更新日:2023-12-21 06:00
投稿日:2023-12-21 06:00

「あーああーっ」

 しかし、やがて音がグッと落ちて、それをかき消すほどの「アッアッ」または「アアーッ」といった女の絶叫に変わると、私はもう落ち着いて酒を啜(すす)るどころではなく、冒頭の素朴な疑問で頭が煮え立ち、思わず立ち上がってジョッキを叩き割り、こっちこそ負けずに「あーああーっ」と、ターザンのように雄叫びしたくなるのである。

踊り子のあえぎ声は演技か自然か

 踊り子はステージにひとり。つまりその声は、オナニーベッドと呼ばれる自慰演技によるものか、ショーとしてのエアセックスによるものだ。

 その声も演技のうちなのか、それとも、自然に出てしまったものなのか。演技だとしても、それはプライベートでの声を誇張したものなのか、完全なるステージ用オリジナル音声なのかがわからない。

 聞いていると、子犬の鳴き声系もあれば、通報されそうな断末魔系、いわゆるアニメ声系、ドスの利いた地声系、オーイェー的な洋物系など、種類も様々だ。

 それなのに、いずれもあえぎ声の一種と判断できてしまうのが不可解である。

 気持ちがいいと出る声は、通常の声と周波数が違うのだろうか。保健体育の授業では、そんなことは教えてくれなかった。

自称・クワイエット系の踊り子

 人に聞くなら自分のことを言わないとフェアじゃない気がするのでお伝えすると、私はまあわかるだろうが、クワイエット系である。

 もし自分から頓狂な声が出たら、びっくりして爆笑してしまうかもしれない。それはまじめにがんばっている相手に対して失礼だ。

 いや、むっつり黙っているほうがもっと失礼なのか。

 でももし演技をして、バレたら? もうどうしたらいいかわからない。自然に抑えられないあえぎ声が出たらいいのに!

素朴な疑問が解ける日は…

 なんにせよ、まず冒頭の素朴な疑問を誰かにぶつけ、前進しなければ、私はいつまでもクワイエットルームの住人だ。

「素朴なアンケートにご協力ありがとうございました」と、500円分のクオカードでも用意するのが礼儀だろうか。いやいや、そういうもんじゃないだろう。

 そんなことを、爆音のあえぎ声の中で考え続けても一向に考えはまとまらず、こうして答えのないエッセイだけが書き上がった次第である。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


肩車で張り合った夜…引け目を感じても「パパ」にはなれない
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
不審物を見つけたにゃ!パトロール中の“オペラ座にゃんたま”
 きょうは、宮城県の田代島で大人気のにゃんたま様、愛称は「オペラ座」です。  まるで仮面を被ったようなクールな模様...
中銀カプセルタワービル 2021.10.4(月)
 銀座8丁目の首都高速沿いに建てられている中銀カプセルタワービル。2022年3月以降に解体されることが決定し、ニュースに...
悲しみにサヨナラしたい…心の傷を癒すたった1つの方法とは
 信頼している人に裏切られるって、想像以上にしんどいことですよね。その相手への好意や信頼が大きければ大きいほど傷も深くな...
猫は本当に「ネコジャラシ」にじゃれるのか 2021.10.2(土)
 道端でよく見かけるエノコログサ。一説によると、花穂がえのこ(犬の子、子犬)のしっぽに似ていることなどが転じて「ネコジャ...
ドタキャンしてしまう時…信頼関係を壊さない対応マニュアル
 やむを得ない理由で、ドタキャンしてしまう時ってありますよね。ドタキャンを避けようと早めに連絡したつもりでも、どこからが...
台風一過の陽だまりで恋の季節に備える若い“にゃんたま”たち
 台風が去った後の穏やかな秋晴れ。  聞こえてくるのは遙か上空を飛ぶ微かな飛行機の音だけで、きょうはとっても静かで...
ビジネスメールを間違えた! 困った時の対応方法&参考例文
 個人のメールに比べて、ビジネスメールを送信する時はいつもより慎重に内容を見直す人が多いでしょう。でも、やっぱりミスは起...
比較!スポーツフード資格取得なら“スポーツフードマイスター”が人気♪ 魅力や取得方法、おすすめ通信講座は?
 活躍するスポーツ選手を見ると、ハードなトレーニングばかりが取り上げられがちですが、実は同じくらい重視されているのが「食...
色も香りもチョコレート♡大人の魅力あふれる花が幸せを運ぶ
「今回の新婦さん、結構なオトナのご年齢です」——。ブライダルブーケを制作するにあたり、ご希望の花材やお色のほかに前情報と...
「シングルマザー」はかわいそう? 世間は意外に優しかった
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
寝すぎて眠いにゃ…陽だまりでぼんやり中の“にゃんたま”様
 すっごい良く寝た~。今いつ? 昨日からずっと寝ていたような?  きょうは、ぽかぽかな陽だまりでたくさん寝すぎて、...
家電で生活の質UP♡自粛期間に買って良かったおすすめ家電3選
 1年間半近く、旅行はもちろんのこと、飲み会にすら行っていません(泣)。しかし、そこに使うはずだったお金を家電に使ってみ...
食育のプロ!“食育健康アドバイザー”ってどんな職業? 仕事や育児に活かせるおすすめ食育資格講座をご紹介♪
 近年、仕事や育児に「食育」を役立てたいと思う女性が増えています。生活の基本となる「食」を学ぶことは、自分や家族の健康を...
本当に今なの?無理してでも頑張るべきタイミングの見極め方
「頑張る」「踏ん張る」「無理をする」という言葉に対して、どんな印象があるでしょうか。もしかしたら、ちょっとしんどい響きに...
「俺んとこ、来ないか」お出迎え“にゃんたま”の向かった先は
 きょうは、初めて上陸する猫の島。  緊張しつつ港に着くと、お出迎えのにゃんたまω様が待っていてくれました。 ...