花より饅頭のストリッパーが恋する乙女に? SNSで毎日見てます…♡

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-10-30 11:45
投稿日:2025-10-30 11:45

釣りに行ったはずが…この胸の苦しさは何?

 今年になって釣りを始めてからというもの、釣り関連アカウント のフォローが増えた。その中の、横浜にある釣具屋のインスタには、カラフルな頭の男性が横浜港の夜景をバックにひょいひょい黒鯛を釣り上げる動画が頻繁にUPされる。

 ファッションも、いわゆる釣りベストに長靴の「釣りバカ日誌」スタイルではなく、ハーフパンツにサンダルと軽やかだ。なにより釣り上げた魚の慣れた扱いと、カメラに向かってはにかむ様が好印象だった。

 そのアカウントで、彼が直接釣りを教えるイベントを開催すると知れば、申し込まないわけはない。

 当日、陽が落ちた横浜の公園へ行くと、ほ、本物がいた! いや、いるに決まっているのだが、い、いたー! という気持ち。なぜだろう、あの人はただの釣具屋さんなのに…。イベントの参加者は15名程度で、ぞろぞろと横浜の海辺を3時間半にわたって釣り歩いた。

 しかし、ほとんどの人が何かしらを釣り上げるなか、集中力を欠いた私は全く釣果が伸びない。結局トボトボと手ぶらで帰宅した。ところが、ひとりで釣りに行き、坊主(※魚が1匹も釣れないこと)で帰った日の落ち込みとは違う。何か、苦しいような、切ないような、この胸の苦しさ。

 魔法みたいに餌のイソメを付けてくれたことや、仕掛けがゆっくりと落ちる静かな時間を共有したこと、帰り際にどこに住んでいるのかと聞かれたことなどを思い出していたら、電車を乗り過ごしたほどだ。

 私は晩飯の黒鯛を釣りに行ったのに、一体何を持ち帰ってしまったの…?

フォロワーは恋に似た錯覚を抱く

これらの実体験から、毎日更新される動画には、フォロワーに淡い恋心のようなものを植え付ける効果がある、と学んだ。

 飲んだ酒や食べた肴だけでなく、積極的に顔出し動画も投稿すれば、私のインスタをうっかり毎日見続けた人が、生の私を見て、まるで憧れの人に会えたような気持ちになるということである。

 冷静に考えると、温泉旅館の若社長も釣具屋の店員さんも、おそらく通常の5割増しくらいで私の目には映っていた。その心持ちで「ほ、本物だー!」と舞い上がるなら、へたくそなダンスも、残念な接客も、大目に見てもらえるに違いない。

「あっ、新井さんっ…!?」と思わず口にして頬を染める人を増やすため、今後はより精力的にインスタグラムの投稿を続けていきたい所存だ。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


気は優しくて力持ちってこんな感じかな
 そして、  思わずほっこりしてしまうのはなぜ?  
ダークヒーロー参上! 木の上から睨みを利かせるアウトロー“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
息抜きは絶対必要!忙しいワーママが自分時間を確保する4つのアイディア
 世の中のワーママは、仕事や家事、育児と朝から夜まで大忙し! 自分の時間なんてほとんどありませんよね。しかし、人には息抜...
「糟糠の妻」の意味は? 出世しても〇〇してはいけないんだゾ
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
ほっこり癒し漫画/第85回「食べる! 食べるでござるーッ!」
【連載第85回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
酔っ払い同士の胸熱&ちょっと恥ずいLINE3選。きのこたけのこ戦争の和解にもおすすめ?
 人はお酒を飲むと日頃心に秘めている本音が出てきますよね。酔っ払い同士のLINEをのぞいてみると、本音同士の面白い会話が...
お互いの「子どもの共通点」に愕然。平凡になったのは元彼と私、どっち?
 新川崎の大規模マンションに暮らす真央。「量産型主婦」を自覚しているが、かつての真央はバリバリの個性派女子だった。そこで...
言われたくない! ただのオジサンになった「元彼からの一言」に怒りが…
 新川崎の大規模マンションに暮らす真央。量産型主婦を自覚しているが、かつての真央はバリバリの個性派女子だった。20年前の...
「浜崎あゆみみたい」って褒め言葉? サブカル女からママ友への小さな抵抗
 かつて京浜工業地帯を支えた巨大な貨物列車ターミナルだった新川崎は、今や「品川から3駅に住まう」などというまやかしのよう...
「奢る代わりに…」急に見せた“男”にドン引き! 仲良かった友達が苦手になった瞬間【LINE編】
 仲良くしていた友達と、LINEがきっかけで疎遠になった経験はないでしょうか? 「こんな人だったの?」という違和感から、...
「センスが悪い」ってモラハラじゃないの? かつての「センスがいい人」はどこに…
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
これは盲点…!カラオケ苦手な人が乗り切る必勝法。カギは「地元」にあり
 気づけばもう2024年も残すところあと少し…。なんか今年早くないですか?? こうやって時間は過ぎていくのかと思うと、本...
総額いくらなの!? 美的の「スキンケア大充実セット版」は韓国コスメの現物も入ってお得感100点満点でしょ
 毎回、付録違いのVer.を発売している美的。12月号は「スキンケア大充実セット版」を購入してみました。  話題の...
40代、職場で地雷女に?「ソフト老害」流行語大賞候補入り、“10のこじらせ言動”に要注意
 職場に一人でも老害と思われる人がいると、雰囲気が悪くなってしまいますよね。2024年の「新語・流行語大賞」の候補には「...
「嫌われる話し方」5選。無意識にやらかしがちだけど、みーんなイライラしているかもよ?
「この人と話を聞くとなんかストレス溜まるんだよな」「会話していてなぜかイライラするの何で?」こんな風に、話していてモヤモ...
チャールズ・ブロンソンみたい! 草原の激シブ“たまたま”にキュン♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...