セレブ妻が赤羽のサイゼリヤに落ちるまで 上流階級との「品格の差」に絶望

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-08-10 06:00
投稿日:2024-08-10 06:00

【四ツ谷の女・大宮由香31歳 #3】

 悠々自適なセレブ生活を送っている医師の妻・大宮由香。ある日、お嬢様学校に通う娘のクラスメイト・愛舞(らぶ)とその母親・来良が家に遊びに来る。垣間見える品のなさに愕然とするも、来良から「同じ匂いがする」と親しみを持たれてしまう。それは他のクラスメイトの母親も感じていたようで…。【前回はこちら【初回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 葵が学校、夫の武雄が仕事に行っている平日の昼下がり。

 自宅マンションに、静岡の実家からアポなしで由香の両親がやってきた。東京観光帰りだという。

「由香は、相変わらず豪勢な家に住んでるんだねえ」

 彼らは扉を開けるなり、スリッパも使わずにズカズカと上がり込んできた。

「毎日掃除してるのか? 小さい頃、お前は叱られても片付けなかったのにな」

「ハウスキーパーが来てくれているから」

「ハウスキーパーってお手伝いさん? いくらかかるの!?」

「別にいいでしょ」

 父の正光はリビングに入るなり、食器棚に飾ってあったバカラのグラスを取り出して水道水をゴクゴク飲みだす。母の伸江は素足のまま、その価値も分からぬカッシーナのソファにゴロンと寝ころんだ。

「お茶菓子出すから、ちょっと待って」

「そんな気ぃ使うなって。武雄君もいないんだろ」

 そう言って正光は大きく放屁をした。他人なら呆れるが、東京に出る20年前までは見慣れた光景だ。

 由香は、大きなため息をついた。

 武雄の両親ならば、現在二人きりで暮らす軽井沢でも、こんな行動はしていないだろうと思うと…。

品格はごまかせない

 由香は、気づいてしまった。

 どんなに頑張っても、自分のそれはハリボテであることを。

 品の良さや洗練さを見よう見まねで真似して、子供にも十分な教育を与え、自分もその世界に追いついていたと思っていた。

 だが、どんなに取り繕っていてもホンモノから見たらバレてしまう。

 上流階級の女性の品、それは付け焼刃で得られるものではない。所詮、自分はどうあがいても地方の焼肉屋の娘なのだ。あの日、鈴華の母のほほ笑みを見て思い知った。

――「強いて言えば、負けず嫌いなところでしょうか」――

 自らが蔑んでいる来良と似ている部分を、このように評された。

 負けず嫌い、言い換えれば、嫉妬深くプライドだけが高い人間であるということだろう。由香が来良の悪口を吹き込んだ後に出たこの言葉は、醜いという指摘をオブラートに包んだ忠告だ。

 丁寧な言葉の意味を察した時、世界の断絶を感じた。

 彼女たちのような、親の代からお嬢様学校に通う子女や父兄は、嫉妬とは無縁の高みにいる。生まれながら心身ともに洗練された存在なのだと。

 自然と黒い感情が沸き、虚栄心やマウントをとろうと心が動く時点で、余裕と品性がない下品な人間である、と言われているようだった。

気が乗らないまま、赤羽のサイゼリヤに

 次の日曜、由香は来良と赤羽のサイゼリヤでランチをしていた。

 お誘いは来良のほうから。近所のイオンでポケモンキャラのグリーティングが行われるから一緒にどうかとLINEがあったのだ。

 正直、気が引けたが、誘いがあると話したときの葵の嬉しそうな笑顔に負けてしまった。

 愛舞さんが自宅に来て以来、葵は彼女の好きなポケモンの情報を、タブレットの設定を変えるなどして、小さいなりに知恵を振り絞って仕入れているようだ。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


コスパ最高ランク、“超満開”長っ! 開運花の「レウイシア・エリーゼ」
 猫店長「さぶ」率いる愛すべき我が花屋。お店の立地が神奈川のカントリー風情たっぷりな場所にあるせいか、周りには農家さんも...
Amazon1位「マグネットネイル」を購入 “磁石の魔術師”になれるのか?
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの?」「買ってみたいけれど、口...
「結婚しなくてもいい時代」に結婚する意味 2023.3.29(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
口永良部に日が沈む 海を眺めながら考えた 2023.3.27(月)
 鹿児島県の口永良部島(くちのえらぶじま)に日が沈む。  この写真を撮影したのはいつだっけ。左に見えるのが屋久島だ...
モフモフ感がたまらない! アイドル“たまたま”にロックオン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「えっ、まだ産むの!?」本音がうっかり漏れちゃったLINE3選
 日本人は、本音と建前を使い分けるのが得意ですよね! どこまでも相手の気持ちを考えて、波風を立てないように上手に暮らして...
大谷くんから教えてもらった言葉の持つ力 2023.3.26(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ナルシストレベルが桁違い! “自分好き”が過ぎる爆笑LINE3選
 自分を信じていて、自然体のまま輝いている「自己肯定感の高い人」って素敵ですよね。でも中には、少し方向性を間違えて、自分...
経営者に人生のターニングポイントを聞いてみたらスゴかった
「隙あらば自分語りw」なんて小バカにされることもありますが、私は人の自分語りを聞くのはけっこう好きです。やっぱり勉強にな...
話題の「昆虫食」ってどうよ? メリット&デメリットを解説
 日本で暮らしていると人口って減る一方なイメージですが、地球全体ではめきめき増加中。それに伴い、食糧難が懸念され、昆虫食...
水の中に手を入れたくなるような日 2023.3.24(金)
 水を透かして光を見るとキラキラとまぶしい。そんな季節。  冬の間は誰も近付かなかった水辺に、だんだんと人が集まっ...
春の喜びを全身で♡「へそ天」でお昼寝の“たまたま”をパチリ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
エロえんぴつ?思わず笑顔になる子どものかわいい言い間違い
 小さな子どもと会話をしていると、ふと飛び出すかわいい言い間違いに、心がほっこりしますよね! 正しい言葉を教えてあげたい...
星乃珈琲店の新モーニングで朝カレー♡ 2023.3.23(木)
 一日の計は朝ごはんにあり! 「びっくりドンキー」に続き、「星乃珈琲店」もモーニングメニューを大幅リニューアルしましたよ...
おとなと子どもの時間の流れ方は違うみたい 2023.3.22(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「マナーが悪い!」と指摘される前に…意外と知らない温泉&入浴ルール
 温泉といえば、日本人の心のよりどころと言っても過言ではないかもしれませんね! 温かくて体も心もほぐれる温泉は、まさに癒...