「浜崎あゆみみたい」って褒め言葉? サブカル女からママ友への小さな抵抗

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

退廃的な雰囲気の「彼」を思い出す

 このTシャツは、大学の同じ音楽サークルにいた男の子と、ライブに行った時にお揃いで買ったものだった。

 彼の名前は銀二。その人に真央は密かに思いを寄せていた。身体の関係もあった。しかし、ドライな関係性を求めていた彼に、なかなか自分から付き合いたいと切り出せなかった。

 ひげ面で、食事は酒とタバコだけで済ますような夜の路地裏が似合う銀二。人見知りで、気に入った人にしか心を開かない孤高感が魅力的に見えた。そんな彼と通じ合えていることだけで誇りだった。

 真央自身もそう。髪を赤く染め、COCUEやチチカカなどのアジアンテイストのファッション。COMIC CUEやクイックジャパンを愛読し、仲間や銀二とだけの共通言語を楽しみながら、斜め上から時代を眺めていた。

 最終的に、気ままに人を振り回す彼に疲れ、大喧嘩の末に疎遠になったのだが…。

 ――10年以上会っていないけど、きっと今もそんな感じで、下北あたりをふらついているんだろうな…。

 銀二がいまだ独身で、お酒を片手にフラフラしている姿の想像は容易い。その後も、バックパッカーになっただとか、女のヒモになったというような噂は旧友から聞く。

 LINEの着信でスマホが揺れ、現在に戻された。

いつもの風景に見知らぬ男が…

 娘の幼稚園のママ友から、バスのお迎えに行くお誘いだった。“可愛いママさんスタンプ”を返して準備をはじめた。ボーダーカットソーのありふれたアラフォー主婦の姿に着替えて、そそくさとエントランスに向かった。

「凛ちゃんママ~、やっと来た~」

「ごっめ~ん」

 いつものように、肩をすぼめて両手で手を振ると、ママ友も笑顔で迎えてくれる。毎日会う面子だけど、彼女たちがどんな音楽を好きか、どんな映画が好きかを真央は知らない。

 流れるように天気の話をしながら、いつもの如くマンションのありふれた風景になった。

 ――…?

 ふと気づく。

 どこかで、誰かが自分の姿を見つめていることを。

 その主に気づいたのは、ほどなくしてのことだった。

#2へつづく:言われたくない! ただのオジサンになった「元彼からの一言」に怒りが…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


15キロ太ったからつまんないの? “サイズ44”に教えられた自分の本音
 2度の出産と加齢と腰のヘルニアを経て、5年をかけて15キロ太りました。実はそれについては人が思うほどは気にしていない…...
5年に1度の逸材にゃ!ノーブルすぎる“たまたま”に思わず合掌
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「出世したくない人」激増のナゼ 共通する特徴と4つの理由に妙に納得…
 令和の今、社会人の中でも「出世したくない」と考える人が非常に増えているようです。少し前まではどうにかして出世してやろう...
ハロウィンの新顔!小粒な「ソラナムパンプキン」は枝にぶら~んぶら~ん
 まもなくハロウィン。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋さんに、今年も大きなパンプキンが店頭を占拠する季節がやってま...
26歳ギャラ飲み女子の貯金額は3000万円!昼はOL、非港区系の堅実生活
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
いくつになっても、誰かに褒められるのはやっぱりうれしい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
出産を機に中途半端なキャリアに…今にマッチした働き方は?
 先日X(旧Twitter)で、米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏がノーベル経済学賞を受賞したニュースを...
シンデレラ城より“我が城”が好き!LINEが示すめんどくさがりやの実態
 めんどくさがりやの人は、できるだけ身動きしないで済むように、いろいろな方法を駆使し、少しでも楽な生活を追求していますよ...
水しぶきの向こうに見えた太陽 長く暑かった季節を偲んで
 次の季節に向かうとき、少し寂しくなるのはなぜだろう。  高3の夏の終わりに自分の手でプールのカギを閉めたときとは...
パーフェクト“たまたま”の精悍&クールな眼差しに痺れちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
発達障害グレーゾーンの長男が憎い…ある一言で私の何かがプツンと切れた
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
出産で疎遠に…結婚後に態度が変わる女友達の特徴&無理しない付き合い方
 学生時代に仲の良かった女友達も、結婚した途端に疎遠になってしまったというのはよくある話です。どうせなら、結婚しても長く...
ゴールデンボンバーの「女々しくて」は言い得て妙だった!
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
LINEのない生活は無理!父の死、仕事の失敗、自分の病…心が救われた話
 仕事で大きなミスをして落ち込んだり、大事な人を失って悲しんだりと、気持ちが沈んでしまう瞬間がありますよね。そんなとき、...
「たかが、ものもらい」じゃなかった 30代女、霰粒腫の手術をしました
 先日、眼科で右目のまつ毛の生え際にあった“しこり”の切除手術をしました。「たかが、ものもらい」と思っていたのですが、こ...
ほっこり読み切り漫画/第59回「ボクは君で、君はボク」
【連載第59回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「「しっ...