【独自】すいかばか'24~究極のレシピを求めて#1 「寿風土ファーム」代表・小林栄一さんのある決意

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2024-05-18 06:00
投稿日:2024-05-18 06:00

「私はプロデューサーになるんですよ」

 4月の始め、白州は少し遅めの春。冬を越した畑は、春の七草ホトケノザで一面紫の絨毯のようだった。

 久しぶりに会った「寿風土ファーム」(山梨県北杜市白州町)代表・小林栄一さん(58)の最初の一言は、「私はプロデューサーになるんですよ」。

 かねてから、「農家はただの農産物を作っているだけではダメなんだ、ブランド力のある農産物を作ることが大切なんだ」と言い続けてきた。

 事実これまでに全12種、唯一無二のすいかを作ってきたが、改めてのプロデューサー宣言に小林さんの覚悟が見て取れる。

 2024年はオリジナリティーにこだわるだけでなく、高級な逸品も目指していく、新たな挑戦を始めるという宣言である。

南アルプスが生んだ銘品たち

 白州には南アルプスが生んだ上質な水を使った銘品が多く存在する。

 サントリー白州工場をはじめとするシャルマンワイン、お菓子のシャトレーゼ、信玄餅で有名な台ヶ原金精軒。そして寿風土ファームのすぐ近く、数百メートル先には銘酒「七賢」の蔵が長い歴史を経た重厚なたたずまいを見せる。

 その七賢から仕入れた酒粕を肥料とした新たな土ですいかを作るのが、今年掲げる大きな目標だ。

小林さんが挑む 究極のすいか作り

 14年の時間をかけ松皮を寝かせてできた土を篩(ふるい)にかける。大鍋に薪をくべ丸一日蒸し焼きにしたものに、麹を醸すのに必要な糖蜜の代わりに自社開発のすいか糖を混ぜ合わせたオレンジ色に輝く酒粕、それにおがくずと炭を足し、袋詰めする。

 これまで以上に手をかけたその土で、苗を育て畑にも撒いていくのが第一歩となる。

「菌は金(きん)なりですよ!」

 いつものジョークも忘れずに、酒粕を練り込む極上レシピに「期待」というスパイスを加え、極上の土がコンクリートミキサーの中で生まれる。

地元白州で生まれる奇跡のリレー

 少し甘い、おいしそうな香りが鼻をくすぐる。

 ハウスの中で毛布を掛けると、数日で発酵が始まり、熱を発し膨張を始めた10日から2週間は寝かせる。

 銘酒から生まれた酒粕が、今度は新しい土を生み、その土が新しいすいかを育む。そう考えただけで、新たな品種のすいかへの期待は高まる。

チャンスは年に1度しかない

「あくまでも今年はテストも兼ねたスタートです。何しろ年に1度しか試せないですからね。今年満足のいくすいかができなかったら、次は来年にならないとやり直せません」

 口癖のように何度も何度も繰り返すその言葉は、ミキサーの機械音越しに大きな期待と不安が混ざり合い、重く聴こえてくる。

 すいかに注ぐ愛情と情熱の高さから「すいかばか」と呼び親しまれる小林さん。

「すいかばか」の登録商標を取ったのは4年前で、特許庁の担当者から「『ばか』で登録商標を取る人はかつていないけれどいいのか」と確認されたという。

登録商標付きのすいかばか

 すいかばかは、登録商標付きの「ばか」なのだ。

 今年も変わらず、その歩みを止めないバカな存在が、とても嬉しく励みになると強く思った。

 青い空。少し暖かい陽射しにピリッと冷えた空気の白州の春。今年も夏が待ち遠しい。

  ◇  ◇  ◇

山梨県はすいか生産量「全国ワースト」

 山梨県のすいかの生産量は全国で最下位の47位。すいかの名産地とは言い難いが、全量の98%が水分のすいかに白州の水が与えるものはとてつもなく大きい。

「寿風土ファーム」
address:山梨県北杜市白州町台ヶ原615

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


勤務時間が長い! “自分しかできない仕事”をゼロにする方法
 定時上がりは憧れるけど、いつも勤務時間内に処理しきれず残業――。当然、プライベートの時間はカット。1日1時間の残業で、...
不妊症大国ニッポン…卵子凍結で産みたい人が産める社会へ
 子供を産みたい人がちゃんと産めるような社会にしたい。不妊治療で悲しむ人をゼロにしたい。これが私の願いであり、目標です。...
ワンオペ育児の日本と違う…台湾の妻が悩む“親戚の過干渉”
 国や地域によって、育児にまつわる文化の違いは様々ですよね。日本では日々忙しく過ごしているワンオペ育児ママが沢山いらっし...
「サボテン」には感情が? あなたの優しい言葉がトゲを抜く
「スマホをやりながら寝るのって絶対に睡眠妨害されてますよ。」  最近ワタクシの体メンテナンスをしてくださる方から言...
高級タワーマンションのラウンジで自撮りをする女の一生
 最近、たまたま都内の最高ランクのタワーマンションに行く機会が数回あったのですが、そこで2人組の美しい女性がラウンジのソ...
去勢手術は3日後…にゃんたま記念撮影でモフモフとお別れ
 これぞ! 鈴カステラ! 出来立てホヤホヤの美味しそうなにゃんたま!  食べちゃいたくなる、愛おしいにゃんたまω!...
猛暑の夏…健康な高齢者でも熱中症予防を“家族ですべき”理由
 介護士をしていた経験をもとにライターをしています。筆者はこれまで、認知症の症状や認知症を発症した時の具体的なケアについ...
がんでごめんね…「人生最後の生理」はある日突然やってきた
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
さくらももこさんのエッセイに学んだ 本当の「時は金なり」
「時は金なり」という言葉、年を取れば取るほど心に沁みるのはなぜでしょう。私がこの意味を意識したのは、さくらももこさんのエ...
産毛のような初々しさ…もうすぐ去勢する“にゃんたま”の刹那
 羊毛フェルトで作られた「にゃんたまストラップ」が巷で流行中。フニフニ揉むと、心癒され気持ちが落ち着くのだそう。 ...
結婚したら退職する? 自分が幸せになるための人生の歩み方
 少し前のOLだったら「寿退職」なんて当たり前だったのでしょうが、今はそうはいかないですよね。共働きが普通だし、お金の心...
大人になっても趣味に没頭したい! おすすめできる3つの趣味
 ストレス社会で闘う毎日にふと疲れた時、「何もかも忘れたい」と思うことはありませんか? 多くの人は飲み会や買い物で鬱憤を...
鬼灯って読めますか?夏の風物詩「ホオズキ」の意味と活用法
 地域によりますが、八月はお盆月でございます。  八月の声を聞くとワタクシのお店もお盆のお支度で慌ただしくなり、店...
夕陽で赤く輝いて…黒猫“にゃんたま”は美しい絵のようだった
 にゃんたマニアにみなさんこんにちは! きょうは、初めての黒猫にゃんたまωです。  黒猫のにゃんたまって、真っ黒だ...
遠方に住む親が心配…介護サービスの上手な選び方&使い方
 遠方に住んでいる両親が介護状態になった時、多くの人が「大丈夫かなぁ……」と心配になるはずです。しかし、現代では親の介護...
ホステスの世界にもある「裏引き」という名の“闇営業”の実態
 世間をにぎわせた“闇営業”。「事務所を通さず仕事のオファーを受け、報酬を得る」行為は、夜のクラブでも存在します。店に許...