井筒監督8年ぶりの新作は「昭和のヤクザ」
映画「パッチギ!」(2005)や「黄金を抱いて翔べ」(2012)など、一貫してアウトサイダーを描き続けてきた、井筒和幸監督が8年ぶりにメガホンを執った本作。作品を鑑賞して最初に驚かされるのは、物語の中心人物となる井藤正治を演じている初代EXILEのパフォーマー、松本利夫さん。おそらく公開を楽しみに待つ人が予想する以上に“EXILE感ゼロ”で、昭和のヤクザを振り切って演じています。
貧しい少年時代を送った正治が一家を構え、似たような境遇のはみ出し者を束ねて裏社会を駆け上っていくという、男くさい重々しささえ感じさせる物語の中で一服の清涼剤的役割を担っているのが、柳ゆり菜さん。正治の妻・佳奈役を演じていて、女性キャストが少ない中で名演技を魅せてくれているのです。
正治は車内から見た佳奈に、「お尻が大きい」と一目惚れ。正治が猛アタックの末に恋人同士になりますが、このときの佳奈はまだ、ホステスをしている“お姉ちゃん”。ですが、正治が幾度も刑務所に収監されるたび(何回、入ったら気がすむの? と思うぐらい繰り返します・笑)、一家の“姐さん”として成長し、君臨していくのです。
“姐さん”といえば、「鬼龍院花子の生涯」の故・夏目雅子さんや、「極道の妻たち」シリーズの岩下志麻さんが代表格かもしれませんが、柳さんが演じた佳奈は、これらの作品とはやや別物。次第に顔つきには風格が出てきますが、ホステス時代のまろやかさやなまめかしさは失われないのです。舎弟が悪いクスリを持っていると知ったときも、再犯しないようクスリを捨てさせて、威厳を持ってこってりと絞るのみ。ナイフや拳銃は扱いません。独自の“姐さん像”を確立したといっても過言ではないでしょう。
井筒監督は写真と動画をひと目見て柳さんのキャスティングを決めたそうですが、YouTubeでは柳さんの演技力も絶賛。動画で語っていますが、井筒監督が太鼓判を押す柳さんの演技力は、幼少期の体験が影響しているそうです。
柳ゆり菜はプロダンサーになるのが夢だった
柳さんは2013年のデビュー以前、9歳から18歳まではプロダンサーになることが目標だったそう。ですが、「ダンスで生活はできない。仕事にしたらダンスを嫌いになってしまう」と悟ると同時に、「自分にはダンスで鍛えた表現力しかない」と自覚。生活する道を模索している最中で、幼い頃の家庭を思い出したそうです。
お父様は大阪のミナミでバーを経営し、お母様も働く共働き一家の唯一の休日は、日曜日。この日だけは家族一緒に映画を鑑賞することが習慣になっていたらしく、身につけた表現力を活かすため、女優を目指して芸能界入りしたそうです。「原体験を振り返ることで大切な価値観に気づき、夢が見つかる」という説の、典型例のような人生かもしれません。
女性も釘付けになる!無頼たちの生き様
女性キャストが少なく、佳奈が登場すると画面が華やぎます。理由は男性目線で描かれているからで、第一印象は男性向け? と思われるかもしれませんが、怒涛の展開で女性も目が釘づけになります。コロナ禍でティッシュペーパーやトイレットペーパーが売り切れ続出となりましたが、本作では1970年代に二度あった、「オイルショックと呼ばれるトイレットペーパーの買い占め騒動も描かれているため、「昭和時代は自分とは無関係」と考える人も共感できる点も魅力です。
昭和に実在した(かもしれない)、荒々しくも男らしい無頼たちの生き様を、迫力満点の大きなスクリーンで鑑賞してみてください。
12月より全国順次公開予定(R15+指定)。配給:チッチオフィルム
出演:松本利夫、柳ゆり菜、中村達也、ラサール石井、小木茂光、木下ほうか、升毅ほか。監督&脚本:井筒和幸
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