非日常の暗闇で聞こえる吐息…都会のおすすめデートイベント

内藤みか 作家
更新日:2019-04-11 06:00
投稿日:2019-04-11 06:00
 都会人にとって、真っ暗闇はなかなか味わうことができない環境。家の外に出ると夜でも街灯が輝き、カーテンごしにもその光が入ってきます。家の中で電気を消してもスマホの充電器やコンセントの明かりなど、あちこちで小さな光がまたたいます。そんな都会人の心の隙間を突くかのように、真っ暗闇を味わうイベントを続けているユニットがあります。

東日本大震災がきっかけに

「くらやみあそび」のきっかけは計画停電(写真:iStock)
「くらやみあそび」のきっかけは計画停電 (写真:iStock)

「くらやみあそび」という舞台のコンセプトを女優の木野コズヱさんが思いついたのは、2011年。東日本大震災が起き、あちこちで原発事故の影響による計画停電が行われると告げられ、社会全体が電気の使用を控え、夜の街が輝きを失っていた時のことでした。

「このまま電気が使えないのであれば、電気を使わないお芝居を考えていかなくては」

 大変な状況の中でもお芝居をする情熱を失わず、その逆境を生かそうと考えるだなんて、なんという女優魂でしょうか。そして彼女が思いついたのが「くらやみあそび」。押し入れにこもって遊んでいた子どもの時のような感覚を皆に味わってもらいたいと、演出家の三浦佑介さんと一緒に舞台を作りこんでいったそうです。

ぼうっと光る受付

上演前は影絵で遊べるセットで遊ぶことができます撮影:内藤みか
上演前は影絵で遊べるセットで遊ぶことができます 撮影:内藤みか

 実は私はこの「くらやみあそび」を、もう4回も観に行っています。毎年演目が変わるので、年に1回行っているかんじです。何がいいかというと、やはりその非日常感。受付からして暗闇の中でぼうっと光っていて、お札さえ判別できません。受付の人が財布近くにあかりを差し出してくれてやっとチケット代のお支払いができるのも、普通では味わえない経験です。

 そして劇場に入り、会場が真っ暗になった時は怖いのですが、演出家が柔らかい声で、深呼吸を促し、みんなが落ち着いてからゆっくりと舞台が始まる、その雰囲気も好きです。そして物語は、闇をテーマにした毒メルヘン的な内容。時には兄に洞窟に閉じ込められた少女が、時には呪われた我が身を嘆いて閉じこもった少女が、闇の中で蠢き、心情を吐露していくのです。

 闇の中で影絵が効果的に動くことも。人影が重なり合うようなオトナなムードの動きがあるのも、子どもの頃遊んでいた影絵とはまた違い、艶っぽいです。

闇だからこそ浸れる感覚

上演中。闇を生かしたセットや演出が素敵です。写真提供:くらやみのあかり
上演中。闇を生かしたセットや演出が素敵です。 写真提供:くらやみのあかり

 今回の上演では、心疲れてひきこもりになった少女がヒロインで、タイトルは『少女変身』。観客は少女が引きこもっている自室を取り囲むように座り、彼女をじっと見守るのです。やがて、ヴェールにくるまってうずくまっていた少女が静かに立ち上がり、ささやくような小声で語りかけてきます。

 話の内容は実はかなり深く……。今回は、目覚めたら毒虫に変身していたという少女の苦悩を描くひとり芝居でしたが、女性らしく生きることを強要されることに疲れた理由を、せつせつと語り上げます。時には過呼吸になったのかと思うほど息を荒くさせるのですが、その苦しみが闇の中で観察しているこちらにダイレクトに伝わって来て、涙する女性もいるほど。

