いつだって離婚する
H美さんの言葉に、一同の男女が感心しています。(前回の話はこちら)
「やっぱりなぁ。さすが心が広いというか、腹の据わり方が違いますね」
「だって私はもう、妻というよりマネジャーみたいなものだもの。だいたい恋に盛りあがった人間は止められないでしょ。そのエネルギーを彼は仕事に活かせる人だもの」
「すごい」「奥さん、格好いい」
確かに、片想いでも人は勝手に盛りあがるし、ましてや好きな人と両思いになったときの万能感ったら凄まじいです。
「でも、焚きつけなければ、いつもの気分だけのプチ浮気で済んでいたんじゃないですか?」
ちょっと失礼だったかもしれない私の問いに、H美さんは、
「J子さんの写真って、なんとなく影があるでしょう。Kがハマるタイプだと最初にわかったし、彼女もバッグなんかでほだされる女の子じゃないと思うのよ」とにっこりします。
「離婚はしないんですか?」
「いつだってするとKには伝えているの。でもJ子さんのほうが、Kとの結婚をためらっているんですって。それでいつも言い合いになって、Kが泣いて帰ってくるの」
その後も、KさんとJ子さんは続く中、J子さんがだんだん痩せていくのは周囲の目にも明らかでした。
割れたグラスの欠片で切った指を…
奥さん公認の不倫なので、誰も彼女を非難しませんが、その分、多少、生活や心が不安定でも、いまはそういう時期なんだろうと、いわゆる大人の距離感というか観察者的な目線で、ふたりのことを眺めていました。
当時、私は一度だけJ子さんと仕事で一緒になり、数分間、ふたりきりで話したことがありました。
彼女の右手の人差し指と中指の先に巻かれた絆創膏について訊くと、
「昨夜ね、大切にしていたグラスをうっかり割っちゃったんです」
彼女らしい、愛嬌のある大きな目で、真っ直ぐこちらを見て言います。
「欠片を拾ったら、指から血が出て。そのままキッチンの床で、指の匂いを嗅いだんです。血が出てすぐのときから、血が止まっていくにつれて、だんだん指の匂いが変わってきて……」
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