夫の浮気に苦しみ…出張ホストとのデートで「ひとりの女」に

蒼井凜花 官能作家・コラムニスト
更新日:2021-11-05 06:00
投稿日:2021-11-05 06:00

俳優のようなイケメンが

エスコートされながら街を(写真:iStock)
エスコートされながら街を (写真:iStock)

――続けて下さい。

「当日、私は鮮やかなオレンジ色のワンピースで行きました。自分でもお気に入りの一着で、朝からドキドキです。夜遅くならないよう、夕方四時に駅で待ち合わせしました。

 先方にはあらかじめ「オレンジ色のワンピース」と伝えていました。四時少し前になり、ジャケットをラフに着た長身スリムな男性が歩み寄ってきたんです。

 胸が高鳴りました。写真で見るよりスタイルがよく、クールな顔立ちは俳優と言っていいほど。彼は私の前に立つと「T子さんですよね。初めまして、タクミと申します」と丁重に挨拶をしてきたんです。

 私は動揺を悟られないよう、笑顔で『T子です。今日はよろしくお願いします』と言いました。今思い出しても笑ってしまうほど、本当にドキドキが止まらなくて……それだけタクミ君のオーラに圧倒されていたんですね。

 駅を出ると、お茶でも飲もうということになってカフェに向かったのですが、さっそく『荷物、持ちましょうか?』と気遣ってくれたり、さりげなく車道側を歩いてくれたりと、最初から完璧にエスコートしてくれました。ますます胸がキュンとしてしまって……」

タブーな質問にも紳士的に対応

整った顔立ちと声に魅力を感じ…(写真:iStock)
整った顔立ちと声に魅力を感じ… (写真:iStock)

――いい出会いでしたね。

「はい、本当にラッキーでした。カフェに入り、テーブルを挟んで真正面から彼を見ると、その美しい顔立ちにさらに心が弾みました。今どきの若い男性ってお肌がツルツルなんですね。

 涼やかな瞳に高い鼻梁、顔も小さくてかっこいいのに、笑うと子犬のように可愛い。もう目の保養ですよ(笑)

 舞い上がっている私を、タクミ君は始終気づかってくれました。

 二人でコーヒーとチーズケーキをオーダーしてデートが始まったのですが、何を話していいのか迷っていると、タクミ君のほうが『オレンジ色がお似合いですね。暖色系がお好きなんですか?』とニッコリ。

 私もつられて『ええ、明るい色が好きなんです。今日はオシャレしてきちゃった』と素直に会話していましたよ。以前、有名ホストの会話術に『お客様の女性に、年齢と職業は訊かない』とありましたが、タクミ君もちゃんと守ってくれている感じです。

 私の年齢はもちろん、職業などのバックボーンには一切触れてこない。ちゃんと距離を取ってくれていると好感を持ちました。

 むしろ、私のほうが彼に興味津々で『タクミ君は、出張ホストのみを?』とタブーな質問をしてしまいました。

 一瞬困ったように笑った彼ですが、紳士的に『実は本業は役者をやっているんです。小さな劇団に所属しているんですけどね……それだけでは生活できないので、時間のある時に出張ホストをしているんです』とのこと。出張ホストは登録制で、昼間は会社員をして夜だけ働く男性もいるようです。

『タクミ君のルックスなら、役者は納得』と思いましたね。どこの劇団なの?と喉まで出かかったんですが、そこは我慢して訊かずにいました。

 会話は、最近観た映画やドラマの話、グルメ情報など、他愛のないことですが、会話の内容を忘れるほど、私は彼の整った顔立ちに引きこまれました。

 先ほども言いましたが、クールなのに笑うと可愛いんです。

 それに役者さんだけあって、声も素敵。低くてよく通る声にますます魅力を感じてしまって……。

 男の人の魅力の一つに『声』がありますが、彼は声優でもイケるじゃないかと、惚れ惚れしました」

妻でも母でもない「ひとりの女」でいたい

思わず肩に寄りかかり…(写真:iStock)
思わず肩に寄りかかり… (写真:iStock)

――続けて下さい。

「しばらくするとカフェを出て、代官山デートを楽しみました。彼のほうから手を握ってくれて……私も思わずキュッと握り返しましたね。最初は普通のつなぎ方だったんですが、信号待ちをして歩き出す瞬間、彼のほうから五本の指を絡めた『恋人つなぎ』をしてくれたんです。

 内心『きゃっ』と思いましたよ。もう、トキめく一方です。

 彼があまりにカッコいいせいか、もしくは私のような年上女性とのカップルが珍しいのか、何人もの女性が視線を向けてきましたね。ちょっと優越感をいだきました(笑)

 でも、彼は周囲の視線を気にすることなく、エスコートに徹底してくれました。

 ブティックに入って『この服、T子さんに似合いそう』とか、時々立ち止まって『足、疲れていませんか?』とか……仕事とはいえ、嬉しかったです。

 2時間のデートももう終わりに近づいたころ、二人で西郷山公園に行って高台からの眺めを楽しんだんです。

 暮れなずむ空がとてもきれいで……私、思わず彼の肩に寄りかかりました。

 清涼感ある香水がふんわりと漂ってきて、夢心地。今だけは妻でもない、母でもない「ひとりの女でいたい」としみじみ思ったものです。

 駅まで送ってくれた彼との別れ際、私は、封筒に包んだ料金をそっと渡しました。彼が中身を確認するのを待って、私「あの……よかったら、またタクミ君を指名していい?」と訊いていました。

 続きは次回。

蒼井凜花
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官能作家・コラムニスト
CA、モデル、六本木のクラブママの経歴を持つ異色の官能作家。近著に「CA、モデル、六本木の高級クラブママを経た女流官能作家が教える、いつまでも魅力ある女性の秘密」(WAVE出版)、「女唇の伝言」(講談社文庫)。
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