妻の劣等感はわかるけど
「でもね俺、今の生活が気に入っているんですよ! だから奈緒が不満を持っていたとしても、生活を変える気なんて、これっぽっちもありません。
バリバリ働くのは俺の性分には合わないし、貧乏でも普通に暮らせていれば、それで満足なんですよ!
奈緒はバツイチで、前の旦那さんのところに娘がいるんですけど、彼らは結構いい暮らしをしているっぽいですね。
だから奈緒が娘の生活と自分を比べて、惨めな気持ちになっているんだろうな〜っていうのは想像できます。
でも、だからといって俺らも裕福になるために頑張ろうぜ! というのは、別の話ですよね。だって他人の家庭だし」
奈緒さんが娘に抱いている劣等感を「理解はしている」と強調するヒデキさん。
しかし奈緒さんがよその家庭と自分の家を比べて落ち込む姿に、同情よりも不快感が湧いてきます。
今の生活に満足なのに
「被害者ヅラって感じ? ですかね?
嘆いたって仕方ないのに、奈緒は夢見過ぎなんですよ。それで勝手に落ち込んでいるように見えるから、イラっとするんです。
俺らは似たもの同士。20代からロクに仕事もしてこなかったからキャリアもない。今さら頑張ったってタカが知れているでしょ。
だから俺は今の生活に満足なんです。な〜んの不満もありません。
奈緒が娘に対して恥ずかしいって思うなら、もう娘と会わないようにすればいいだけじゃないですか? 娘だってもう中学生になるし、あっちには新しいママだっているんだから。
もう割り切って、あちらの家庭に子育ては任せればいいんですよ。
自分で育てていないくせに娘には“ちゃんとした母親”に見られたいんでしょう。とんだ見栄っ張りですよね。そんなくだらない欲があるから落ち込むんじゃないですかね?
少なくとも俺は、奈緒の見栄のために、仕事を増やす気はありません」
◇ ◇ ◇
恋人同士であれ、夫婦であれ100%同じ価値観を有する男女は稀です。ましてや交際前の男女となれば、なおのことです。少しのすれ違いが、大きな溝に発展することも少なくないのが異性間における現実でしょう。
まさにこれこそが、男女関係における醍醐味にもなれば致命傷にもなる“冷酷と激情”のはざまなのかもしれません。
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