「浜崎あゆみみたい」って褒め言葉? サブカル女からママ友への小さな抵抗

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

たまに感じる居づらさ「それでいいの?」

 ママ友たちの輪の中心で、真央はそれなりにうまくやっている。

 自分の名前を呼ばれないことにも慣れた。小学校ママ、幼稚園ママ、ご近所ママ、様々なLINEグループを使い分け、愛想笑いも顔に染みついた。

 当たり障りのない関係を常にキープしているからこそ、大きなトラブルもなく、傍から見たら充実しているように見えるだろう。実際、楽しいと聞かれれば迷いなく首を縦に振れる。

 だけど、なぜか居心地の悪さがある――。

 何不自由ない環境なのに、感じる後ろめたさ。「それでいいの?」と斜め上から誰かに問いかけられているような気がしている。

 カラオケ後のランチ会を終え、娘の幼稚園のお迎えまで、真央は一旦自宅に帰り、夕食の準備と午前中にできなかった部屋の掃除をした。

 キッチンで洗い物をしていると、リビングの窓の向こうに広がる小さな青空にふいに目がとまった。

「…」

 引き寄せられるように、真央はバルコニーへ向かう。

 広がる景色は、違う棟の建物と四角い空。管理人と業者によって手入れされた芝生と植栽が街に癒しと生命力を与えている。購入前にマンションギャラリーで見たジオラマそのものの光景だ。

 真央はふと思い出す。理想の街の地図を作ることが好きだった少女時代を。

平成の「サブカル趣味」に興じてた独身時代

 描いた地図の中には、住居はもちろん、大きな公園や小学校があって、素敵なカフェがあった。近くには大きなスーパー、家族の笑顔が溢れる街を画用紙いっぱいに表現していた。

 眼下の街は、真央が幼い頃に夢見た理想の場所のはずなのだ。

 だけど…。

 遠くから湘南新宿ラインの通過音と赤ちゃんの泣き声が聞こえた。秋風が真央の肌を撫でる。寝室にあるウォークインクロゼットに反射的に向かう。そろそろセーターを出さねばならないと思った。

「…あ、懐かしい」

 衣替えついでにクロゼットの整理をしていると、奥の方から十代の頃に着ていたTシャツの数々が出てきた。

 透明な衣装ケースに畳んであったのは、バッファロー66、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ、恋する惑星などのミニシアター系映画や、ロキノン系バンドのTシャツだ。真央の胸にときめきと懐かしさが押し寄せる。

 ――私、まさに平成のサブカル女子、だったんだよなぁ。

 真央は高校生の時、向井秀徳率いるナンバーガールにハマり、当然のごとく解散後はZAZEN BOYSに流れた。くるりや中村一義、ズボンズなども好きでライブにも足しげく通った。その時の音楽はいまだに脳内有線でヘビーローテーションされているほど。

 おもむろにZAZEN BOYSのライブTシャツを手に取ると、防虫剤の匂いが時間を巻き戻した。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


作家・重松清さんの愛情、時々イジリまじりのメッセージ
「日めくりコクハク」でおなじみ、写真家・Koji Takano(髙野宏治)さんの個展「めくりゆく日々」が1月7日~15日...
2023-01-04 06:00 ライフスタイル
この「動きたい」気持ちに素直になりたい 2023.1.4(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「今の仕事、辞めます!」女性が退職を決める8つのきっかけ
 仕事をしていれば誰だって、一度や二度は「辞めたい」と思ったことがあるでしょう。一時の感情で収まればいいけれど、中には辞...
【2022年アツかった記事】何コレー! 天然オブジェの“最高峰”「旅人の木」は見たら即買い!?
【笑う花には福来たる】 (2022年10月に公開したものを一部変更し、再掲した記事となります)   ※  ※  ...
何を感じ、どう動くかは自分次第 2023.1.3(火)
 2023年、自分もこうありたい。  銀座6丁目の交詢ビルにあるバーニーズニューヨーク銀座本店前、心躍るウィンドウ...
凍り付く空気の向こうに… 2023.1.2(月)
 雪化粧の富士山が見えた!!  空に向かって緩やかにそびえたつ、このシンメトリーな形に心が洗われる気がするのは日本...
【2022年アツかった記事】ステージ衣装用の真っ赤なランジェリーで“魔法”にかかった
【「イキてく強さ」】 (2022年11月に公開したものを一部変更し、再掲した記事となります)   ※  ※  ※...
【2022年アツかった記事】“にゃんたま”御開帳はうれしいけど…スプレー行為にご用心
【きょうのωにゃんたま】 (2022年2月に公開したものを一部変更し、再掲した記事となります)  ※  ※  ※...
あけおめ! 一休さんがこんなこと言ってたよ 2023.1.1(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「父子帰省」に初トライ! 作戦の行方は? 2022.12.31(土)
 父と子どもだけで父の実家に帰る「父子帰省」。ここ数年でよく聞くようになりました。我が家も例年、お正月は家族で義実家に帰...
ダブスタは悪? 発言がコロコロ変わる人に疲れたらどうする
 ここ最近“ダブスタ”という言葉をよく目にするようになりました。ダブルスタンダード、二重規範というやつですね。  一般...
違う場所で同じ太陽を見ている 2022.12.30(金)
 ここから朝日が昇ると知っていてカメラを構えていたのに、いざ現れると、強い光と存在感に思わず「おおっ」と声がでた。 ...
いまや希少な存在…来年も尊い“たまたま”に出会えますように
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
深追い無用!人間関係のリセット癖がある人と付き合うには
 人間関係はとても複雑です。嫌なことが重なって「今の人間関係をリセットしたい」なんて思うこともあるでしょう。実は、それを...
大人こそ切り替えが大事! ネガティブな気持ちは置いていこう 2022.12.28(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
家事育児の負担が平等なのはドラマだけ!夫が放った酷な一言
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...