月吹友香さん<後>41歳専業主婦が小説家を目指して見えたもの

コクハク編集部
更新日:2019-10-18 06:00
投稿日:2019-10-18 06:00

専業主婦が小説家を目指したきっかけは…

――結婚後は専業主婦として夫を支える日々を送っているそうですが、小説を書こうと思ったきっかけは? もともと作家を目指していたんですか。

月吹 作家なんて、それこそ選ばれた一部の方々が生業にされるものだと思っていたので、遠い世界の話でした。

――では、どうして?

月吹 仕事を辞めてからもどこか悶々としていたんです。そんな時、シナリオセンターのワークショップを体験した友人に感化され、自分でも行ってみたら面白くて面白くて。一文字ずつ一行ずつ自分の思いを形にしていくことに魅せられました。小さな頃から妄想好きだったこともあり、「こんなに楽しいことがあるんだ。めちゃめちゃ楽しいやん!」って。もう水を得た魚のようでした。そして、徐々に映像に必要な情景描写が求められるシナリオより、自由度の高い小説に魅了されるようになっていき、大阪文学学校(大阪市)に通うことにしたんです。

――モヒート好きを公言されているところからラテン系の情熱家だとお見受けしていたのですが、実際、なかなかの行動力ですね。

月吹 ラテン系というわけではないのですが、キヌ子のエピソードを書く時はAndra(ラテン系ミュージシャン)の曲を流していました。子供の頃は自分の思いを表現したいのだけれど、具体的に何をどうすればいいのかが分からない焦燥の中にいたように思います。小説を書く時は、何かこう、心につかえていた澱が吐き出される感覚があり、そこに惹かれたのだと思います。

「あの作品を書いてくれてありがとうね」

――いまから6年前に初めて書いた青春小説で群像新人文学賞の一次審査を通過するも、それ以降は他の文学賞に応募してもさっぱりという状況が続いたとか。

月吹 「本当は何が書きたいんだろう」と自答していた私に一筋の光、目指す方向性を導いてくださったのが、R-18文学賞への応募だったんです。自分の作品を振り返って読んでみたら、登場人物の年代や物語の内容問わず、女性の主人公ばかりを書いていた。それで「ああ、これだ、これしかないな」って。

大賞受賞後に痛感すること

――大賞受賞直後、執筆に愛用していたPCが壊れてしまう事態に。30万円の賞金の一部で新しいものを購入し、現在は短編を執筆中だそうですね。

月吹 書いては直す作業の繰り返し。賞をいただいてからの難しさを痛感しています。「赤い星々は沈まない」は疼きの感じられる作品だと評価していただいたのですが、大賞受賞はもしかしたら私の筆力ではなく、テーマの力だったのかもしれないと思ったりもします。

 でも、こんなことがあったんです。文学学校でお世話になった講師から声をかけていただき、学校へうかがったのですが、80歳を超えた女性の生徒さんから「あの作品を書いてくれてありがとうね」と声をかけていただいた。それは私にとって何よりの賛辞。これからも女性の心の機微を大切にすくい取りながら、共感を持ってもらえる作品が書けたらと思っています。

  ◇  ◇  ◇

 女心と秋の空。天候が変わりやすい秋の空模様に女性の移り気な心をたとえたことわざがあるけれど、それを私たち自身が楽しめるような心の余裕が持てたら、一体どんな景色が見えるのでしょうか。何はともあれ、まずはふうーっと深呼吸。オトナ女子の自分磨きは永遠だけに、焦らず、ゆっくり。そして、自分に甘くまいりませんか。

(聞き手・文=小川泰加/コクハク編集部)

▼つぶき・ともか 1978年生まれ、東京出身。銀行勤務を経て主婦へ。「赤い星々は沈まない」で第18回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。好きなお酒は広島の地酒「雨後の月」とモヒート。

