物事の終わりの「残念です〜」に、どう答えればよかったか。そして心に残る本当の気持ち。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2026-02-16 12:43
投稿日:2026-02-14 11:45
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

私はどう答えるのが正解なのか

「えっ、終わっちゃうんですか? 残念です~」と言われて、私は何と答えるのが正解なのだろう。「ですよね~」と他人事のように同調する。「申し訳ございません」と謝る。「えっ、そうですか?」と問い返す。

 どれもズレているような気がするが、とりあえず嘘にならない範囲で返すしかない。「え~は~」相手にとっては物足りないだろうが、そんなところで勘弁してほしい。正直、自分でもどう思っているのか、よくわからないのだ。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

69年続いた個人書店の閉店

 街の本屋というのは、たいてい入口にレジがあって、何も買わずに出て行くのが少し気まずいような作りになっている。新宿区とはいえ、ぽっかり守られたような中井の小さな商店街。そこで69年間、営業を続けた個人書店が閉店する。

 その知らせは、書店の公式サイトやSNSで発信され、話題をまあまあ呼んだはずだが、届いて欲しい地元の常連客にこそ、全く気付かれていなかった。レジ脇に置いたA4サイズのパネルで、だいぶ前から閉店をお知らせしている。

 しかし、何度となくスルーされ、え、今さら?というタイミングで「閉店!?うそでしょ?!」と驚かれるのだ。相手はまだ何か話したそうだが、そういう時に限って、会計を待つ人が並んでいる。やはり「え~は~」と濁して終わらせた。

 書店員を10年以上、やってきた。大手チェーンの大型店舗でアルバイトを始めた時はもう、出版業界は右肩下がり。電子書籍が浸透し始め、コロナがあり、本はネット書店で買う時代、気付けば教科書だって電子だ。

 その間、私は書店の正社員になり、いくつかの店舗を渡り歩き、別の会社に移籍もした。それでも自分がいる店舗の閉店を、たった一度しか経験していないのは、だいぶ運が良かったのだと思う。

 その一度だって、決して業績が悪かったせいではなく、本部のえらい人がどうこうして、白羽の矢が立っただけのことだった。あの店はとても愛されていたから、残念に思う人は多かったはずだ。

 けれど私はちょうど閉店間際の頃、ストリップの仕事が忙しく、ほとんど店頭に立たずに終わってしまった。だから「残念です~」に対する適切な答えがわからないまま、今に至る。

積み上げてきたことが「無」になる

 ただ、店長から閉店を知らされた時、ぽかんとしたことは覚えている。日々ひとつずつ積み上げてきたこと、バックヤードで話し合い、喧嘩したり歩み寄ったりしたこと、みんなで決めた品出しのルールや、ホッチキスをどこに置くとか、棚の傷を隠すために貼ったポスターとか、そういうことが全部無になるのだ。

 誰かが段ボールを切って作った引き出しの間仕切りも、エクセルを何度も書き換えて作ったフェアの記録も、全部ゴミ箱行きだ。一生続くなんて思ってはいなかったけれど、終わりを意識してやってきたことなんて、ひとつもなかった。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


亡くなったペットのお別れに注文増、大切な家族の供え花に必要な情報は?
 故人へのお供え花を作らせていただく花屋の感覚として、暑さ寒さが続く日や季節の大きな変わり目はお悔やみ花を作る機会が多い...
帰省中に岡山・蒜山高原でワーケーション 2023.8.15(火)
 この夏休みは、千葉から夫の実家のある岡山県に帰省しました。帰省中、パソコンを開きたかったのですが、夫の実家は人の出入り...
人じゃないモノたちで賑やかな街 2023.8.14(月)
 街に人が戻ってきた。大阪はこうでなくっちゃね。  でも、ココは誰もいなくても賑やかな街だ。  ちょっと見上...
「ジェンダーリビール」って知ってる? 大失敗した話&次はおにぎりで♡
 最近、世界の妊婦の間で流行っているのが「ジェンダーリビール」です。日本ではまだまだ聞き慣れない言葉ですよね。今回は「ジ...
「押すなよ、絶対押すなよ」ビーチボーイズ“たまたま”を激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
嫁の手作り料理をバカにし過ぎ!息子寵愛義母から来たムスコンLINE3選
「ムスコン」とは、息子から子離れできない親に対して使われる言葉だとか。特にムスコンの被害を受けやすいのが、お嫁さん。義母...
2023-08-13 06:00 ライフスタイル
親戚との会話に困ったら?「5つの話題」と相槌と“離れ技”で乗り切る戦法
 お正月やお盆の時期などに、頭を悩ませるのが親戚付き合いです。年に数回しか会わない親戚とは、何を話したらいいかわからず、...
動物&飼い主のほっこり癒し漫画/第55回「宅配トリモノチョウ」
 ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 生きものたち、その生きものたちをこよな...
たまごっちってうんち垂れ流ししないの!?「平成レトロ」なおもちゃの今
 最近ちまたで注目を集めている「平成レトロ」。平成レトロとは「平成を懐かしく想う文化的風潮」のこと。1989(平成元)年...
2023-08-12 06:00 ライフスタイル
もう義母になめられない! 帰省時に役立つ「良好関係キープ術」4つ
 結婚すると気になるのが、義母との関係。仲良くいられるかどうかで、結婚生活が大きく変わってしまいますよね。特に多いのが、...
嫌われ街道まっしぐら! 後輩・部下にやってはいけない4つのこと
「なんだか部下との関係が良くない気がする」「後輩に避けられているのはなんで?」と悩んでいる方必見! 今回は、職場の後輩や...
オトナになっても残る呪縛!「長女をやめたい」と感じた瞬間&苦労あるある
 姉妹(きょうだい)で何番目に生まれたかどうかは、その後の生き方に大きな影響を及ぼしますよね。それぞれの立場でメリット・...
雨上がりの公園、誰にも大切な時間がある 2023.8.11(金)
 おのおのが好きな姿勢で好きなように過ごす人とハト。  近すぎず、離れすぎず。ほどよい距離感ってある。  会...
ペットボトルの炭酸水で考えてみた 物の価格・人の価値は「環境」次第!
 みなさんは“自分の価値”について悩んだ時はありますか? 職業柄と性格のせいで、私はけっこう考え込んでしまうタイプなので...
季節到来・台風や大雨が「大地震」の引き金になる研究も…相関関係は?
 九州・沖縄地方に大きな被害をもたらした台風6号に続いて、お盆休み真っただ中の14日近辺に強い勢力で関東上陸の可能性が高...
のんびりと見せかけて…カメラバックを守る“たまたま”警備隊
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...