「生きることが難しい」不注意すぎる私の日常。PR案件の真偽や如何に。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-09-01 12:28
投稿日:2025-08-31 11:45

魅惑のPR案件

 普段はスルーする見知らぬ人からのメッセージだが、つい興味を示すと、すぐに製品の詳細とモニター条件が送られてきた。それを使用する動画を撮影し、SNSに投稿する必要があるらしい。つまりPR案件だ。

 私はかつて同様の流れで、あるお酒のモニターを引き受けたことがあったが、それが残念なことに全く口に合わず、晩酌風景にちらりと写り込ませて投稿するくらいのことしかできなかった。美味いとも不味いとも明言していないから嘘は吐いていないし、義理は果たした(と思っている)。

 先方もそれ以上は何も言ってこなかったので、もし気に入ったら口コミで広めて欲しい、くらいの気持ちだったのだろう。

「どうしてこんなに不注意なのでしょうか?」

 しかし今回の案件は、動画を作って投稿することに対し、報酬が発生する。金銭のやり取りがあることだから、事前に契約書を交わす必要があった。しかし、まずフォームに個人情報を入力して登録、という段階で、なぜかエラーが発生してしまう。

 お得意の入力ミスをやらかしたらしい。修正ができず、登録へ進めなくなってしまった。その件を先方に伝えると、帰って来た返事がこれだ。

「どうしてこんなに不注意なのでしょうか。」

 それは私が聞きたい。どうしてこんなにダメな人間なんだろう、私は。あまりにも的を射た突っ込みに、とどめを刺されたイカのごとく、頭が真っ白になる。しかし待てよ、仰っていることはごもっともだが、昨日今日やり取りを始めた企業側の人間が言うことだろうか。

 その後、今度は情報を登録するためのサイトの担当者を名乗る人から、私のミスにより不審な登録と判断されてしまったため、その凍結を解除するために、本人確認が確認できる書類と、認証金の振り込みが必要、と連絡があった。

 入力ミスだけで、そんな大事になるだろうか。認証金は報酬とともに払い戻されるというが、万単位である。もしやこれ、何かの詐欺ではなかろうか。

「本当に必要なのですか?」と不信感をあらわにすると、あなたごときの少額な案件でサイトの信用を失うなんて馬鹿げたことするわけねーだろバカ、みたいなことをちょこっと丁寧にした感じで返信があり、もう私は世界中にバカにされる、能力の低い人間のような気がしてきた。なんなんだもう。

私は騙されているのだろうか

 ドリフターズのコントで、仲本工事といかりや長介が演じる、仲のいいバカ兄弟がドア越しに本人確認をするコントを思い出す。

「本当に俺のあんちゃんか?」「そうだよ」私は騙されているのだろうか。「山」と言ったら「川」と答えるくらいわかりやすい確認方法があればよいのだが。

 近日中、私のSNSに素敵な電化製品が登場したら、ノックしたのは本物のあんちゃんだったと思ってください。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


松田聖子まさかの中大法学部を卒業! 通信制の学び直しで成功する人は?
 先日、歌手の松田聖子さん(62)が中央大学法学部の通信教育過程を卒業したことが話題になりました。近頃、通信制大学で学び...
スタレビの名曲が聞きたい!仏教と深い関係のある「木蓮」とその仲間たち
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は、ただいま卒業式や送別など春特有のイベント仕事で、いつにも増して花まみれの毎日...
女の敵は女だから?忘れた頃にぼっ発する「専業主婦論争」をガチで考える
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方などをテーマにブログやコラムを執筆しているまめです。  X(旧Twi...
“炎上常連”麻生さん級の「ルッキズム失言」していませんか?
 最近、よく耳にするのが「ルッキズム」という言葉です。政治家や芸能人が、何気なく言った一言で「ルッキズム発言だ」と叩かれ...
春のお花と記念撮影にゃ! ウサギみたいなしっぽの“たまたま”
 きょうは、ウサギ君みたい! しっぽの短いにゃんたま君に出逢いました。  しっぽが短い猫は長い猫と比べると、臆病で...
春まであと少し?
 残雪の甲斐駒ヶ岳を背にすっかり葉も落ちた葡萄畑  春まであと少しが意外と長い
離婚→シンママになり、心底よかったこと4つ 我慢は美徳っていつの話?
 世間では、離婚してシンママになった女性に対して「かわいそう」「大変そう」といったイメージがあるかもしれません。  で...
職場の同僚ランチが苦痛すぎる…一人の時間を確保する4つの冴えた処世術
 業務内容へのストレスより、職場でのランチタイムが苦痛という人は多いですよね。正直、仕事で疲れているのに、休憩時間まで同...
「場所代は200円いただくわ」堅実というかケチ!名目別に徴収するママ友
 ママ友と仲が良いといっても、子どもありきの関係。価値観や金銭感覚など、すべてが合うとは限りませんよね。  中には、マ...
男と女の物語、だからこそ「娚」の当て字が使われた
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり癒し漫画/第70回「すぷりんぐファミリー」
【連載第70回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
家庭の派閥争い…夫の“ポカリ甘すぎ、アクエリアス!”に猛反対する妻
 混沌とした世の中。世界で起こっている戦争や紛争だけでなく、会社やネット上のコミュニティーでもあらゆる「派閥争い」が繰り...
ストリッパー、Airpodsおじさんに学ぶ。
 AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。  なにそれ...
40代が自分の老いを実感した切ない瞬間4つ 運動は得意だったのに(涙)
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。特に若い頃に運動が得意だった人は、頭では動けると思っているの...
別れる時くらい言いたいことを言う? それとも…
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
百均は飽きた…目的地はスタンダードプロダクツ!プチ模様替え厳選4商品
「普段の生活で使う、日用品をちょっと楽しく。」そんな思いを込めて生まれたStandard Products(スタンダード...