松重豊は福岡の人気私立「西南学院」から明大文学部に 学費の問題で日大芸術学部は断念
【あの有名人の意外な学歴】番外編
松重豊(俳優/62歳)
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「福岡は昔から教育熱心な家庭が多く、中高一貫校や難関高校への受験が盛ん」と話すのは地元の学習塾経営者。県内偏差値トップの私立中高一貫校の久留米大付設はホリエモンこと堀江貴文氏やソフトバンク創業者の孫正義氏が在学していたことで知られる。高校から入った孫氏は2年の時に中退し、米国に留学している。なお、孫氏や堀江氏が在学していた頃は男子校だったが、現在は共学になっている。
受験熱が高い福岡で久留米大付設とともに常に人気上位にくるのが俳優・松重豊(62)が高校から入学した私立中高一貫校の西南学院だ。松重が通っていた時代は男子校だったが、久留米と同様、共学化している。
2012年から続くドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京系)でずっと主演を務め、押しも押されもせぬ大御所となった松重。その落ち着いた風貌からは想像できないが、かつてはパンクロック少年だった。福岡市の公立中学に通っていた時、友人から英パンクバンドのセックス・ピストルズのレコードを借り、すっかりはまった。中3ですでに身長は187センチあった。バンドを組めば目立っていたに違いないが、そうはならなかった。楽器も弾けず、歌も下手くそだった。くせ毛のために、セックス・ピストルズのシド・ビシャスのように髪の毛が立てられないのが本人は不満で、ミュージシャンへの道はあきらめた。
西南学院高校に進学してからも、パンク少年の心意気だけは残っていた。「キリスト教系ながら、生徒の自主性を重んじる学校」(前出の塾経営者)として知られ、松重も自由を満喫した。3年の時に福岡出身の石井聰亙(現石井岳龍)監督の映画「狂い咲きサンダーロード」を見てパンク魂が揺さぶられた。
映画監督になりたいと思った松重は、石井監督と同じ日大芸術学部に入ろうと考えたが、結局断念する。学費が想像以上に高かったからだ。そこで目指したのが、ずっと安く済む明治大文学部だった。同学部文学科演劇学の卒業生には日芸中退の石井監督と同じくらい尊敬する唐十郎がいた。ちょうど時代は小劇場ブーム。唐、寺山修司といったアングラ界のカリスマたちに憧れていた。
無事、明治大に合格した松重はさっそく、自身の劇団を旗揚げ。まったく芽が出なかったが、この頃さまざまな人物と出会う。ザ・ブルーハーツを結成する前の甲本ヒロト、日芸の三谷幸喜……。法政大の学生だった甲本は下北沢の中華屋のバイト仲間。松重が初めて監督を務めた「劇映画 孤独のグルメ」(今年1月公開)では甲本の所属するザ・クロマニヨンズが主題歌を担当した。また、三谷が東京サンシャインボーイズを立ち上げる際には役者として参加した。
明治大を卒業した松重は蜷川幸雄が主宰する劇団に入団。在籍したのは3年半だけだった。当時の蜷川は若い劇団員を「3年で野に放つ」方針をとっていた。劇団を出された松重は建設会社に就職。現夫人との結婚資金を貯めるためだった。役者仲間の勝村政信から説得され、再び芝居の世界に舞い戻ったのはその1年半後だった。
(田中幾太郎/ジャーナリスト)
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