親の介護が必要に【専門家監修】一人で悩まない!知っておきたい公的制度

コクハク編集部
更新日:2024-05-22 18:15
投稿日:2024-05-16 06:00
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、ちょっとした有名人。でもって、タヌキか妖怪の噂も囁かれるなか、健康に関する知識はズバ抜けている――。
 そんなえりのボスのもとにはウワサを聞きつけ、今日も悩みを抱えた女性が、ふらりと立ち寄ったようですよ。

1. 突然やってくる親の介護

 今回は、さよさん(42歳女性/仮名)からご質問をいただきました。

「実は、実家の母の介護のことで悩んでいて…。これからどうしたらいいか、まるで見当もつかないんです」

 ふさぎこんだ様子で、声を絞り出すさよさん。

 えりのボスは、真剣な表情でさよさんの話に耳を傾けます。

「一人暮らしをしている母が、先日お買い物中に転んでしまって。大腿骨を骨折して、今は入院中なんです。私は働き始めた頃からずっと都内で生活していて、実家はけっこう遠くて…」

「まぁ…それは大変だったわね」

「ええ。入院の話を聞いてぞっとしました。手術は無事に終わって、今は体調も落ち着いているので、私もようやく一安心できました。……でも、お医者様の話だと退院後は車いす生活が避けられないそうなんです。母は一人暮らしなので、介護が必要になると思います」

 さよさんは、不安でたまらなそうです。

「入院手続きや入院中のこまごまとした対応は実家のそばに住む妹夫婦がしてくれているので、私は退院後の介護について調べようと思ったんです。

 でも、お金のことや車椅子の準備、家のリフォーム、考えなきゃならないことが山積みで、どこから手をつけたらいいのかさっぱりわからなくて…」

 さよさんは、疲れた様子で言いました。

「週末に帰省するので今のうちに情報を集めておこうと思っていたのに、全然下調べが進まなくて。心配で心配で、仕事も手につきません。このサロンだったら相談できるかな…と思って、仕事を早退してお邪魔してしまいました」

「そうだったのね。来てくれて、ありがとう」

 さよさんをねぎらうように、えりのボスは優しい笑みを浮かべます。

「きっとあなたのお役に立てると思うわ。今日は介護の準備や公的制度のことを説明しましょう」

「お願いします」

 目を潤ませて頭を下げるさよさん。これは放っておけません!

2. まずは入院を乗り切る!

「親御さんの介護を考えるにあたって、まずは入院生活を乗り切ることが不可欠よ。入院費用や消耗品費などのお金が必要になるから、親御さんに現金や銀行通帳、届出印などの場所を聞いてみましょう。医療保険などに加入していれば、給付金を受けとれる場合もあるから加入状況も聞いてみてね」

 さよさんは、真剣な表情でメモをとっています。

「お金が足りなさそうな場合でも、『高額療養費制度』などの公的サービスを利用できるから安心して。高額療養費制度については、加入している公的医療保険に問い合わせてね。お金の困りごとについては、院内のソーシャルワーカーにも相談できるわ」

「わかりました」

「親御さんの健康保険証は入退院時などに必要だから、必ず用意しておいて。すでに要介護・要支援認定を受けている場合は介護保険被保険者証も大切よ。持病や服用中のお薬について、確認することも忘れずに」

本人と家族、両方の希望をすり合わせた介護を

 深くうなずくさよさんに、えりのボスは説明を続けます。

「それらと並行してあなたの勤務先に、介護休暇制度について確認しておきましょう。国の定めた介護休業などのほかに、会社独自の制度が利用できる場合もあるから上司や人事部に聞いてみて。

 それと、親が遠方に住んでいるなら、協力者を探しておきましょう。入院中に必要なものの手配なども、近くに協力者がいれば安心よ」

「私の場合は、姉夫婦がいるので大丈夫そうです」

「そうね。あとは介護の相談窓口である『地域包括支援センター』を、親の住む地域で探しておいてね。親御さん本人に、今後の介護スタイルの希望を聞くことも大切よ」

「介護スタイルの希望、ですか?」

「ええ。介護にはいろいろなスタイルがあるの。本人と家族、両方の希望をすり合わせて考えていきましょう。具体的なポイントを説明するわね」

3. 退院に備えて、介護のスタイルを決める

 入院中に、退院後の介護スタイルを決めておきましょう。

 退院後の介護スタイルは、大きく分けて自宅での「在宅介護」と施設に入所する「施設介護」の2パターンで、親の希望や家族側の生活とのバランスを考慮して決めることが重要です。

 通常、介護のスタイルはケアマネジャー(介護支援専門員)と相談しながら検討します。

 ケアマネジャーは、本人・家族の意向や生活環境に応じたケアプランを作成してくれる、介護保険のスペシャリストです。

 地域包括支援センターや市区町村の介護保険課では、ケアマネジャーを探すための相談ができます。

 自治体が独自のサービスを提供している場合もあるので、合わせて確認しておきましょう。

公的介護保険サービスを賢く使おう

 公的介護保険サービスは、在宅介護・施設介護のいずれにおいても重要です。公的介護保険サービスを利用すれば、利用者の収入に応じて1割~3割の自己負担で介護サービスを受けることが可能です。

