名門・筑波大付属から東京藝大に進んだ“秀才”野村萬斎の教育方針 長男・裕基は立教英国学院から慶大へ
【あの有名人の意外な学歴】#13
野村萬斎(狂言師/59歳)
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現在、筑波大1年の悠仁さまが今春まで通われ、世間の注目を集めた筑波大付属。悠仁さまが在学したのは高校だけだったが、もっとも人気が高いのは小学校。慶応幼稚舎が私立の雄なら、国立で真っ先に名前が挙がるのが筑波大付属小学校だ。
「最難関小学校の筆頭ですが、合格できたからと安心できないのが筑付。中学に内部進学できるのは8割前後。高校へも8割。小学校から高校まで順調に上がれる生徒は単純計算で6割台半ばしかいない」と話すのは小学校受験の世界を長年見てきた幼児教室経営者。この名門校に小学校から高校まで通ったのが日本の至宝ともいえる狂言師の野村萬斎(59)だ。
3歳の時に初舞台を踏んだ萬斎が筑付小に合格したのは当然だった。大人に交じって演じることに慣れていた少年は試験会場でもまったく物おじしなかったに違いない。厳しい稽古で培った集中力も並外れていた。落ち着きがないのが当たり前の年頃。同世代の子どもたちからは頭いくつも抜きんでていた。
父・万作(93)には徹底的に鍛えられた。学校が唯一の逃げ場だった。舞台の仕事がしばしば入りながらも、筑付での成績は小・中・高を通して上位だったようだ。「地頭の良さも抜けていた」(筑付関係者)のである。
高校時代は黒沢明監督の映画「乱」にも出演。ロケの最後は高3の冬、大学共通第1次学力試験(現大学入学共通テスト)の直前だった。黒沢監督が空模様に満足できず撮影が延期になり、試験が受けられるか気が気ではなかったという。
大学は東京芸術大学音楽学部邦楽科能楽専攻に進んだ。指導する講師は万作と伯父の萬(95、当時万乃丞)。自伝「萬斎でござる」(朝日新聞社)の中で「父とは、二人でいっしょに登校して、ふだん家でやってる稽古をわざわざ学校でやるのですから、ばかばかしいといえば、ばかばかしかったかもしれません」と振り返っている。
萬斎と同様、3歳で初舞台に臨んだ長男の裕基(25)の学歴も注目すべき点が多い。高校からはロンドンの南にある立教英国学院に留学した。「企業の海外進出が活発になった70年代初頭、英国には日本人学校が一校もなかった。そこで、駐在員の子女が日本にいるのと同じ教育を受けられるようにとつくられた」と立教大元教授は同校設立の経緯を説明する。
父の萬斎も28歳の時、英国留学を経験。シェークスピアなど、向こうの舞台芸術に触れることが狂言にも役立つと思ったからだ。同じことを裕基も感じたに違いない。
立教英国学院は立教大への推薦枠を持っているが、帰国した裕基がそれを使うことはなかった。慶応大法学部に進んだのだ。「親子共演が増え、逆に狂言を忘れる時間が欲しかったのではないか。慶応は比較的、出席に厳しくありませんし……」と慶応大文系教授。同大を選んだ理由としては2歳上の姉・彩也子(TBSアナウンサー)が環境情報学部で学んでいたことも少なからず影響したようだ。
何代にもわたって引き継がれていく伝統芸能の世界で萬斎・裕基親子が新たな境地をどう開拓していくか興味深い。
(田中幾太郎/ジャーナリスト)
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