花より饅頭のストリッパーが恋する乙女に? SNSで毎日見てます…♡

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-10-30 11:45
投稿日:2025-10-30 11:45
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

誰と会っても驚かない私が、どっきーん!

「新井さん?」街中や飲食店で、ふいに声を掛けられることがある。ほんの数日前の出来事でも記憶が曖昧な私は、それが見知らぬ人なのかそうでないのかが一瞬では判断できない。

 おまけに「新井さん」という呼び方だけでは、その人が思う私がストリッパーなのか、書店員なのか、はたまたスナックのママなのかも不明だ。それぞれの仕事で名義を変えていれば、記憶を引き出すヒントにはなっただろうに。

 そして「あっ、先日はどうも」などと、さも分かっているフリをすれば「初対面です」と返され、ズッコケるのだ。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

 ストリップの遠征先である福井県・あわら市では、人口が少ないこともあって、その辺の店に入れば私を知る誰かが大抵いる。東京から出稼ぎに来たストリッパーということで後ろ指を指されることはなく、「おかえり!」と歓迎してもらえるのだからありがたい。

 直接知り合いではなくとも、知り合いの知り合いであることがほとんどで、もはや誰と会っても驚くことはなかった。

 だが、例外もある。年に一度の「湯かけ祭り」は、駅前の広場であわら温泉の湯をぶっかけまくるというワイルドな行事だ。そしてその翌日の夜には、櫓から饅頭を撒くのがお決まりである。節分の豆撒きみたいなものだ。

 公演中の楽屋から饅頭欲しさに抜け出した私は、そこで会った人に、どっきーんと心臓を鳴らした。このときめきはまるで…、LIVE後に憧れのバンドマンの出待ちをして、ついに裏口から出て来た瞬間のようだ!

SNSで見ていた“あの人”が目の前に

 櫓の上から饅頭を撒く法被姿の彼は、温泉旅館の若社長だった。特にイケメンというわけでもなく、どちらかといえば3枚目である。彼は毎日のように自身が出演する動画をインスタグラムに投稿し、あわら温泉へ、そして自分の旅館へ足を運んでもらおうと熱心なPR活動を続けていた。

 インスタはユーザーが興味を示したアカウントを記憶し、次にアプリを開いた時には積極的に表示してくる。そのせいで、なぜか泊まる予定もない宿の若社長を動画で毎日チェックすることになり、うっかり生で見たら「本物だ!」と憧れの人に会ったかのように興奮してしまったのだ。

 飛んできた饅頭が頭に当たっても、ぼうっと彼を見上げていた。おかげで饅頭はひとつも手に入らなかったが、恋する乙女のように小走りで楽屋へと戻ったのである。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


瞬き厳禁! 春到来の歓びを表現する黒“たまたま”を見逃すな
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
松田聖子まさかの中大法学部を卒業! 通信制の学び直しで成功する人は?
 先日、歌手の松田聖子さん(62)が中央大学法学部の通信教育過程を卒業したことが話題になりました。近頃、通信制大学で学び...
スタレビの名曲が聞きたい!仏教と深い関係のある「木蓮」とその仲間たち
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は、ただいま卒業式や送別など春特有のイベント仕事で、いつにも増して花まみれの毎日...
女の敵は女だから?忘れた頃にぼっ発する「専業主婦論争」をガチで考える
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方などをテーマにブログやコラムを執筆しているまめです。  X(旧Twi...
“炎上常連”麻生さん級の「ルッキズム失言」していませんか?
 最近、よく耳にするのが「ルッキズム」という言葉です。政治家や芸能人が、何気なく言った一言で「ルッキズム発言だ」と叩かれ...
春のお花と記念撮影にゃ! ウサギみたいなしっぽの“たまたま”
 きょうは、ウサギ君みたい! しっぽの短いにゃんたま君に出逢いました。  しっぽが短い猫は長い猫と比べると、臆病で...
春まであと少し?
 残雪の甲斐駒ヶ岳を背にすっかり葉も落ちた葡萄畑  春まであと少しが意外と長い
離婚→シンママになり、心底よかったこと4つ 我慢は美徳っていつの話?
 世間では、離婚してシンママになった女性に対して「かわいそう」「大変そう」といったイメージがあるかもしれません。  で...
職場の同僚ランチが苦痛すぎる…一人の時間を確保する4つの冴えた処世術
 業務内容へのストレスより、職場でのランチタイムが苦痛という人は多いですよね。正直、仕事で疲れているのに、休憩時間まで同...
「場所代は200円いただくわ」堅実というかケチ!名目別に徴収するママ友
 ママ友と仲が良いといっても、子どもありきの関係。価値観や金銭感覚など、すべてが合うとは限りませんよね。  中には、マ...
男と女の物語、だからこそ「娚」の当て字が使われた
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり癒し漫画/第70回「すぷりんぐファミリー」
【連載第70回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
家庭の派閥争い…夫の“ポカリ甘すぎ、アクエリアス!”に猛反対する妻
 混沌とした世の中。世界で起こっている戦争や紛争だけでなく、会社やネット上のコミュニティーでもあらゆる「派閥争い」が繰り...
ストリッパー、Airpodsおじさんに学ぶ。
 AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。  なにそれ...
40代が自分の老いを実感した切ない瞬間4つ 運動は得意だったのに(涙)
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。特に若い頃に運動が得意だった人は、頭では動けると思っているの...
別れる時くらい言いたいことを言う? それとも…
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...