「二人きりになるんだな」と思った夜
すると、後ろから「肩車代わりましょうか?」と、男性の声。振り向くと、30代後半くらいのカップルがいました。横にいた彼女が「この人、体力あるし、甥っ子ちゃんをよく持ち上げてるから、大丈夫ですよ!」と。
正直、限界だった首と腰。たぶん、心も。いつもなら「重いから大丈夫です!」なんて遠慮してしまうところですが、素直にお願いしました。
「見えるかな?」と聞く背の高いがっちりした男性に、「たかーい!」と、はしゃぐ息子。終わるまでの数分間、ずっと片方の肩に乗せてもらいました。
その間、「シングルマザーだと思ったのかな(もうすぐそうなるけど……)」「息子は嬉しいだろうな」「せっかくのデートだろうに申し訳ないな」「きっとこの男性は子煩悩なパパになるんだろうな」なんて、いろいろと考えてしまい、キャンドルナイトなんてうわの空でした。
お礼を伝えて別れた後、小さな手をつないで車に向かいながら、心がぼんやりとしました。夏の終わりの軽井沢の空気は少し冷たくしんとしていて、ついセンチメンタルにもなるものです。
そんな気持ちを息子に悟られないように、いっぱい話しかけたり、歌を歌ったりしながら。でも、なんというのか、ただ「二人きりになるんだな」って思った夜でした。
“引け目”を感じてもパパの代わりにはなれない
シングルマザーになると、「パパにもママにもならなきゃいけない」って、気張ってしまいがちです。それは、パパへの“引け目”であったり、我が子への申し訳なさであったり、仕事と育児を頑張る自分への誇りのようなものでもあるかもしれません。
でも、どうしたって背はぐんと伸びませんし、ボールも上手に投げられません。もちろん、低い声だって出ません。
パパはパパ。どうやっても、代わりにはなれないのです。
「かわいいママ」でいるだけでいいのかもしれない
失敗ばかりで、息子に忘れ物もしょっちゅうさせるし、忙しい時にはイライラもするし、趣味のポケモンGOをダラダラやりながら寝落ちしたりもする私ですが、息子はしょっちゅう「かわいいママ」って言います。
「へーーー」と、そのたび驚いてしまいますが、息子にとってはそれだけでいいのかもしれない、とまで思える最近。
紆余曲折ありましたが、いつの間にか私は、自分が作り上げた「パパ」と戦うことをやめていました。
今、あの軽井沢と同じような場面があったら、「ママも背が低くて見えないなー」と言うでしょう。むしろ、今なら息子は肩車を辞退してくれるだろうとも思います。
子供はよくわかっています。そして、「ママ」に「パパ」になってほしいだなんて、思っていません。つまりは「ママ」というだけで、きっと足りているんです。
とはいえ、悩んだことは無駄にはなりませんでした。
パパへの“引け目”の落としどころを早めに見つけられたら、ママにしかできないことをたくさん感じてがんばれますから。
なんといっても「ママ」は世界でひとりだけですし! だから、自信を持って進みます。
(文;孔井嘉乃/作詞作曲家 イラスト:こばやしまー/漫画家)
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