 介護保険で受けられるサービスにはさまざまな種類があります。

 介護用ベッド・車いすのレンタルや、入浴用いす・ポータブルトイレなどの購入ができるほか、最大20万円までの住宅改修費の費用が支給されます。

 なお、介護保険制度では被保険者の状態に応じて要介護1~5または要支援1~2という介護度に区分され、区分ごとにサービスの上限が異なる点に注意が必要です。施設への入所条件も、介護度によって異なります。

 どのような介護スタイルが合っているか、どのようなサービスを利用するかは一人ひとりの状況によって違うため、全員に共通する最適解というものはありません。

 まずは地域包括支援センターや市区町村の介護保険課などに相談して、親にも自分にも無理のない介護を考えていきましょう。

4. 公的制度を利用して、介護の不安を解消しよう

「えりのさん。今日は介護について教えてくださって、ありがとうございました」

 さよさんは笑顔を浮かべて、えりのボスにお礼を言いました。

 サロンに来たときにはとても不安そうだったさよさんですが、今はすっかり穏やかな様子です。

 えりのボスは、明るい声で言いました。

「介護を成功させるコツは、公的制度を利用することよ。一人で抱え込まずに、ケアマネジャーや地域包括支援センターのスタッフに相談しながら、公的制度を活用していきましょう。さよさんやお母様、ご家族にとって無理のない介護スタイルが見つかるといいわね!」

「はい。これから家に帰って、さっそく情報を集めてみます。できるだけ調べておいて、週末に帰省したときは母や妹夫婦にも相談したいと思います」

「それがいいわね。また気になることがあったら、いつでもサロンへいらっしゃい」

 サロンを去って行くさよさんを、えりのボスは笑顔で送り出しました。

★サロン「コクハク」のオーナー えりの

 顔と口調は若いものの、年齢不詳。タヌキか妖怪の噂も囁かれる謎めいた主人だが、ココロやカラダ、健康に関する知識はズバ抜けており、何気にハイスペック。ムスメ時代に苦労してるため、自分より“後輩”の女にはしあわせになって欲しいと願っている。愛称は、えりのボス。

(漫画/腹肉ツヤ子

  ◇  ◇  ◇

<この記事の監修者>

あんしん漢方薬剤師 中田 早苗(なかだ・さなえ)

 デトックス体質改善・腸活・膣ケアサポート薬剤師・認定運動支援薬剤師。病院薬剤師を経て漢方薬局にて従事。症状を根本改善するための漢方の啓発やアドバイスを行う。健康・美容情報を発信するMedical Health -メディヘルス-youtubeチャンネルでは、お薬最適化薬剤師として「無駄な服薬はお財布と体の敵!」をモットーに薬の最適な選び方を解説する動画を公開中。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」でも薬剤師としてサポートを行う。

「あんしん漢方」を詳しく見てみる

YouTube「Medical Health CH」

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

ライフスタイル 新着一覧


私「復縁希望?」女友達「あと2年で吹っ切る」失恋かまってちゃんLINE
 失恋をして心が傷つくと、少しでも誰かに気持ちを聞いてもらいたくなるもの。  でも、あまりにしつこかったり、常識が...
キャンプより安近短なべランピング!楽しむコツ&それでも失敗したエピ
 空前のキャンプブームが到来していますが、やはりイチからキャンプギアを集めてテントを張って…となると、ハードルが高いと感...
見上げた青空が眼に染みて…1日に1回くらいは空を眺めてみる
 青空が眼に染みると思ったら、しばらく空を見上げていなかった自分に気が付いた。  うつむいて歩くのがクセになってい...
「俺のソーセージも試食して」じゃねえ! 40女の成人の日の思い出
 1月8日は成人の日。晴れ着やスーツに身を包んだ新成人たちの姿は、眩しいものです。  成年年齢が18歳に引き下げられま...
これって誘拐ですよね!? 遊んでいたら詰められた恐ろしいご近所トラブル
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
神秘的! 宝石のようなオッドアイの純白“たまたま”に幸福祈願
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「緑の黒髪」があるなら、白髪の“褒め言葉”は?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
日本の美徳すごい!便器に汚物箱…海外で体験した考えられないトイレ事情
 日々の生活に絶対に欠かせないもの、「トイレ」。1日に何度も顔をあわせる存在ですが、実は国によってトイレの形状や使用方法...
2024-02-26 19:03 ライフスタイル
まるで宝探し!話題の木更津コンセプトストアでほっこりした男女の会話
 昨年6月、三井アウトレットパーク木更津(千葉)の隣にオープンした「木更津コンセプトストア」。サステナブルな社会を目指し...
「量と質」どちらを優先するか迷ったら経験値を振り返ろう
 大人になると「量より質」を意識する機会が増えますよね。私の場合、食事に関してはまさにそうなってきた気がします。  そ...
湧き水が心にも沁みてくる 福井県爪割の滝
 北陸地方に甚大な被害をもたらした能登半島地震。  被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。  つらいこ...
貫禄の毛繕い中をパチリ!ありがたいご神体“たまたま”に感謝
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【2023年人気記事】セックスは嗜好品?子宮頸がんサバイバーの性生活
 2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記事を再掲載します。こちらの記事初...
2024-01-04 06:00 ライフスタイル
近すぎなくていい 毎日は“ゆるい人間関係”に支えられている
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
【2023年人気記事】吉田沙保里と大久保嘉人は公認? ウロつく女が嫌!
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
【2023年人気記事】新宿立ちんぼ女性に異変…進む売春のフリーランス化
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...