彼氏に発行したスタンプカード。ラーメン一杯無料が先か、ガチギレが先か。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2024-08-31 15:14
投稿日:2024-08-31 06:00

見続けてしまう動画。えっ、私?


 スマホで延々見続けてしまう動画がある。お笑いコンビ「世間知らズ」椎木ゆうたのInstagramもそのひとつだ。髪を明るく染めたぽっちゃり系の女性と、三枚目風の声だけ出演する男性が、どうやら同棲している恋人同士という設定で、ちょっとした彼氏の失言で彼女が“ガチギレ”する、ショートコントのようなシリーズである。

 たとえば、買ってきてあげたヨーグルトがお気に入りの銘柄でないと、礼も言わずに文句を言う。出掛け前、真剣にマスカラを塗っている時に、どうでもいいことをぐだぐだ話しかけてくる。

 彼女はうんうんと笑顔で聞いたのち、「ちょっとごめんねー」と言った途端、表情を豹変させる。そして、やや視線を外した状態で不満をぶちまけるのだ。

「クソぼけがよぉ!」

 お決まりの「クソぼけがよぉ!」を放ったらスッと笑顔に戻り、「今すぐ買ってくるね」などと心にもないことを言うのである。

 その剣幕に慄(おのの)いた彼氏は、慌てて謝罪するも、彼女の怒りは収まらない。彼氏を睨みつけながら恐ろしい捨て台詞を吐き、動画が終わるのがお決まりのパターンだ。

 私はそれを見て、うわー怖っ! と腹を抱えて笑っていたが、ちょっと待てよ。

 そのガチギレっぷり、身に覚えがある。

【こちらもどうぞ】ラブホテルに泊まりました。

私は呼吸をするように嘘を吐く

 私は人に対して、本音を言わない。自分の本音がどこにあるのか、自分でもわからなくなるくらい、呼吸をするように嘘を吐く。人から無理をしているように見えないのは、さも自分はそう望んでいたかのように振る舞うのが、異様にうまいからだ。

 しかし、実はわがままで短気で気位の高い私の不満がたまった分、心の中のスタンプカードもポンポンとスタンプが押されていて、ある時突然、まるでラーメンが一杯無料になるみたいに、本音がぶちまけられる。

 私と付き合いが生じた時点で自動的に発行されるスタンプカードは、どれくらいたまったかが可視化されないため、まるで動脈にたまった悪玉コレステロールのように厄介なのだった。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


私は佳代だよ、レイちゃんってかすりもしねえ! 関係が終わった決定打!!
 仲良しの女友達や意中の彼からのLINEでも、幻滅したり、縁を切りたいと思ったりすることはありますよね。  今回は...
40女スーパー銭湯でととのえず、ぴーちくぱーちくな先客にモヤった話
 スーパー銭湯が好きです。週末のランニングがてら、あちこちの施設に出向いております。広い湯船にざっばーん! からの~、サ...
まるで御神体のよう! 美しく雄々しい“たまたま”に幸せを祈ります…
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
どれくらい実践してますか? 家でできる環境にいいこと「7つの習慣」
 子供たちに限りある資源を残すためには、私たちの日々の努力が欠かせません。今回は、みんなが普段心がけている環境にいいこと...
胡蝶蘭はお祝い専用? 寺の住職から聞いた「お悔やみ花」としての需要
「つかぬことをお伺いしますが……」  猫店長「さぶ」率いる愛すべき我が花屋には、お客様から毎日のように“ちょっと困...
台無しなんですけど!家族旅行なのに「夫のイライラ言動」と4つの予防策
 世の女性の中には、せっかくの家族旅行中、「夫のイライラする言動」によって、楽しい雰囲気が台無しになってしまうケースも…...
“頑張り屋のメンヘラ”が「セルフラブ」という人生の処方箋を知りました
「セルフラブ」という考え方は、確実に私の人生に大きな影響を及ぼしています。  セルフラブについて学び始めた時「世界...
【にわか呑み鉄】電車とビール好きにたまらない「流鉄BEER電車」に参戦
 さる9月2日(土)、千葉県流山市で「電車好き」と「ビール好き」垂涎の1日限りのイベントが開催されました。  通常は入...
かつて入り浸った店も 横丁の思い出も時代と共に変わってゆく
 昼間の細い路地を軽装の観光客が闊歩する。  誰かにとってはノスタルジーでも、また違う誰かにとっては新鮮に映るんだ...
にゃんたま写真の成立には“たまたま”への愛のピントがマスト
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「才色兼備」は女性だけに使われる不適切表現?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ずーっといい子ちゃんとか無理!「笑える悪口LINE」で上手に息抜きを
 友達や同僚から人の悪口を聞かされたらあまり良い気分にならないでしょう。でもそれがユニークな悪口だとしたら、思わずクスッ...
ほっこり読み切り漫画/第57回「隣りの芝生はオーノー」
【連載第57回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 生きものたち、...
これって良心ですか、マウントですか?「おまいう」説教LINE3選
 説教をされて、いい気分になる人はあまりいませんよね。でも、いつもどこか偉そうで、何かと説教をしてくる人はいるもの。 ...
相棒のぬいぐるみは無理! 大人になっても捨てられないもの6選と対処法
 物や情報に溢れた現代では、断捨離やミニマリストに憧れる人が多いですよね! でも、大人になってもどうしても捨てられないも...
40代で振り返ると納得!いろいろあった人生の転機、思い出してみない?
 人生の転機とは、その時には気がつかず、後になってから「転機だった」と気がつくもの。特に40代を過ぎると、人生の前半を振...