※「女による女のためのR-18文学賞」…新潮社が主催する女性限定の公募新人文学賞。年齢制限はなく、15歳の熟女でも80歳の少女でも応募OK。2002年の第1回から10年間は「女性が書く、性をテーマにした小説」を広く応募していたが、第12回(2012年度)以降は官能描写の濃淡に関わらず、「女性ならではの感性を生かした小説」を募集。現在は第19回(2020年度)の作品応募が始まっている。

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

ライフスタイル 新着一覧


実りの秋! 澄みわたる青空の下“たまたま”狩りに出かけませんか?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
女と水がいっぱいだ…『娑婆』は何て読む? ヒント:「娑婆はいいな」
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり癒し漫画/第83回「迷いインコ歌をうたう 前編」
【連載第83回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
中目黒「ダコー」はまだ大混雑? 代官山「無印良品」新店はオサレな店員さんだらけだった!【秋の東京散歩】
 8月のオープン時には話題を呼び、大行列をなしていた中目黒のパン屋「ダコー(dacō)」。あれから2カ月が経ち、やっぱり...
下世話な仕事がバレた? 夫や息子の「意外な反応」で主婦が気づいたこと
 大崎の高層マンションに暮らす華は、テレビ局に勤める夫・大輔と二人の子供に囲まれ悠々自適な専業主婦生活を送っている。毎日...
地味な女に負けた? 夢を諦めた“こたつライター”の「プライド」が砕かれるまで
 大崎の高層マンションに暮らす華は、テレビ局に勤める夫・大輔と二人の子供に囲まれ悠々自適な専業主婦生活を送っている。毎日...
私の「仕事」は夫に内緒。専業主婦が下世話なゴシップにのめり込むワケ
 夫を仕事に、ふたりの息子を小学校に送り出してからが、自分の時間だ。  長時間かけて丁寧に淹れたブルーマウンテンを...
プロ作家・村上龍先生をリスペクト。64歳のプロ童貞が語る「自己啓発本を好きなこれだけの理由」
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
「#男児ママ」トレンド入り 小学校低学年の息子が大浴場で誰かに触れて問題になったら?【弁護士解説】
 9月末、X(旧ツイッター)で「男児ママ」がトレンド入り。これは男児を銭湯や温泉、または女子トイレに連れてくる男児の母親...
え、これだけで? 爆速で人と仲良くなれる「超簡単」なテクニック
 みなさんは距離を縮めたい人にはどんな風に接していますか? 私はミリ単位でジリジリ近づくことが多いのですが、スナックでの...
ボサ髪にギョッ! 100均ヘアグッズで「ちゃんとした女」に変身できる?
 写真や動画を見返した時、自分の髪がボサボサすぎてギョッとしました。「いい加減ヘアセットくらいしようよ」と出かける前の自...
最近の小学校で教わる「ふわふわ言葉」って何? 大人こそ大切にしたい心地よい言葉6選
 皆さんは「ふわふわ言葉」を知っていますか? 最近の小学校の教育現場で教材になっている、子供だけでなく大人こそ改めて大切...
プー太郎君の「ほよよ顔」に癒される~♡ 猫カフェで至福のひと時
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「リンドウ(竜胆)は仏花」と決めつけるのはもったいない! “花が咲くリンドウ”を楽しんで
 日中は冷房、夜は毛布をかけて寝る不思議な時期です。これを秋と呼んでいいのかは迷いますが、季節の移ろいを感じる今日この頃...
「あー家が狭い!」4つのイライラ解消法。プチ優雅な暮らしを諦めない
 家が狭いとイライラしてストレスが溜まりますよね。物にあふれた部屋を見るだけで、どっと疲れが押し寄せてきます…。でも、ち...
癒されないわけがない!40女が選ぶ秋の夜長に読みたい珠玉の猫漫画3選
 10月に入り一気に過ごしやすくなりました。読書の秋! と言いたいところですが、毎日の仕事や家事で心身ともにお疲れ気味…...