「100均があれば十分」その幸せは本物なの? 専業主婦に差し伸べられた港区からの“禁断”の誘い

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2026-02-07 11:45
投稿日:2026-02-07 11:45

「100均があれば十分」本当に望んだ生活なの?

 静かな嘆きに、フォローの言葉が思い浮かばなかった。

 容姿端麗なモデル男子や、年収2000万越えの商社マンや経営者からの求愛を蹴ってまで、彼女はこの色のない街での、庶民的な生活を求めていたのだろうか。

 シャネルのコフレは、いまだ手つかずのまま。まさかこれを出産祝いにあげたことを、都会暮らしのマウントだと不快に思われたのだろうか。出産祝いは、子どものものよりママ向けの方が喜ばれると、ネットで書いてあったからそうしただけ。だとしたら悪いことをしてしまった。

「…でもね、結局ひきこもり生活だから、何もない方がいいのかも。生活のものは十分すぎるほど事足りる場所だよ。西松屋と100均さえあれば十分」

 優梨愛の最近の趣味は、ハンドメイドで天然石を使用したアクセサリーを作ることだという。製作したピアスやペンダントを見せてくれた。

「いいでしょ。欲しいのがあったらどうぞ」

 奈江にとっては、どれもイマイチだった。まるで子供の工作だ。消去法でローズクォーツがふんだんにあしらわれたブレスレットを手に取る。

「やっぱり? 奈江ちゃんは、絶対それ選ぶと思っていたよ」
「はは…」

 自覚できるほどの乾いた笑いをする。無になった心で、

 ――ほんとに暇そう…。

 目の前で、微笑む優梨愛。本当に彼女はそれで満足しているのだろうか。心が枯れないように、幸せだって思い込んで、無理やり笑っているんじゃなかろうか。

 奈江はかつてのキラキラした優梨愛の笑顔を脳裏に思い浮かべる。

 今はいいかもしれない。蓄積された不満が、いつか爆発する日がきっとくるかもしれない。最悪の予感がよぎった。

 すると、奈江のスマホが短く揺れた。ビーチフラッグのごとく、すぐスマホを手に取る。

ヴァンクリは「大黒屋」に売ってしまった

『――別にいいよ、遅くなるけど』

 送り主は西本。昨晩の夜に『明日会えない?』と連絡して、待ちに待った返信だった。

「彼氏?」

 優梨愛の声で我に返る。

「う、うん」
「いつから? どんな人?」
「ナイショ。ちょっと前に知り合った、経営者の人だよ」

 奈江は今すぐにでも返信したかったが、どこか気が引けてスマホを伏せた。

「さすが。そのヴァンクリも彼から?」
「まぁ…」
「やっぱり? 本当にかわいいね!」

 優梨愛は奈江の胸元のネックレスに目を細めた。本当は自身で購入したものだ。ボーナスをはたいて、しかも、二次流通で。

「優梨愛も結婚前はこういうの、いろいろな人からもらっていたでしょう? 言い寄られていた人、いっぱいいたじゃない」
「全部大黒屋で売ったり、本人に返しちゃった。結婚式でお金使うし、もういらないから」

 ふぅと、優梨愛が大きなため息をついたのを、奈江は見逃さなかった。

 優梨愛はかねてから強い結婚願望があったと西本から聞いている。言い寄った男には、全員に「結婚前提」を求めていたとか。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


猫は本当に「ネコジャラシ」にじゃれるのか 2021.10.2(土)
 道端でよく見かけるエノコログサ。一説によると、花穂がえのこ(犬の子、子犬)のしっぽに似ていることなどが転じて「ネコジャ...
ドタキャンしてしまう時…信頼関係を壊さない対応マニュアル
 やむを得ない理由で、ドタキャンしてしまう時ってありますよね。ドタキャンを避けようと早めに連絡したつもりでも、どこからが...
台風一過の陽だまりで恋の季節に備える若い“にゃんたま”たち
 台風が去った後の穏やかな秋晴れ。  聞こえてくるのは遙か上空を飛ぶ微かな飛行機の音だけで、きょうはとっても静かで...
ビジネスメールを間違えた! 困った時の対応方法&参考例文
 個人のメールに比べて、ビジネスメールを送信する時はいつもより慎重に内容を見直す人が多いでしょう。でも、やっぱりミスは起...
比較!スポーツフード資格取得なら“スポーツフードマイスター”が人気♪ 魅力や取得方法、おすすめ通信講座は?
 活躍するスポーツ選手を見ると、ハードなトレーニングばかりが取り上げられがちですが、実は同じくらい重視されているのが「食...
色も香りもチョコレート♡大人の魅力あふれる花が幸せを運ぶ
「今回の新婦さん、結構なオトナのご年齢です」——。ブライダルブーケを制作するにあたり、ご希望の花材やお色のほかに前情報と...
「シングルマザー」はかわいそう? 世間は意外に優しかった
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
寝すぎて眠いにゃ…陽だまりでぼんやり中の“にゃんたま”様
 すっごい良く寝た~。今いつ? 昨日からずっと寝ていたような?  きょうは、ぽかぽかな陽だまりでたくさん寝すぎて、...
家電で生活の質UP♡自粛期間に買って良かったおすすめ家電3選
 1年間半近く、旅行はもちろんのこと、飲み会にすら行っていません(泣)。しかし、そこに使うはずだったお金を家電に使ってみ...
食育のプロ!“食育健康アドバイザー”ってどんな職業? 仕事や育児に活かせるおすすめ食育資格講座をご紹介♪
 近年、仕事や育児に「食育」を役立てたいと思う女性が増えています。生活の基本となる「食」を学ぶことは、自分や家族の健康を...
本当に今なの?無理してでも頑張るべきタイミングの見極め方
「頑張る」「踏ん張る」「無理をする」という言葉に対して、どんな印象があるでしょうか。もしかしたら、ちょっとしんどい響きに...
「俺んとこ、来ないか」お出迎え“にゃんたま”の向かった先は
 きょうは、初めて上陸する猫の島。  緊張しつつ港に着くと、お出迎えのにゃんたまω様が待っていてくれました。 ...
いつでも堂々と…彼岸花が持つ美しさと強さ 2021.9.22(水)
 9月半ばを過ぎ、家の周りで彼岸花を見かけるようになりました。  川べりの草むらや、ちょっとした植え込みから顔をの...
花屋が伝える…ペットを亡くした知人の悲しみに寄り添う方法
 花屋というお商売をさせていただいておりますと、さまざまな方の喜びや悲しみの場面に立ち合わせていただく機会がとても多いの...
おトクで感激♪ 3COINS&ASOKOの便利なオシャレ雑貨7選
 3COINSのオンラインストアを見ていると、ASOKO(アソコ)という雑貨屋の商品も一緒に購入できることが判明! とい...
権力者の威勢をアピール!ボスのクールな横チラ“にゃんたま”
 きょうは、昨年秋のにゃんたまωの思い出。  ボスにゃんたま君は、怒っているのでもケンカをしようとしているわけでも...