「私、まだ終わってない」出世は現場からのリストラだ…50前、あがく女が縋った“男との復縁”という選択

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-12-13 11:45
投稿日:2025-12-13 11:45

ふたりきりの店内。終電が近づくけど…

 ふたりきりの店内。たわいもない話で数十分。この時間がいつまでも続いて欲しいと思った。

 でも、確実に終電の足音は近づいてくる。

「ちょっとお手洗い」

お手洗いはビル共有。一度外に出る必要がある。私は重い扉を開け、夜風にあたった。感情を冷やして、暴走しそうな車にブレーキをかける。

「あれ…?」

 目に入ってきたのは、店の前の<CLOSED>となった看板だった。

 この店は、オールナイト営業だったはず。思い返せば、あんなにひっきりなしに入店があったのに、しばらくお客さんは来ていない。

 私は閉じた扉をまた開けた。

「どうした? 誰か入ってた?」

 カウンターの外に出て、テーブルを拭いていた男の背中に、私は思わず身を委ねた。

 ブレーキはバカになる。

上司との恋愛を思い出す。あの辞令はもしや…

 薄い壁の向こうから聞こえる、恋人たちの愛し合う声で目が覚めた。

 傍らには、“こと”を終えて上下する昔の男の胸元--「鍛えている」と言っていたものの、長い年月の流れを感じさせる、相応の張りと手ざわりだった。だけど、それさえも愛おしく思えた。

 一晩明けても、魔法はさめていなかった。指先で彼の輪郭をなぞりながら、溶け合った記憶をたどる。

 昨日の晩。すぐ店を閉めたあとは、崇がよく行くという、百軒店のバーへ。そして、いつのまにか円山町の小さな部屋へたどり着いた。

 誰かと同じベッドで寝るのは5年ぶりだった。妻子ある上司と交際していた時以来だ。その上司は、今や会社の取締役である。

 ――あ、もしかしたら、あの辞令は……。

 あの人のことだから、現場でくすぶっている私を良かれと管理職へと引き上げようとしてくれたのかもしれない。

 だけど、私の中では時期尚早だ。出世と言う名の、現場からのリストラである。私はまだまだ途中の人でいたい。まだ、その先には行きたくない。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


冒険の予感にワクワク!見事な“ツーにゃんたま”にロックオン
 今日はまだ行ったことのない場所へ、アニキが連れてってくれるんだ!  タンケン♪ タンケン♪ 楽しいな~♪ ...
生活保護者の柩に添えられた友人からの別れの花は「心の花」
 たとえお花を特別意識していない方であっても、長い人生の中で「心に残る花」と出会う場面にいつか遭遇するかもしれません。そ...
“察してちゃん”になってない? 7つの特徴や良い対応方法!
 大人になるにつれて、ついつい本心を隠してしまうシーンってあると思います。でも、「そのくらい察してよ」と事あるごとに相手...
お弁当デビューして節約! 無理なく続けるための3つのコツ
 OLの皆さん、通勤の日のランチは何を食べていますか? コンビニでおにぎりとサラダチキンと……「合計587円です」。毎日...
「ちょっとだけよ」チャトラ君に懇願して“にゃんたま”チラリ
 猫のヒゲ袋(マズル)も、ぷくぷく可愛いくて大好き部位だけど、にゃんたまωを見られたら今日はラッキーデー◎。  希...
うわべだけのママ友はいらない! 無理に付き合わないコツ4つ
 共通点があることは、人間関係を深くする上で大事なポイントです。学生時代の友達作りの流れを見てみると「部活動を共に頑張っ...
恋人と話し合い投薬治療を続けるも…また全身に湿疹が出現!
 潜在的な患者も含めるとおよそ30〜60人にひとりの女性がかかると言われている甲状腺疾患。バセドウ病は、甲状腺機能が亢進...
ズルい!「キミが1番好きだよ」の裏に隠されたオトコの真理
 気になるカレから口説かれるとテンションが上がりますよね。その気になってしまって、気がつけばお泊りなんてことも。でも、そ...
大変なことに!“にゃんたま君”がカメラバッグにマーキング?
 むむむ! くんくん! おいらの縄張りに怪しいものがあるぞ!  知らない猫の匂いがする……?  きょうは、私...
お試しの価値アリ!ふわモコ可愛い「ミモザ」の素敵な飾り方
「ウチの野菜はなんだかみんなデカ過ぎる」  お花のお買い物がてら、家庭菜園で採れるお野菜の差し入れを何かとしてくだ...
「負けられないにゃ!」“にゃんたま”が雌猫ちゃんを取り合い
 きょうは、モテ三毛猫ちゃんに群がるにゃんたま君ふたり。  こんなシーンに出くわしたらドキドキしちゃいます。 ...
皆の憧れの的…いつまでもオバサンにならない女性の特徴5つ
「あの人はいつ会っても若い」そんな女性、あなたの周りにもいませんか?  美人だから、というだけじゃない。いつもパワフル...
アナフィラキシーだった…バセドウ病治療は危険と隣り合わせ
 女性ではおよそ30〜60人に1人、男性ではおよそ50〜100人に1人がかかると言われている甲状腺疾患。圧倒的に女性に多...
パパ活してる?してない?…男性はここをチェックしています
 パパと称するいわゆるパトロンに会ってお食事し、お金をもらう……。そんな「パパ活」というものが陰で流行っているとかいない...
解決策はコレ! 働く女性が実践すべきカレの浮気を防ぐ方法
 30歳を過ぎると、浮気されて怒る側から浮気相手として求められる側に立つことが多いです。不倫じゃんと思うことも……許すま...
プロポーズの季節…メス猫について歩く健気な“にゃんたま”君
 ネコ界ではプロポーズの時期、にゃんたま君はメス猫の後ろを、三歩下がってついていきます。  健気に毎日毎日…それは...