違法薬物で逮捕された元NHKアナ塚本堅一さんは、依存症予防教育アドバイザーとして再出発していた

更新日:2024-12-30 17:03
投稿日:2024-12-30 17:00

【あの人は今こうしている】

 塚本堅一さん
 (元NHKアナ/46歳)

  ◇  ◇  ◇

 違法薬物の所持や使用で逮捕される芸能人のニュースはよく聞くが、アナウンサーはあまり聞かない。しかも、NHKの、となると前代未聞だった。2016年に危険ドラッグ“ラッシュ”の製造・所持で逮捕された塚本堅一さん。塚本さん、今どうしているのか。

 塚本さんに会ったのは、東京メトロ・水天宮前駅近くにある、NPO法人ASK(アスク)=アルコール薬物問題全国市民協会の事務所。

「2018年に始まったASK認定の依存症予防教育アドバイザーの資格を1期生として取得後、薬物問題の当事者として講演会で話をしたり、飲酒運転防止インストラクターの資格も取ったので、飲酒運転防止に関する啓発動画を制作したり、忙しく過ごしています」

 まずはこう言った塚本さん、経験を生かした活動をしているのだ。

「私が手を染めてしまった“ラッシュ”に依存性はなく、私自身は依存症に苦しんだわけではないので、逮捕され罰金刑が確定した後の社会復帰の方が大変でした。NHKをクビになり、住んでいたアパートも出ることになり、3歳年上の姉の部屋に居候させてもらいながら就職活動をしました。でも、面接にすらたどりつけませんでした。当たり前とはいえ、想像以上に厳しかった。一時はうつになり、自暴自棄になって命を絶とうか、とか、薬物に逃げようか、と思ったこともあります。だから、再犯を繰り返す人の気持ちがよくわかる。私は支援者につながれたおかげでそうはならなかったので、薬に依存していく人、再犯を重ねてしまう人を減らすべく尽力したいと思っています」

「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチコピーを掲げる、これまでの薬物問題の啓発とは違ったアプローチの中高生向け書籍を準備中だという。

「私自身がカウンセリングや依存症回復施設の回復プログラム、依存症の自助グループのミーティングに参加することで、回復・復帰できましたから。ただ、1年半もかかりました。もっと早く支援者らにつながれたらよかった。薬物問題などで困難を抱える人は、他人に弱みを見せられず頼れない人が少なくないんです。かつての私もそうでした。何か問題に直面したら我慢しよう、自分ががんばればいい、と考えて生きてきました。でも、ひとりでは限界があることを知りました。かつての私のように、つまずいたままひとりで苦しんでいる人たちに、“理解者、支援者は意外にいるんだよ”と知らせたいと思っています」

 執筆業のほか、日本各地の保護司に向けた再犯防止のための講演会や、“修学旅行で社会問題を探求するスタディーツアー”を提供する企業から依頼を受け、高校生らに経験を語ることが、今の主な仕事だそうだ。

「何とか生活できるくらいの収入にはなっています。講演や取材のない日も、朝8時には起きて、着替えて、間借りしている友人のオフィスに出かけ原稿に取り組んでいます。息抜き? 何ですかね……。薬物の自助グループのルールもあってお酒は完全にやめてしまったし、高血圧でサウナは自粛しているし、血糖値が高くなりチョコなど甘いものも減らしているし……。中年になると、楽しみすら制約が出てきて世知辛いですね(苦笑)。キャンプかな。沖縄に住むパートナーと楽しんでいます」

 5年前に出版した「僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話」(KKベストセラーズ)で、ゲイであることを公表。逮捕前から交際するパートナーとの関係は今も続いているそうだ。

「お互い仕事や家族の関係で、東京と沖縄で離れて暮らしています。私は姉との同居を続け、家賃は折半。姉は事件以来、一度も私を責めず支えてくれています。感謝しかありません」

■都内で姉、保護猫のマンチカンと同居

 ちなみに、両親は事件前に他界。東京都内に姉と、保護猫のマンチカンと暮らす。

 さて、千葉県出身の塚本さんは、テレビ大好きの“テレビっ子”で、小学生のとき放送部に入りアナウンサーに興味を持った。

 明治大学文学部を卒業し03年、NHK入局。京都、金沢、沖縄を経て、15年、東京アナウンス室へ。念願の歌舞伎の舞台中継を担当して間もない16年1月、違法薬物“ラッシュ”の製造・所持で逮捕されてしまった。

「ラッシュは学生時代から楽しみ、違法薬物に指定されてからは当然、使っていませんでした。ところが、ラッシュと似た効果を出せる液体の製造キットを販売するサイトがたまたま目に入り、合法のうたい文句を信じて買ってしまったのです。ストレスやプレッシャーから手を出した、というより迂闊でした。自分を責め、事件から何年間もテレビを見られず、育ててくれたNHKに申し訳なく、全国の皆さまに向けて謝罪したい気持ちでいっぱいでした。今も申し訳ない気持ちは変わりませんが、うつに陥るほど自分を責めることはなくなりました。私のやったことは消せない。せめて私の経験を世の中に役立てて、私のプロフィルに上書きしていこう、と思うようになりました」

(取材・文=中野裕子)

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