「浜崎あゆみみたい」って褒め言葉? サブカル女からママ友への小さな抵抗

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

【新川崎の女・鈴木 真央41歳 #1】

 かつて京浜工業地帯を支えた巨大な貨物列車ターミナルだった新川崎は、今や「品川から3駅に住まう」などというまやかしのような呪文でファミリー層がおびき寄せられる新しい街に変貌している。

 ――結局、住まう、ってなんだろうな。すまう、って…。

 鈴木真央もそのうちのひとり。

 電機メーカー勤務の夫・文敏と、小学3年生の息子・武、幼稚園年中の娘・凛の家族4人で5年ほど前、この大規模分譲マンション群“ゴールデンブリリアントタウン新川崎”に引っ越してきた。

 東京ドームの広さをゆうに超える敷地に存在する整理された街並み。真央は敷地の中心にあるカフェラウンジにひとり座り、ひとつため息をつく。

真央がため息をつく理由

 独身時代、平塚の実家に帰る時、車窓からぼんやり眺めていた広大な空き地に自分が暮らすことになるとは思ってもみなかった。

 まだらな木漏れ日のトンネルを老夫婦が歩いている。ママさん達の明るいお喋りで賑わう光景の中に、時折自分を見失う。

「お待たせ、鈴木さん」

 何人かのママ友がニコニコしながら真央の元にやってきた。実はこれから、マンションの共用ルームでカラオケ大会をする予定なのだ。

「新川崎のあゆ」にゾワッ

 真央はルームに入るなりデンモクを手に取り、十八番の浜崎あゆみを入れた。

 歌うはSEASONS。誰もが知る曲のため、景気づけにいつもこの曲をトップで熱唱している。

「さすが、凛ちゃんママ。新川崎のあゆは違いますねー」

 マイクを置いた真央に、ママ友のひとりが華やかな甲高さで言う。褒められているのに、自分としては不本意な形容に肌がぞわぞわした。

「やめてよ、あゆに失礼だって~」

「でもすごく心こもっていてうまいんですもん。世代ですからね!」

 真央はこのママ友グループの中で少しだけ年上だからか、ボスママのような扱いを受けている。慕ってくれるのは嬉しいのだが…。

「じゃあ、あゆの次は私、aiko歌います」

「aiko、私も好きー」

「次、ミスチル歌ってもいい?」

 隣のママさんに渡したマイクから聞こえる2曲目はaiko、Mr.children、次は嵐、AKB48、EXILEと続く。

 時代の王道ソングに身体を揺らしながら、真央はまた自分を見失った。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


息子のお友達から“シングルマザーだもんね!”と言われた日
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
自分の魅力を熟知! クールな視線がかっこいい“にゃんたま”
 カッコいいにゃんたまωポーズ、クールな視線、キマッてるね!  にゃんたま君は自分の魅力を知っていて、写真の撮られ...
多頭飼いは“つかず離れず”がちょうどいい 2021.11.21(日)
 我が家には2匹の猫がいます。マンチカンのもん様こと主水、スコティッシュフォールドのこっちゃんことコロナ。  もん...
恥ずかしすぎて消えたい…職場グループに送った誤爆LINE5選
 職場のグループLINEは、仕事を円滑に進めるために、今や欠かせないものでしょう。でも、あろうことかそんな職場LINEに...
破壊力ありすぎ! おばあちゃんから届いた“勘違いLINE”5選
 いろんな時代や多くの困難を経験して乗り越えてきたおばあちゃんたちって、本当にたくましいですよね。ガラケー時代をなんなく...
無意味どころか不可能?!他人との比較が無駄といわれるワケ
 他人と比較しても意味がない——。そんな言葉を毎日のように目にします。この認識が広まるのはとても大切だと思いますし、みん...
まるでドラえもん! もふもふのお腹が魅力的な"にゃんたま”
 きょうは、ふしぎなポッケを持っていそうな、ドラえもんみたいなにゃんたま君です。  丁寧な毛繕いで、ふわっふわにな...
見た目のインパクトがすごい!「フウセントウワタ」の魅力
 近年、猫の細かなパーツに特化した、写真やグッズが人気のようでございます。  猫の肉球やお尻、足、シッポなどいわゆ...
嫌いな同僚と上手に付き合うには?6つのポイント&NG行動
 職場にはさまざまな年代、価値観の人が働いているため、中には「どうしても、気が合わない」と思う人もいるでしょう。中には、...
“離婚”をどう話す? 4歳の息子は「仲直りしたら?」と言った
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
「激坂最速王決定戦2021」参戦レポ 2021.11.16(火)
 緊急事態宣言も解除され、徐々にスポーツイベントも開催されるようになりましたね。マラソンが趣味の筆者は、11月13日に行...
“にゃんたま”島の思い出…無邪気な兄とクールな妹をパチリ
 きょうは、去年の秋の「にゃんたま島」の思い出。  お兄ちゃん後ろ、にゃんたまω撮られてるよ?  石ころで無...
ダイソー新ブランドで疲れを癒す厳選3品!2021.11.15(月)
 いくら寝ても疲れが取れにくい……そう実感するアラフォーです。本格的に寒くなってきたと思ったら、今年も残すところ1カ月半...
スマホデビューしたお母さんからのおもしろ可愛いLINE5選♡
 ずっとガラケーだったお母さんたちがスマホではじめてLINEをする時、たくさんのおもしろいやりとりが生まれているようです...
2度と思い出したくない黒歴史…消し去りたい誤爆LINE5選
 連絡手段としてとても便利なLINE。でも、簡単に送れる便利さと引き換えに「誤爆」という危険性を秘めていますよね……。き...
思い出しては凹む…昔の失敗にとらわれた心を軽くする方法
 なんでもない瞬間に過去の失敗を思い出して死にたくなる……。そんな経験をしたことはないでしょうか。私はそこそこの頻度であ...