すいかばかと呼ばれる男<1>生産量ワーストの地でなぜ勝負?

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2022-06-24 23:49
投稿日:2022-04-19 06:00
 夏の定番フルーツといえば、すいか。女性の好きなフルーツランキングなどでも、いちごやマスカット、メロン、ももなどと並んで上位にランクインする人気のフルーツだが、ご存じだろうか。
 山梨県のすいかの生産量は全国で最下位の47位。その山梨県北杜市で、ひとりこだわりのすいかを作る男がいる。寿風土(ことぶきふうど)ファームの小林栄一さん(56)である。

結果がわかるのは一年に一度のみ

 人と同じものを作っていても勝負にならない、ならばと品種改良を重ねオリジナルのすいか作りを始めた。

 幾度もの失敗を乗り超え20年。自分だけしか作れない独自のすいかを作るため、日々手間を惜しまず試行錯誤、紆余曲折を繰り返し、土にまみれてきた。

 そんな小林さんは破顔しながらこう話す。

「成功なのか失敗なのか、わかるのは年に一度なんですよ。ダメなら翌年の春まで待たなければ、次はできませんからね」

 気が遠くなるような話だが、現在は「戦水甘(せんすいかん)」、「名水セレブ」、「夜明けのセレブ」といった珍妙な名前のすいかを12種類作っている。もちろん、名付け親は小林さんだ。

南アルプスの天然水の郷

 その農法も土づくりから始め、手間のかかる昔ながらの方法で、「今時よくそんな面倒なことやってるねって人から呆れられますよ」と苦笑いする。

「そよ風が吹いて寒暖差のあるこの場所は、すいか作りにはとても適しています。それに南アルプスの天然水の郷ですよ。98%が水分のすいかを育てるには最高なんです」

 せっかくの好条件を活かすため、どんなに呆れられても丁寧に手間をかけて育てるのがポリシー。そして、いつの頃からか付いた小林さんのあだ名は、「すいかばか」。キャッチフレーズに掲げるのは「すいか割りする奴は許さねえ」だ。“このすいかにしてこの親あり”ーー。

「以前、家の前を通りかかった人が、キャンプに来てすいか割りするから売ってくれと言ってきたから、『すいか割りするすいかなんかここにはねぇから、そんなもん欲しけりゃスーパーに行きな』って言ってやったんだよ。すいか割りが楽しいのはわかるけど、俺の育てた大事なすいかはそんなことするためのものじゃないんですよ」

ガムを噛んでいる客には“出直し要請”

 店に来たお客には必ず試食をしてもらい、納得した人にだけ売るシステムを採っている。若い客がガムをくちゃくちゃ噛みながら来た際には、“そんなんじゃ味なんかわからないから出直してこい!”と、お引き取り願ったこともあるという。

「子供の頃、家族で食べたすいかは誰にとっても良い思い出だったはずですが、近年はカットすいかのせいでそんな記憶を持たない人がほとんど。そんな人に夏の良い思い出を作ってもらいたいですね」

 春が来た。そよ風が吹く畑に土を耕し、ビニールを張る。苗を祈るように植え付ける。今年も、すいかばかの新たな戦いが始まった。4年ほど前、ひょんなことから知った「すいかばか」というすいか好きには知られた存在。夏の収穫まで、すいかとすいかばかに時々会いに行くとするか。

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


自分で皮下注射も…採卵手術前日までにやるべき3つのこと
 日本は不妊治療の件数は世界一なのに、体外受精で赤ちゃんが産まれる確率は最下位。そんな状況を変えるために、ミレニアル世代...
キリスト教のお盆「ハロウィン」 その由来とカボチャの意味
 ワタクシ、全く上達しないドイツ語の個人レッスンを受けております。上達しない理由は一重にワタクシの不真面目さによるもので...
自然災害に巻き込まれた…子どもとどう向き合ったらいい?
 台風19号の爪あとが各地に深刻な被害をもたらしていますが、近年は相次ぐ自然災害で被災住民が避難生活を余儀なくされるケー...
月吹友香さん<後>41歳専業主婦が小説家を目指して見えたもの
 第18回(2019年度)「女による女のためのR-18文学賞」(※)の大賞受賞作「赤い星々は沈まない」は老女の性を大きな...
今日の議題はにゃに? 夕暮れの猫集会でポロリ“にゃんたま”
 猫の島、日暮れ近くに猫の集会にお邪魔しました。  おのおの一定の距離を保って、茶白、黒白、サビ、三毛、キジ、サバ...
“生活習慣病”も予防して! 介護は認知症だけじゃないんです
 日本は長寿大国です。誰しも安心して生涯を全うできるとしたら、高齢であることはとても素敵なこと。しかし、介護士でもある筆...
月吹友香さん<前> 私がR-18文学賞で高齢者の性を描いた真意
 読書の秋到来。直木賞や芥川賞、日本推理作家協会賞に本屋大賞……国内には数多の文学賞がある中で、「R-18文学賞」(※)...
犬でなく人間だったらと思うと…モラ気質なワンコの実態3選
 モラハラ気質は、人間だけに限ったお話ではないのかもしれません。「うちの犬が人間だったら、モラ男(モラ女)に違いない…」...
子宮全摘だけでもつらいのに…腸閉塞で長さ190㎝の管を挿入
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
お日様パワーでモテにゃんに…ぽかぽか日光浴“にゃんたま”
 きょうのにゃんたまωは、雨上がりの日光浴。  濡れた毛を乾かして、お日様パワーでぽかぽかリラックス♪  気...
魔法の鍋! 自動調理鍋の購入でキッチンはどう変わったか?
 最近話題の自動調理鍋。材料を入れてスイッチを押すだけで、料理ができてしまうという優れもののようです。少しでもラクをした...
癒し系の彼女になって? 恋愛はそういうサービスじゃない!
 あなたには理想の恋人っていますか? 「優しい人がいい♡」「背が高くて色白がいい♡」「お金持ちがいい♡」  好きなタ...
共感されないけど…子どもを欲しいと思わない女の4つの理由
「子どもが欲しいと思わない」――。女性がポツリともらすと、男女問わず「どうして!?」「なんでほしくないの?」と質問責めに...
人はなぜ死者に花を手向けるのか? 古代から続く花のチカラ
 お花屋さんという御商売は、本当にさまざまなお客様のいらっしゃる場所でございます。ワタクシのお店は神奈川でもちょっぴりカ...
都会男子にスナックがブーム?おしゃれな20代男子が集うワケ
 スナックといえば従来は、場末な雰囲気でおじさんが多くて、煙たいイメージが強かったかもしれません。しかし、今そんなスナッ...
レディーファーストは常識!成熟“にゃんたま”デートに密着
 にゃんたマニアのみなさんこんにちは。  きょうは、にゃんたまωデートを後ろから大接近!  猫の写真週刊誌が...