下世話な仕事がバレた? 夫や息子の「意外な反応」で主婦が気づいたこと

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-10-12 06:00
投稿日:2024-10-12 06:00

目の前の「読者」の感想がくすぐったい

 ありふれた晩ごはんの会話。その中で、自分の記事の話題が上がっている。書いたのが目の前にいる家族だとは誰も知らない。

 ――こんな記事でも、読んでいる人がいるんだ…。

 小学生の息子が釣りタイトルに反応していたのは複雑だが、読者を目の当たりにして、心の中がくすぐったくなった。

「どうしたの、ママ」

 しばし固まっていた私の顔を大和が覗く。ごまかすように、網の上でカリカリになった豚トロに咄嗟に手を伸ばした。脂だらけの親しみやすい濃い塩味が口の中にひろがった。

 話題はすぐに、息子たちの塾や学校の人間関係の話に移る。

 私はずっと興奮していた。もしかしたらこの昂りは、歓びなのかもしれない。

 お肉の味も忘れた。昼間に飲んだコーヒーの味も忘れた。私の書いたネットニュースは、夫も息子も明日には忘れているだろう。

 だけど…。

明日には忘れられる記事かもしれないけど…

 帰宅し、ソファに寝ころびながらスマホを手にし、ネットを開いた。

 SNSにリンクされたネットニュースの数々を読みながら、知らぬ間に時間を忘れていた。何も考えず、猫とグルメとスキャンダルの情報を摂取しているうちに、胸の靄(もや)がいつの間にか晴れている。

 家族もお笑い番組を見ながら、他愛もない会話を繰り広げていた。

「この芸人も出すぎて飽きたなあ」

「大和もそう思うか。秋にレギュラーも2本終わるって噂があるしね」

「えーそうなんだ。まーいいけど」

「クラスの友達には内緒だぞ」

「あ、次のコーナーはラーメン特集だって! 楽しみだなぁ」

コンビニのコーヒーでも満足させることができる

 どうでもいい会話に花咲く笑顔。すぐ枯れる小さな花。それはあまり美しくもないかもしれない。平和な日常の脇役にすぎないけど、一瞬でもその時間を楽しんでくれている誰かがいる。

 予約困難な一杯のコーヒーは確かにおいしいけど、コンビニコーヒーの方がたくさんの人を満足させているのは事実。

 起き上がって、私は再びパソコンを立ち上げる。リビングテーブルの前で胸を張る。

 ――でも、いつか、きっと…。

 誰でもできる仕事なんてない。

 キーボードを打つ圧がいつの間にか強くなっていることに、息子から注意されるまで私は気が付かなかった。

 Fin.

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


寄り添って眺める景色の美しさ 2023.4.24(月)
「今年もまた春が来たね」と話しかけられる相手がいるって幸せだ。  それは、長く連れ添った相手でもいいけれど、 ...
人のせいにする人は育ちのせい? 上手に付き合う3つの方法
 人の性格や価値観は、それぞれ異なります。どんなタイプの人とも、上手に付き合えるのは理想的ですよね。しかし、何もかも人の...
「時間は無限」だと思っていた学生時代 2023.4.23(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
直前にドタキャンしたくなる人、どきり。「社交的陰キャ」あるある
 控えめな性格の人を指す「陰キャ」と、明るい性格の人を指す「陽キャ」という言葉はもうおなじみですよね。でも最近、「社交的...
耐震マットでヒールが楽になるか試してみた 2023.4.22(土)
 皆さんはハイヒールで歩くのが得意ですか? 筆者の場合、ハイヒールには若干の苦手意識を持っています。  最近SNSで、...
心配性な柴犬くん せつない瞳で何を想う 2023.4.21(金)
 ガラスの向こうの柴犬くん。  目線の先には、憧れのカワサキ・ニンジャ。 「思ったよりも大きいな……。うちの...
洋服の寿命って何年?冬物をクリーニングに出す前におさらい
 洋服が好き! ショッピングも大好き! そんな女性って多いですよね。買うのはいいけど捨てるタイミングがわからず、クローゼ...
心に響かないアドバイスが有益なチャンスに変わる神マインド
 みなさんは素直に聞けないアドバイスはないですか? 私はぶっちゃけいっぱいあります……。もったいないですよね。スッと入っ...
超絶カッコいい!木登り“たまたま”の完璧ポージングにキュン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
職場のコミュ障さんに悶々…上手に距離を縮める5つの接し方
 職場では様々なタイプの人が働いているため、気が合わない人がもいるのもよくあることでしょう。コミュ障(コミュニケーション...
45歳女、5年越しにワイヤー矯正を決断! 2023.4.20(木)
 新型コロナが流行する前、医師から「健康的な自前の歯」を維持するべく、ひとつの選択肢として歯科矯正を勧められたアラフォー...
行き詰まった時は「料理」をするといいよ 2023.4.19(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
花にたとえるならスズランで!幸せ・愛・喜びを全部きやがれ
 細かいことは気にしない性分とはいえ、若い頃に付き合っていた彼氏から「花にたとえるなら、君はドクダミの白い花だね」と言わ...
「ささって」って何ナニ? 混乱必至!県民性ダダ漏れLINE3選
 小さな日本という島国に住んでいるのに、出身地が違うだけで、話し方も習慣も文化も大きく違うものです。違いすぎて、会話が聞...
白と青が眩しい季節 ぶらつくには良い日和 2023.4.17(月)
 この季節はなぜだか白と青が眩しくて、ぶらつくには良い日和。  家に籠もっていた人々が、外を動き回る自由を楽しんで...
“たまたま”も春うらら♡おんにゃの子と素敵な恋が始まる予感
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...