有能でも「ママ」の肩書きに埋もれる現実。“報われない世代”が後輩ママにウザがられても助言するわけ

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-04-12 06:00
投稿日:2025-04-12 06:00

「報われない世代だって言われているんですよ」

「私、第一子の時は、ちょうど『日本死ね』の時だったんです。前職の退職を余儀なくされたんですが、今は私も落ち着いて、こういう集まりに参加できる余裕ができたくらいです」

「――私が、生まれた時代がよかったと言いたいと?」

 言い返すと、彼女は力なくほほ笑んだ。目を逸らすと、ママさんの中心で語っている晶子の笑顔が見えた。

「逆に、晶子さんの世代はいま、報われない世代だって言われているんですよ」

 重い弾丸を正面から受け止めたような感覚に陥る。

 頭がクラクラしてきた。もう何も言うことはない。

 生き生きとママの中で活動している様子が見ていられなかった。彼女が本来いる場所は、やっぱりここではないような気がして。

「麗菜さんごめんね、誘ったのにあまり対応できなくて」

 楽しくおしゃべりをするママさんたちをながめながら、ローズヒップティーを傾けていると、晶子さんが輪の中を抜けて話しかけてきてくれた。

ママという肩書きに埋もれる現実

「いえいえ。楽しんでいます。先ほどはナナミさんとずっとお話をしていました」

「ナナミさんて、先ほど帰られたママさん? あの方、元官僚なのよ。見えないでしょう」

「え!?」

「制度や法令に異常に詳しくてね。自治体に陳情をあげたり、企業に協力を求めたりするときにも色々と力になってくれたの」

 驚くとともに、晶子さんを含むこれだけの有能な女性たちが、ママという肩書の中に埋もれていることを実感する。

「――あの、晶子さんの活動のお手伝いさせてほしいんですが」

 自然と口から出ていた。

 育休中だろうが、リスキリング中だろうが、保活で忙しかろうが関係ない。罪滅ぼしではないが、自分も彼女のなにかの力になりたかった。

 すると、晶子は即座に首を振る。

「あなたは、自分の生きたいように生きて幸せになってよ」

「だけど――」

「それが私の活動のお手伝いなの」

 拒否に見せかけた、前向きな呼びかけだった。

私は、仕事も家庭も、みんな手に入れる

 晶子がかつて自分にかけてくれた言葉は、呪いではなかった。応援と適切な助言だった。

 麗菜が今後、壁にぶつからないように、心の準備をしてもらうための。

「道を、つくってほしいのよ。その先に行ったらお話を聞かせて」

 自分が今歩いている道は、晶子さんたちのやるせなさと怒りでできている。

 努力しても、どうしようもない時代が、世界があったのだ。今も誰かがどこかであがいているのかもしれない。

 ――私は、仕事も家庭も、みんな手に入れる。

 欲張りに前を進みたい。それは、自分のためだけじゃない。未来の誰かのためでもあることを祈って。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


作り笑い以前に“笑顔が苦手な人”の原因と対策 どう接する?
 仕事やプライベートで人と接する時、なかなか笑顔を見せてくれない人がいると「嫌われているのかな?」と不安になってしまう時...
都会の雑踏で聞こえた地元の方言 2022.10.23(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
大凶作のドラフト会議でイケメン“ザックザック大豊作”のなぜ
 今年のプロ野球ドラフト会議は空前の大凶作といわれていた。目玉となる選手はゼロで、多くの球団が争奪戦を繰り広げるようなス...
2022-10-22 06:00 ライフスタイル
「やりすぎ時短LINE」BBQの役割分担までエクセルにするの?
 忙しい社会人で時短術を活用している人はたくさんいますよね! でも、何事もハマりすぎは良くないようです。今回は、時短術に...
パワハラ虫に遭遇、最悪!でも「したたかな準備」で反撃可能
 仕事でもプライベートでも、パワハラ気味な人に遭遇してしまうと最悪ですよね。  災難だと思って諦めることもできますが、...
ヘアサロンから濡れ髪のまま飛び出てくる女、になった。
 書店員として本を売りながら、踊り子として舞台に立つ。エッセイも書く。“三足の草鞋をガチで履く”新井見枝香さんの月イチ連...
【ドンキ】エモい「情熱価格」激旨1位は… 2022.10.20(木)
 みなさん、ドン・キホーテは好きですか? 筆者は大好きです。右を向いても左を向いても物価高なこのご時世、「驚安の殿堂」っ...
本当の友情ですか? 同性の友達の束縛がつらいと思ったら…
 同性の友達に「束縛されてる」と感じたことはありませんか? その子との予定を最優先させられたり、あなたに彼氏ができると機...
まるでぬいぐるみ!モッフモフ高密度“たまたま”にキュン♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
友達ってなんだろう 2022.10.19(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
何コレ!? 天然の「旅人の木」はコバルトブルーの種がヤバい
 ある冬の日のお話しでございます。  猫店長「さぶ」率いる我がお花屋さんに、ややご年配の、でもやたらと威勢の良い殿...
アラフォーが「テヘッ」はねぇ…今どきの「痛い女あるある」
「いい年してそれは痛いでしょ」と思える言動をする女性、あなたの周囲にいませんか? 若い頃は「かわいい」と言われた行動も、...
服が捨てられない!片付け下手に神グッズ 2022.10.18(火)
「1枚服を買ったら1枚は捨てる」「触ってみて心がときめくか」「お店のように美しく飾る」などなど、クローゼットを整えるメソ...
どうしてそんなに尊いの?“たまたま”を真面目に考察してみた
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
家庭で簡単にできる節電対策6つ 子供が楽しめるアイデアも!
 東日本大震災のあと、日本中で節電運動がはじまった時、当たり前にある電気のありがたさを痛感しましたね。震災後ではなくても...