一緒に真っ暗体験も

闇の中に浮かび上がる物販コーナー撮影:Kakky
闇の中に浮かび上がる物販コーナー 撮影:Kakky

 そして味わう闇の、なんと静かで落ち着けることか。忘れていた原始の感覚を取り戻せた感じがするのです。終演後は、隅でほのかに輝く物販コーナーが小説本を売っていて、何人もの人がそれを買い求めていたのも、この気持ちを忘れたくないからなのかもしれません。私がこの舞台を最初に観に行ったのは、ただ単に仲良しの男性と一緒に真っ暗な中でいいムードになりたかったからなのですが、暗闇自体が楽しすぎて、今ではひとりでも観に行っています。

 この舞台は「くらやみのあかり」というユニットで上演しています。『少女変身』は好評のため、何度か再演予定だそうなので、気になる人はチェックしてみてください! もちろん、大好きな誰かと向かい、一緒に闇を楽しんで見るのも、おすすめです。

内藤みか
記事一覧
作家
著書80冊以上。大学時代に作家デビューし、一貫して年下男性との恋愛小説を書き綴る。ケータイ小説でも話題に。近年は電子媒体を中心に活動。著書に「あなたに抱かれたいだけなのに」など。イケメン評論家として、ホストや出張ホストなどにも詳しい。
XInstagram

ライフスタイル 新着一覧


「正しくないこと」が「美しくない」とは限らないと知った
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
松田聖子まさかの中大法学部を卒業! 通信制の学び直しで成功する人は?
 先日、歌手の松田聖子さん(62)が中央大学法学部の通信教育過程を卒業したことが話題になりました。近頃、通信制大学で学び...
瞬き厳禁! 春到来の歓びを表現する黒“たまたま”を見逃すな
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
スタレビの名曲が聞きたい!仏教と深い関係のある「木蓮」とその仲間たち
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は、ただいま卒業式や送別など春特有のイベント仕事で、いつにも増して花まみれの毎日...
“炎上常連”麻生さん級の「ルッキズム失言」していませんか?
 最近、よく耳にするのが「ルッキズム」という言葉です。政治家や芸能人が、何気なく言った一言で「ルッキズム発言だ」と叩かれ...
女の敵は女だから?忘れた頃にぼっ発する「専業主婦論争」をガチで考える
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方などをテーマにブログやコラムを執筆しているまめです。  X(旧Twi...
職場の同僚ランチが苦痛すぎる…一人の時間を確保する4つの冴えた処世術
 業務内容へのストレスより、職場でのランチタイムが苦痛という人は多いですよね。正直、仕事で疲れているのに、休憩時間まで同...
離婚→シンママになり、心底よかったこと4つ 我慢は美徳っていつの話?
 世間では、離婚してシンママになった女性に対して「かわいそう」「大変そう」といったイメージがあるかもしれません。  で...
春まであと少し?
 残雪の甲斐駒ヶ岳を背にすっかり葉も落ちた葡萄畑  春まであと少しが意外と長い
春のお花と記念撮影にゃ! ウサギみたいなしっぽの“たまたま”
 きょうは、ウサギ君みたい! しっぽの短いにゃんたま君に出逢いました。  しっぽが短い猫は長い猫と比べると、臆病で...
ほっこり癒し漫画/第70回「すぷりんぐファミリー」
【連載第70回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
男と女の物語、だからこそ「娚」の当て字が使われた
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「場所代は200円いただくわ」堅実というかケチ!名目別に徴収するママ友
 ママ友と仲が良いといっても、子どもありきの関係。価値観や金銭感覚など、すべてが合うとは限りませんよね。  中には、マ...
家庭の派閥争い…夫の“ポカリ甘すぎ、アクエリアス!”に猛反対する妻
 混沌とした世の中。世界で起こっている戦争や紛争だけでなく、会社やネット上のコミュニティーでもあらゆる「派閥争い」が繰り...
40代が自分の老いを実感した切ない瞬間4つ 運動は得意だったのに(涙)
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。特に若い頃に運動が得意だった人は、頭では動けると思っているの...
ストリッパー、Airpodsおじさんに学ぶ。
 AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。  なにそれ...