#2 友達の結婚、喜べないのはなぜ? 勝ち組を裏切りだと感じてしまう記憶

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-12-17 06:00
投稿日:2023-12-17 06:00

得意げに自慢話をする男。悪気はないのだけれど…

 朝ドラ、とはNHKの誰もが知るあの国民的番組である。

 坂本さんはすこし前のそれに1話だけ出演していた。スポット的だったが、ちゃんとオープニングロールに名前が出るような役であった。

「へー、おめでとー」

 心にもない賞賛を送ると、彼は待っていましたとばかりに、引っ越してから仕事が上向きになったことを自慢げに語りはじめた。

「てか、沙恵ちゃんはどうなの?」

「あるにはあるけど、情報公開がまだで」

「そうだよね、わかるよ。言えないもんね」

近況を聞かれたけれど

 公開を待っている情報などない。ミュージシャンであれど、メディアに出るようなランクじゃないのだ。

 その後、私は彼からさんざん近況を聞かれたが、のらりくらりと返答を交わす。

 とてもまずい酒の肴であった。

 終電時間を知らせ、気遣うふりで追い払おうとするも、タクシーで帰るからいい、と言う。

 しかし、こういう時に限っていつものメンツは誰もやってこないのであった。

あっち側に行った人間に用はない

「じゃあね、みんなによろしく言っておいて」

 手を振ってタクシー乗り場に消えていく坂本さんを見送った私は、誰にも見られないようにアスファルトの地面を強く蹴った。

 本日の呑み代・合計4355円の支払いをしてくれた恩はあれど、やり場のない憎しみが増大する。

 痺れた足を引きずりながら喫煙所に向かい、タバコを5本、立て続けに吸う。

 落ち着いたところで、彼に対して抱くのは哀れみだった。

 ――変わっちゃったんだな…可哀そうに。

 何をやってもダメで、私にもかつて借金をしていた彼。セフレが何人もいて、ある夜、その中のひとりに勘違いされてなぜか刺されそうになったことがある。

 もうそれは遠い話だ。彼はあっち側に行ってしまった。タクシーで帰る人間にもう用はない。

深夜のLINEの呼び出しがうれしい

「…ん?」

 喫煙所に居座りながら無感情でスマホゲームをしていたら、画面にLINEの通知が入った。たかぴーからの呼び出しだった。

 時刻は午前1時。

 常識、非常識などは気にしない奴ら。こいつらは、こうでなくてはならない。私は喜んで、彼が指定した店に向かった。

 そこは高円寺には珍しく、品のいい匂いがするダイニングバーであった。

「あ、沙恵ちゃん、こっちこっち」

 バーには、志島さんやユウくんなど、ナベさん以外のオールスターメンツが揃っていた。

 あの店には来ていなかったが、呼べば来る。みんなやっぱり毎日呑みたい人種なのだ。そうと思うとうれしくて、胸が熱くなった。

突然の結婚&引っ越し宣言に衝撃

 ただ、いつもと違うのは、呼び出した男の隣に、見たこともない美女が座っていたことだった。

 全員が揃ったところで、たかぴーが立ち上がり口を開く。

「実は僕、結婚が決まりまして。来月、代々木に引っ越すことになりました」

「…え、うそ!」

 私の声は店に響き渡るくらいの大きさだったようだ。

 祝いの言葉より先に、叫んでしまったことを後悔する。

 何を勘違いしているのか、彼の隣の美女が、怪訝な表情で私を捉えていた。

#3へつづく:いつもの場所から、ひとり、またひとりと去っていく…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


離婚→再婚はセット? 再婚願望のないシングルマザーが考える
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
無防備さがたまらない♡ほよよ顔と“にゃんたま”の豪華セット
 きょうは、猫ヨガポーズで入念に毛繕いしているところ、「にゃんたまω見せてください!」と、お願いしました。  この...
「おこもりキャンプ」レポ 2021.11.28(日)
 昨今のキャンプブームと“三密回避”の需要が相まって、人気沸騰中の「おこもりキャンプ」。今回は、埼玉県越生町にあるビオリ...
お金が貯まらない…貯金できない人の特徴&貯蓄する方法6つ
 社会人になれば自分で稼いだお金で好きな物を買い、生活することになります。収入は人によって異なりますが、中には、「なかな...
お母さんのおもしろ誤字LINE5選!なんでそうなっちゃった?
 現代の家族間での連絡手段といえば、やはり主流は「LINE」でしょう。そんな家族LINEには、面白い内容がたくさん! 特...
デキる大人は見逃さない!メンタルが弱っているサイン6選
 あなたは自分のことをどのくらいよく分かっているでしょうか。私はそろそろ大人歴(20歳が大人のスタート)が10年になろう...
ぐっすり眠る“にゃんたま”をクンクン…乙女心の行方は?
 きょうは、無防備に眠るにゃんたま君に忍び寄る……の巻。  ゆっくりゆっくり、にゃんたまωにそ~っと顔を近づけるの...
アナタの観葉植物は大丈夫? 不調の原因&冬のお手入れ3カ条
 今年もなんだかんだで残すところ、あと1カ月ちょっと。  思えばほとんどが緊急事態宣言下だった今年、ようやく少し賑...
息子のお友達から“シングルマザーだもんね!”と言われた日
 はじめまして。シングルマザー3年目の孔井嘉乃です。私には、6歳になる息子がいます。  家庭の事情はそれぞれあって、離...
自分の魅力を熟知! クールな視線がかっこいい“にゃんたま”
 カッコいいにゃんたまωポーズ、クールな視線、キマッてるね!  にゃんたま君は自分の魅力を知っていて、写真の撮られ...
多頭飼いは“つかず離れず”がちょうどいい 2021.11.21(日)
 我が家には2匹の猫がいます。マンチカンのもん様こと主水、スコティッシュフォールドのこっちゃんことコロナ。  もん...
恥ずかしすぎて消えたい…職場グループに送った誤爆LINE5選
 職場のグループLINEは、仕事を円滑に進めるために、今や欠かせないものでしょう。でも、あろうことかそんな職場LINEに...
破壊力ありすぎ! おばあちゃんから届いた“勘違いLINE”5選
 いろんな時代や多くの困難を経験して乗り越えてきたおばあちゃんたちって、本当にたくましいですよね。ガラケー時代をなんなく...
無意味どころか不可能?!他人との比較が無駄といわれるワケ
 他人と比較しても意味がない——。そんな言葉を毎日のように目にします。この認識が広まるのはとても大切だと思いますし、みん...
まるでドラえもん! もふもふのお腹が魅力的な"にゃんたま”
 きょうは、ふしぎなポッケを持っていそうな、ドラえもんみたいなにゃんたま君です。  丁寧な毛繕いで、ふわっふわにな...
見た目のインパクトがすごい!「フウセントウワタ」の魅力
 近年、猫の細かなパーツに特化した、写真やグッズが人気のようでございます。  猫の肉球やお尻、足、シッポなどいわゆ...