はぐらかしては魔法のように忘れさせる日々
離婚後、実家に引っ越してからというもの、「マンションに帰りたい」「パパのところに行こう」そんなことを息子は普通に口にしました。そのたびになんと言ったら良いのか分からず、言葉を濁し、はぐらかし、気を逸らし、その場をおさめていた私。
子供ですから、何かほかに面白いことがあれば、すぐに忘れて別のことをはじめます。毎回、私に魔法のように忘れさせられてしまう息子を見ると、なんともいえない気持ちになるものです。申し訳なさだったり、罪悪感だったり、私自身は後悔がなくても、私が決めたことでこの子の人生が変わってしまったんだなぁと思ったり。
カブトムシの季節はとっくに終わっていて、森に行くことを叶えてあげられないのも、嘘をついたようで心が重い原因でした。この先、何度もこれが繰り返されるのかと思うと、やっぱり憂鬱で、一筋縄ではいかないことだなぁと感じました。
「ママとパパは、結婚やめたんだよね?」
……と、無垢な我が子に翻弄された離婚直後でしたが、しばらく経つと、息子はマンションのことをあまり話さなくなりました。
「もう忘れたのか! やっぱり子供は柔軟だなぁ!」と楽観視していたのですが、離婚から1年ほど経ったある日、息子から突然「ママとパパは喧嘩をしたんだよね? だから、結婚やめたんだよね?」と、質問されました。
私は、「うん、そうだよ!」と明るく返答したものの、ドキドキ。
その時まで、私から喧嘩(離婚)のことを話したのは一回きり。あの時の会話を覚えていたことにも、実は理解をしていたことにも驚きました。いや、もしかしたら、それまでの雰囲気を察して、だんだんと理解したのかもしれません。
子供が成長するにつれて、抱く疑問は変わってくる
現在、6歳になった息子。「離婚」という言葉こそ口にしませんが、時々思うところがあるようで、「ママはもう結婚しないの?」「パパは◯◯とぜんぜん遊んでくれなかったの?」なんて、ズシンとした重たい質問を軽ーく投げかけてくることがあります。
そんな時、私は、今の息子が理解できるであろう言葉を使って、丁寧に答えるようにしています。
また、息子が離婚に関してどう思っているのか知りたい時には、あえて私から話を持ちかけてみたり、「ママとパパは勝手に喧嘩しただけで、◯◯にはまったく関係ないからね」など、追加の説明をしたりもしています。
子供が成長するにつれて、抱く疑問が変わってくるのは当然のことでしょう。離婚当時、そこまで予想していたわけではないですが、離婚話をタブーにしなかったことで、「聞けない」というストレスをお互いに抱えないことにつながったのかもしれません。
大人になった時に覚えていることを前提として話していく
両親から離婚を伝えてもらったという友達の話を聞くと、「お母さんとお父さん、どっちと暮らしたい?」など、その時の状況や会話を覚えている人が多いことに気がつきます。
ドライブ中、私から「ママとパパは喧嘩して仲直りができなくなっちゃった」と言われたことは、もしかしたら息子の中で、一生忘れられないシーンのひとつになるかもしれません。また、「結婚やめたんだよね?」と自ら質問した時のことも、ずっと覚えているかもしれません。
そう考えると、息子が大人になった時に覚えていることを前提として、これからも離婚については真摯に話していくのが良いのかなと、今は思っています。
正解はわかりません。ただ、私は「今、手の中にいる小さな子供」ではなく「いつか、手を離れて大人になる子供」として、接することを心がけています。それは離婚話云々ではなく、いつでも。それが、私と息子の形です。
(文;孔井嘉乃/作詞作曲家 イラスト:こばやしまー/漫画家)
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