更新日:2023-08-07 14:01
投稿日:2023-07-28 06:00
女同士の静かなバトル
――えっ、ヨウコさんが?
「はい……。レッスンは親子で参加するのがルールです。これまではユウキがシフト勤務を工夫して、付き添ってくれたんですが、妊娠の安定期に入ったヨウコが来てしまって……。
初めてレッスンで会った際、ヨウコは膨らんだお腹を撫でながら、幾分か頬を引きつらせた笑みを向けてきましたね。
――ユリの通うリトミック教室が、まさかアミの教室だったとはね。
先にユリちゃんを室内に入らせたヨウコが、玄関先で言ったんです。
――あらあ、知らなかったの?
私も笑みを返しました。腹の底ではこの猫ババ女が! と罵っていましたが。
悪意には悪意で「夫婦の会話、少ないの?」
――お月謝も割り引いてくれているそうね。ありがとう。
――昔のよしみよ。割り引きの件は他の生徒さんには内緒にしてね。
――内緒にしなきゃいけないなら、全額払うわ。かえって心の負担になるから。
口調こそ丁寧ですが、そこには間違いなく悪意が感じられました。
――気にしないで。引っ越し祝いと出産祝いも兼ねてよ。でも……。
――でも……何?
――ご主人はなぜ、最初から私の教室だと言わなかったのかしらね。
――えっ?
――もしかして、夫婦の会話、少ないの?
私はくすっと含み笑いをしました。ヨウコが妊娠の関係で精神が不安定になり、ユリちゃんに苛立ちをぶつけていることはとっくに知っていましたし、大学時代にユウキにニセ情報を吹き込み、私と彼を別れさせた事実も明らかになっています。
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