠だった17年が不満を口にすることをためらわせた。

 ――こいつ一体、何しに来たんだろう…。

「東京でそんな稼ぎしかないの?」

 そんな疑問を胸に、咲子は物産展で購入した白い恋人を茶菓子としてローテーブルの上に置いた。彼は、礼も口にせず当然のようにそのままつまむ。

「一軒家でしか暮らしたことない人から見たらそう感じるよね」

「にしても狭すぎじゃない? この部屋も俺ん家の庭が余裕ですっぽり入るよ」

 将平は現在、地元で高校時代の同級生と結婚し、3人の子どもに恵まれ幸せな生活を送っているという。今年、彼から一方的に送られてきた年賀状には、アルファードが停まった一軒家の前にいる5人家族の肖像があった。

「私の稼ぎじゃこれが精いっぱいだもの」

 咲子が謙遜気味に口にすると、将平はソファに預けていた身体をがばっと起こす。そして、機を狙っていたかのように矢継ぎ早に尋ねて来た。

「え! どれくらいもらっているの?」

「800万くらいかな…」

「手取りで?」

「額面だけど」

「…はーん。なんだ、東京でそれっぽっち。世帯年収じゃウチの方が上だ」

「…」

 流れに乗って答えてしまう自分も悪い。遠慮なくパーソナルな部分に侵入してくる将平の言動に、咲子はいまだ根強い家族の無神経な距離感を恨んだ。

 ――てか、トイレを借りるだけじゃないの?

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


都会男子にスナックがブーム?おしゃれな20代男子が集うワケ
 スナックといえば従来は、場末な雰囲気でおじさんが多くて、煙たいイメージが強かったかもしれません。しかし、今そんなスナッ...
レディーファーストは常識!成熟“にゃんたま”デートに密着
 にゃんたマニアのみなさんこんにちは。  きょうは、にゃんたまωデートを後ろから大接近!  猫の写真週刊誌が...
なぜ内縁の夫や再婚夫はシングルマザーの連れ子を虐待する?
 女性の連れ子を虐待する内縁の夫や再婚夫の事件があとを絶ちません。一体どうしたら彼らの凶行を防げるのでしょうか。虐待する...
「親族が認知症かも?」と思ったらチェックすべき5つのこと
 自分の親や親戚が“高齢者”と呼ばれる年齢になると、些細なもの忘れに「認知症かも?」と思うことはありませんか。どんな人も...
子宮全摘手術からパン食まで回復も「腸閉塞」疑惑がぼっ発
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
ホストクラブではどんな時にシャンパンコールを行うのか?
 ホストクラブで夜な夜な飛び交うシャンパンコール。大勢のホストに囲まれてワッショイされるなんて、女子にとって夢のような時...
恋愛を求めるなら…あえて「出会いに行かない」を選択せよ
 さて10月に入り、いつに間にか秋めいて来ましたね。秋が終わると……いよいよクリスマス。できれば今くらいの時期にお相手を...
そっとシャッターを…木漏れ日を浴びてお昼寝中“にゃんたま”
 木漏れ日を浴びて、お昼寝タイムが心地よい季節になりました。  にゃんたま君はどんな夢を見て眠っているのでしょう。...
卵子凍結だけで入院騒ぎに…思い通りにならない採卵への道
 日本は不妊治療の件数は世界一なのに、体外受精で赤ちゃんが産まれる確率は最下位。そんな状況を変えるために、ミレニアル世代...
新卒くんが使う「若者コトバ」 あなたはいくつ分かる?
 学生時代はあんなに率先して身内ノリな言葉を使っていたのに、友人グループで会う機会が減ったり、広い交友関係を持たなくなる...
絶対安心の贈答花…幸せを呼ぶ「胡蝶蘭」の置き場所は?
 神奈川でも屈指の老舗旅館の店内装飾を担当させていただいおりますワタクシですが、こちらの旅館では胡蝶蘭と観葉植物など生き...
物欲が止まらない! 部屋に物を散乱させないためのルール4つ
 社会人の楽しみといえば、自由にお金を使えること。  ということで、学生時代より財布の紐が緩み、ついつい「これ可愛...
子宝・安産祈願にご利益? 梅宮大社の有難い“にゃんたま”様
 京都市右京区にある「梅宮大社」で、有難いにゃんたまω様に出逢いました。  こちらの神社、冬は見事な梅が咲き、春は...
子どもの嘔吐処理の方法! 間違えると感染源が広がる恐れも
 夏も終わり、季節も移りゆくこのごろ。子どもたちの間ではノロウィルスやRSウィルスなど感染病が流行ってきています。感染病...
助けになりたい! 認知症の初期対応で気を付けるべきこと3つ
 親や身近な人が認知症だと診断されたら、多くの人が戸惑うでしょう。人によっては「本当に認知症なの?」と、疑いたくなるほど...
昭和のアッシーの令和版「ウーバーおじさん」の生態とは?
 古き良き昭和の時代、アッシーと呼ばれる種族が存在していました。  アッシーとは女性が移動手段=足として利用する男...