「代官山のトレースだね」地元同級生からの“皮肉”が刺さる…“私は違う”と信じた女が虚飾に気付く瞬間

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-18 11:45
投稿日:2025-10-18 11:45

信じられない朗報が舞い込む

 それは、突然の連絡であった。

「ネガミさん、おめでとうございます。応募作品を、国際エンタテインメントフェスティバルのメインキャラクターに選定させていただきました」

 開店して3か月。イベントの開催を諦め、相変わらずカフェは赤字状態の中でのこと。

 3年後に開催される国を挙げてのイベントのコンペになぜか朱里の作品が通ったのだという。その募集は、東京にいた2年前に行われており、ダメ元で応募したものであった。

 選考過程は逐一伝えられていたものの、期待しておらず、カフェ開店のバタバタもあり、全く気にしてもいなかった。寝耳に水とはこのこと。

 ――信じられない…うそでしょ??

うそでしょ?――突然、賑わいを見せるカフェ

 そこからは、怒涛の日々であった。

 記者会見、取材の連続。別件イラストの発注まで沸いて来た。

「お姉ちゃんはイラストの仕事に専念してよ。私、コーヒーくらいは出せるから」

 理子のそんな言葉に甘えて、土日だけの営業にしてしばらくカフェの運営を任せることにした。どうせ客はほとんど来ない。育児中の彼女の息抜きにぴったりだと思ったのだが…。

「なにこれ!!」

 東京での仕事が一段落つき、ひさびさに地元を訪れると、店内は多くの若いお客さんで溢れていた。

 どうやら、報道で朱里の名が報じられ、この地のカフェ店主だと聞き付けた人々がこぞってやってきたのだという。理子だけで店が回るわけはなく、家族総出で出動しなければいけないほどにぎわっていた。

「昨日なんてね、お姉ちゃんのお友達のアート作品が売れたの。10万円もする、あのへんなオブジェ。あと、お姉ちゃんがスケッチした海の絵も」

 忙しそうにレモネードをグラスに注ぐ妹の姿。そしてそれをおいしそうに飲むお客さん。作り置いたスパイスカレーも業務用食材も、完売御礼だった。

「もしかして、ネガミ先生じゃない!?」

「地元の誇りです!」大輝の言葉を思い出す

 どこからか声が聞こえてきた。なにげなく店のフロアに姿を見せると、歓声と拍手が朱里を包む。

「おめでとうございます! 地元の誇りです!」

「あ、え…ありがとうございます…」

 笑顔と祝福で胸がいっぱいになる。戸惑いと共に、自分がここにいることで、これだけの人が集まる現実を目の当たりにする。

 ――ど、どうして??

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「生ごみの悩み」を解消する2つの便利グッズ 2023.4.25(火)
 調理中に出る生ごみ、どうしていますか? 昔ながらの三角コーナーを使っている人もいれば、最近は水切りができる紙袋などの便...
圧倒的存在感!! 初上陸の猫島でボス“たまたま”にごあいさつ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
寄り添って眺める景色の美しさ 2023.4.24(月)
「今年もまた春が来たね」と話しかけられる相手がいるって幸せだ。  それは、長く連れ添った相手でもいいけれど、 ...
人のせいにする人は育ちのせい? 上手に付き合う3つの方法
 人の性格や価値観は、それぞれ異なります。どんなタイプの人とも、上手に付き合えるのは理想的ですよね。しかし、何もかも人の...
「時間は無限」だと思っていた学生時代 2023.4.23(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
直前にドタキャンしたくなる人、どきり。「社交的陰キャ」あるある
 控えめな性格の人を指す「陰キャ」と、明るい性格の人を指す「陽キャ」という言葉はもうおなじみですよね。でも最近、「社交的...
耐震マットでヒールが楽になるか試してみた 2023.4.22(土)
 皆さんはハイヒールで歩くのが得意ですか? 筆者の場合、ハイヒールには若干の苦手意識を持っています。  最近SNSで、...
心配性な柴犬くん せつない瞳で何を想う 2023.4.21(金)
 ガラスの向こうの柴犬くん。  目線の先には、憧れのカワサキ・ニンジャ。 「思ったよりも大きいな……。うちの...
洋服の寿命って何年?冬物をクリーニングに出す前におさらい
 洋服が好き! ショッピングも大好き! そんな女性って多いですよね。買うのはいいけど捨てるタイミングがわからず、クローゼ...
心に響かないアドバイスが有益なチャンスに変わる神マインド
 みなさんは素直に聞けないアドバイスはないですか? 私はぶっちゃけいっぱいあります……。もったいないですよね。スッと入っ...
超絶カッコいい!木登り“たまたま”の完璧ポージングにキュン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
職場のコミュ障さんに悶々…上手に距離を縮める5つの接し方
 職場では様々なタイプの人が働いているため、気が合わない人がもいるのもよくあることでしょう。コミュ障(コミュニケーション...
45歳女、5年越しにワイヤー矯正を決断! 2023.4.20(木)
 新型コロナが流行する前、医師から「健康的な自前の歯」を維持するべく、ひとつの選択肢として歯科矯正を勧められたアラフォー...
行き詰まった時は「料理」をするといいよ 2023.4.19(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
花にたとえるならスズランで!幸せ・愛・喜びを全部きやがれ
 細かいことは気にしない性分とはいえ、若い頃に付き合っていた彼氏から「花にたとえるなら、君はドクダミの白い花だね」と言わ...
「ささって」って何ナニ? 混乱必至!県民性ダダ漏れLINE3選
 小さな日本という島国に住んでいるのに、出身地が違うだけで、話し方も習慣も文化も大きく違うものです。違いすぎて、会話が聞...