長い連載を書き終えて…心の傷と向き合う痛み、新しい出会い

うかみ綾乃 小説家
更新日:2020-03-26 06:04
投稿日:2020-03-26 06:00

 Gをセクハラパワハラで訴えるか否か。現在、弁護士たちと協議を重ねているところです。つくづく、訴訟を起こすには多大な時間と労力が費やされるものです。そして、心の傷が上塗りされます。

 世間からの二次被害も予想されますが、たいていの傷は受けたときよりも治療中のほうが意識がはっきりしているもので、痛みを正確に覚え直します。そこにある自分の愚かさ、弱さ。さらに、逃げ場を塞いでいたGの周到な計算に改めて気づきます。

「あのときも嘘をついていたのか」「誰々のあの言動は、Gが自分に都合よくしていた私の話を、信じ込んでいたからか」

 そして起こるフラシュバック。フラッシュバックとは、まるで映画を何度も観返すような感覚です。観れば観るほど映像が鮮明になり、見逃していた風景の一部や相手の表情を発見します。そのときは見逃していた言動が、べつの場面の伏線であったことにどんどん気づき、おとなしく映像の中にいた自分を唾棄します。

 精神的な病を抱えている患者の中には、医師との問診で過去と向き合うことによって、フラッシュバックが加速し、症状が悪化する方も多くいます。

新たな被害者の女性に伝えたいこと

 泣き寝入りはごめんだ、との思いはあります。ただ一方で、今後どうするかを考えたときに、Gなどを念頭に置きながら生活し、過去の解決に向けてエネルギーを費やすよりも、いまの自分の人生を生きることに集中したい、との思いも抱いています。

 少なくとも今回のことで、私のために泣いてくれる人や、動いてくれる人の存在を知りました、そして、捨てるべきものを捨てられました。この出来事があった以前の自分よりも、誇りを持って生きている実感があります。泣いてはいないのだから、泣き寝入りではないのかもしれません。ちゃんと笑って起き上がっている気がします。

 気になるのは、この件でGを調査した関係者によると、現在、彼女によってまた新たな“被害者”が出ているとのこと。

 私がいま願うのは、その女性が、早めの段階で周囲にSOSを出すことです。私からその人に声をかけることは出来ません。私はもうGたちとは敵対関係になっているので、その女性の真意(このまま仕事を続けたいのか、我慢し抜く力があるのか、あるいはすぐに逃げ出したいのか)がわからない以上、こちらのフィールドに他人を誘うことは出来ません。

 ただ、中途半端なSOSには中途半端な反応しか返ってこず、ますます傷つくことになります。彼女がSOSを出したいのなら、どうか傷つきすぎないうちに、勇気を出して、はっきりと誰かに、「助けて」と言ってほしい。

 SOSが伝わらない相手もいます。でもそれは、伝わる相手ではなかっただけのこと。私は勇気を出して逃れた先で、自分と同じ亡命者と出会い、支え合うことも出来ました。

 もう我慢はしない。このシンプルな言葉を、つかんでもらいたいと思います。その言葉の手前で、私は待っています。

終わりに

 長い連載となりました。書きはじめた当初は、この件もそろそろネタに出来るほど過去のものになったかと思っていましたが、続けるうちに、やはりトラウマが蘇ることもありました。

 ですが、読んだ方から、自分も似たような経験をした、と、辛い気持ちを吐き出していただいたり、話しながら互いに笑い合ったりと、良い出会いを得られた連載でもありました。誰かが吐き出して、笑えるために、真剣に書いてきて良かったと思っています。

 続きを書くこともあるかもしれません。そのときはまた読んでいただければ嬉しいです。さて、ひとまずは通常運転に戻ります◎

うかみ綾乃
記事一覧
小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

ライフスタイル 新着一覧


嫌われない?大丈夫? 友達に送ったドタキャン連絡LINE5つ
「今日の予定、面倒臭い。ドタキャンしたいなぁ……」と思うことってありますよね。そんな時、「どんな言い訳で断ったら、不自然...
コロナ禍の敬老の日に何を贈る? ド定番アイテムとその理由
「私ってそんなに老けて見えるのかしら?」  猫店長「さぶ」率いる我が花屋。ご来店なさったお客様から会うなり質問され...
他人の服を汚した時の4つの対処法!トラブルを避けるには?
 うっかり飲み物をこぼしてしまったなどで、他人の服を汚してしまうと焦りますよね。特に、相手が激しく怒ってしまった場合には...
“にゃんたま”のあとを追って思い出す…ジブリ映画の名ゼリフ
 きのうもきょうも、にゃんたまωのあとを追う!  私はたまに、ジブリ映画「耳をすませば」の“ある台詞”を思い出しま...
ダイソーの「もしもノート」を買ってみた 2021.9.12(日)
 先日、ダイソーで「もしもノート」なる商品を見つけました。  その名の通り「もしも」の時に備え、自分の情報を記すも...
“攻める女”瀧内公美<前>「このままでは役者生命が続かない」
 映画『火口のふたり』(2019年、R18+指定)で柄本佑さん(34)と主演を務め、第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女...
“攻める女”瀧内公美<後>「褒められると危険を感じてしまう」
 女優、瀧内公美さん(31)の主演映画『由宇子の天秤』が、9月17日より渋谷ユーロスペースにてロードショー(ビターズ・エ...
嫁姑バトルはLINEでも!嫁が送ったスカッとする返信5選
 核家族化が進んだ現代では、嫁姑が同居しているケースは少なくなっていますよね。にもかかわらず、嫁姑問題は今も変わらず根深...
人気ホステスたちに学ぶ!義理や恩とのほどよい付き合い方
 義理って大切だと思いますか? 私はとても大切なことだと思っていて、恩を感じている人にはなるべくたくさん返したいと思って...
夏を見送るちょっぴりセンチメンタルな“にゃんたま”をパチリ
 夏が去りゆくきょうは、白い砂浜が広がるビーチ入口で、夏を見送るにゃんたま君です。  彼は、幸運をひっかけてくれる...
スポンジがダメにならないカレー鍋の洗い方 2021.9.9(木)
 カレーは、簡単に作れておいしいのでサイコーですよね。唯一の欠点を挙げるならば、食べ終わったあとの「鍋」だと思います。後...
縁起が悪いっていうけれど…実はご利益たっぷりな「菊の花」
 花屋でお客様の接客をさせていただいていると、「お悔み用」の御用途で花束やアレンジメントをお買い求めにお客様が毎日いらっ...
柄本佑が語る!<後>芝居も生き方も「3割の余白と逃げ道を」
 黒木華さん(31)と柄本佑さん(34)が夫婦役で初タッグを組んだ映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(ハピネ...
柄本佑が語る!<前>映画人なら腐るほど役者さんを観ないと…
 黒木華さん(31)と柄本佑さん(34)が夫婦役で初タッグを組んだ映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(ハピネ...
苦しくないの? 猫の「ごめん寝」姿を愛でる 2021.9.7(火)
 雨が続き、ちょっと肌寒さを感じる9月のある日。愛猫もんさまがまたしても変な恰好で寝ていました。  まるで土下座謝...
シャープな後ろ姿がカッコイイ!“にゃんたま”のデートを激写
 日差しは強いけど、海を渡って来る風が気持ちいい。きょうは、若いふたりのデート中にお邪魔しました。  キリリと小粋...