記憶から消えていく…加工アプリを使わずに撮った、本当の顔

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-06-30 11:50
投稿日:2025-06-30 11:50
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

iPhoneのカメラロールが唯一の手がかり

 もうすぐ誕生日がやってくる。去年はディズニーシーでひと悶着あり(過去回参照)忘れがたい一日だった。しかしその前の年は何をしていたのか、まるで思い出せない。忘れっぽいくせに日記も手帳も付けない私は、iPhoneのカメラロールだけが記憶の頼りだ。

 はたして遡った写真によると、一昨年の誕生日は上野のストリップ劇場で踊っていたらしい。千円札を繋ぎ合わせたレイを首に掛けているが、記憶喪失レベルで覚えていない。お客が撮影した写真をiPhoneで撮影した際に、加工アプリを使ったようで、おどけて変顔なのに美人だった。

 そうして加工アプリで撮り始めたのはいつの頃からなのか。今この手にあるiPhoneには、2019年1月30日からの写真が、全く整理されていない状態で膨大に蓄積されている。私が唐突に事件性のある死に方をしたら、手がかりを探すために写真をチェックする捜査員が気の毒なほどだ。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

加工アプリで初めての自撮り

 カメラロールの1枚目は、神保町の喫茶店「さぼうる」で、いちごジュースとミックストースト(トマト&玉子)を撮影した写真だった。2019年1月30日午前11時44分、「Foodie」で撮影、位置情報も正確に記録されている。「Foodie」は食べ物を撮ることに特化したカメラアプリである。

 同日午後3時18分には、同じ神保町にある老舗中華料理店の、つややかな特大肉団子定食を撮影していた。すでに昼食を摂ったことを忘れたのだろうか。我ながら、忘れっぽさが心配になる。

このiPhoneで初めて自撮りをしたのは、同年の2月。前後の写真から、自著の発売記念サイン会のために、告知用の写真を撮ったらしい。

 頭に魔女の宅急便みたいなリボンを付けているが、数ミリ頭から浮いているのでスタンプと判断。カメラアプリ「SNOW」は、自動顔認識機能を使い、眼鏡や被り物などのスタンプを付けることができるのだ。

 それに加え、顔そのものも自動で補正してくれる。その写真には、シミが一切なく色白で、大きな瞳には輝く星、ほうれい線は拡大しても確認できず、唇はほんのりピンクに色付いた女性が写っていた。6年前は、こんなに可愛らしかったのか。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


浮気を警戒したら逆ギレ!?  私が「絶対に謝りたくない」と思った瞬間7選。何でこっちが悪者なの?
「仕方なく謝ったけど…これ私、悪くないよね?」誰しもそんな気持ちになったことがあるのではないでしょうか。  今回は...
30代はご褒美ボディケア、中年女は塗り薬まみれ。色気から進化した風呂上りの「おばケア」事情
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
定時で帰っていいよ→役立たずってことですか!? 職場で出会った「めんどくさい女」図鑑。扱いに困るよ~
 あなたの周りに“めんどくさい女”はいませんか? 今回は体験談を交えながら、接し方に困る女性の7つのケースをご紹介します...
女性の“性”は「下ネタ」なのか? タブー視する社会に言いたい、語り合うことで生まれる安心感
 性の話題は「恥ずかしい」「隠すもの」とされがちですが、思い切って触れてみると、不思議と距離が縮まります。普段は口にしづ...
45歳、いつになれば楽になる? 自由に生きてるはずの私が、定食屋の秋刀魚で涙を滲ませた理由
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きな...
月経不調はストレスで悪化する? “脳疲労”と生理痛を軽くするセルフケア【専門医監修】
「生理痛はいつものこと、仕方ない」「PMSは気のせい」--などとガマンしてそのままにしていたり、鎮痛薬でやり過ごしたりし...
“推し”は最初から決まっていた…元芸能人が明かす「オーディション番組」の過酷な裏側と選ばれる子の共通点
 世間を揺るがす芸能界のさまざまな噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われて...
「お尻トントン、もっと~!」可愛すぎる“にゃんたま”の甘えに抗えない♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「寝てるカナ!」「ぁりがとぅ」それ、なんとかならん? Z世代が震えた“大人のクセ強”LINE6選
 流行り言葉は目まぐるしく移り変わりますが、やっぱり受け入れられない言葉はあるもの。今回は、どうしてもモヤモヤしてしまう...
「生理痛で婦人科に行くなんて大げさ」は間違い。月経不調の陰に潜む病気のリスク【専門医監修】
「月経前や月経中の腹痛がひどい」「頭痛や気持ちがわるくなったりする」「イライラが止まらない」…そんな月経にまつわる不調を...
【動物&飼い主ほっこり漫画】第103回「みんなで百物語ニャーン!」
【連載第103回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽの...
【漢字探し】「鎌(カマ)」の中に隠れた一文字は?(難易度★★☆☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
40代、気づいたらぼっち…まぁ、仕方がない3つの理由と“新しいつながり”の見つけ方
 40代を過ぎてから「友達が減った」と感じていませんか? 学生時代に親友と呼べるほど仲の良かった友達でも、気がつけば年賀...
メン地下「推し活」でメンタル崩壊、ストーカー寸前…沼りすぎた女たちの壮絶リアルな体験談
 いろんな意味で話題の「メン地下(=メンズ地下アイドル)」は、激しいハマり方をする女性ファンが多いことでも有名です。 ...
義母からの過干渉が「上司より怖い…」30歳新妻を追い詰めた“凶器”のようなLINE
 私の友人ユリ(30歳・事務職)が結婚して半年。幸せいっぱいの新婚生活を想像していた彼女を待っていたのは、思わぬ“監視網...
やってもた! 買って後悔した“便利グッズと家電”無駄遣いエピソード。バナナケースってマジで何で買った?
 今日も日本中で便利グッズや便利家電が生み出されています。でも、中には便利なはずなのに使ってみると「絶対いらないわ…」と...