「妊活を始めたものの、なかなか授からない…」《男性不妊》って知ってる? 意外と多い“精索静脈瘤”の話

コクハク編集部
更新日:2025-04-01 06:00
投稿日:2025-04-01 06:00
「妊活を始めたけど、なかなか授からない…」そんなとき、多くの女性が婦人科に行く。でもちょっと待って。実は不妊の約半数は「男性不妊」と呼ばれる男性側に原因があるケースが珍しくないこと、ご存じでしょうか?

男性不妊、精索静脈瘤とは?

「男性不妊の中でも特に多いのが精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)です。しかし『男性不妊』そのものも、『精索静脈瘤』という症状も、まだまだ知られていないのが現状ですね」

 こう話すのは、男性不妊治療の専門医、銀座リプロ外科の永尾光一先生です。

 精索静脈瘤は、成人男性の約15%が持っている病気で、男性不妊原因の35~40%、2人目不妊の45~81%を占めるものの、男性特有の症状なので婦人科での検査では発見できず、気づかれにくいとされています。

 そもそも、どんな病気なのでしょうか?

「簡単に言うと、精巣の血流が悪くなって、精子の質が低下する病気です。陰嚢(いんのう)がデコボコしている人は要注意ですが、精液検査だけでは分かりません。見た目の精子が元気そうでも、DNAにダメージがあることが多い。つまり精子の“中身”が傷ついている状態ですから、受精しにくかったり、受精しても流産しやすくなったりする可能性があります」(永尾先生)

 しかも、精索静脈瘤は時間とともに悪化する特性があるといいます。

【こちらもどうぞ】アラフォーの性交痛 相性悪いから濡れない?【薬剤師監修】

「人工授精してもダメだった」もしかして…?

 妊活で婦人科にて行った精液検査で「精子の状態がよくないですね」と言われ、人工授精や体外受精をすすめられることは少なくありませんが、まずは男性不妊を疑ってほしいと永田先生は訴えます。

 実際、婦人科で「顕微授精(※)レベルの精子ですね」と診断され、その後、精索静脈瘤の治療手術を受けた夫を持つ、30代の女性はこのように話します。

「顕微授精をする前に夫に泌尿器科での受診をすすめ、精索静脈瘤だと診断を受け、手術をしました。夫は術後の検査で正常精子の数が1244倍に改善。そしてすぐに自然妊娠し、続いて2人目も自然に妊娠したんです」

(※)顕微授精…体外受精の一種で、顕微鏡下で卵子に精子を直接注入して受精卵を作る方法

泌尿器科での男性不妊治療はなぜ広まらない?

 男性側の治療で“妊娠しやすくなる”可能性があり、「精索静脈瘤の手術は日帰りで1時間程度。傷も小さくて、すぐ回復する」(永尾先生)と言いますが、なぜ泌尿器科の男性不妊治療が広まらないのでしょうか。夫が病院に行きたがらないという声はよく聞きますが、実はそれだけでありません。

「婦人科では泌尿器科をすすめることが少ない。婦人科における不妊治療のガイドラインでは、2011年まで精索静脈瘤が“無視”されていたのです」(永尾先生)

 永尾先生によると、当時の婦人科の方針では、

1. 精子が少ない→サプリメントや漢方を試す
2. うまくいかなければ人工授精へ
3. それでもダメなら体外受精・顕微授精
4. 無精子症やEDだけは泌尿器科へ

 という流れが一般的で、精索静脈瘤が原因で精子の質が低下していても、その治療が選択肢にすら入っていなかったといいます。

 その後、2014年にNPO法人「男性不妊ドクターズ」が立ち上がり、理事長である永尾先生が中心になって精索静脈瘤の重要性を訴え続けた結果、2017年、婦人科のガイドラインに「精索静脈瘤の検査を行うべき」との記載がなされ、2024年には泌尿器科学会が中心となって「男性不妊ガイドライン」が制定されました。

今、精索静脈瘤の啓発が必要な理由

 依然として不妊治療といえば婦人科という固定観念が根強いなか、永尾先生はこう話します。

「実は、泌尿器科で精索静脈瘤の治療をすれば自然妊娠できる夫婦はかなり多いのですが、そのことを知らずに顕微授精を繰り返してしまうケースが少なくありません。

 実際に顕微授精をすすめられた人の38%が精索静脈瘤手術後に自然妊娠可能になったというデータがあります。体外受精レベルの人の50%、人工授精が必要と言われた人の60%が自然妊娠できるようになりました」

男性不妊の治療について

 男性不妊治療について整理してみましょう。

 精索静脈瘤という病気は有病率が高く(成人男性の約15%が罹患)、手術する場合は1時間程度の日帰り手術で回復も早い。そして、手術後の治療効果は高いとされています。男性が不妊治療を受けるメリットは大きく、「自然妊娠は無理」と諦めてしまう前に、泌尿器科で精索静脈瘤の検査を行ってみる価値はありそうです。

精巣機能低下の予防法は?

 精索静脈瘤は体質的な要因が大きく、予防するのは難しいとされていますが、そもそも精巣機能低下の予防法は?

「長時間の立ち仕事や座り仕事は、血流を悪くする原因になります。自転車に長時間乗るのはおすすめしません。きつい下着やズボンを控えて、陰嚢の血流を妨げないようにしたいですね。

 それから精巣の温度を上げすぎないこともポイントです。サウナや長風呂を控えめにした方がいいでしょう。何より陰嚢がデコボコしている、違和感を抱いたら、早めに泌尿器科で診てもらうことが一番の予防になります」(永尾先生)

「婦人科で無視される病気」から「無視できない病気」へ

 まだまだ男性不妊ついての認知は低いといえますが、2024年4月には「一般社団法人 精索静脈瘤協会」が設立されました。

「これまでは、医師が中心となって情報発信してきましたが、これからは一般の人の声をもっと届けたいと考えています。精索静脈瘤を、婦人科の医師から“無視される病気”ではなく、“無視できない病気”にする。それが私たちの目標です」(永尾先生)

 男性不妊について正しく理解することで、不妊治療の選択肢も広がりそうです。

「銀座リプロ」外科医師/永尾光一

 1960年生まれ、埼玉県出身。昭和大学で形成外科学を8年間専攻後、東邦大学で泌尿器科学を専攻。形成外科専門医、泌尿器科専門医、生殖医療専門医を取得。男性不妊・性機能障害を専門。東邦大学医学部泌尿器科学講座教授、東邦大学大森病院・リプロダクションセンター長を4月で退任、2025年4月より東邦大学医学部名誉教授、銀座リプロ外科医師

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

関連キーワード

ビューティー 新着一覧


振袖腕どうにかしたい!薄着になる前にはじめたい二の腕ケア
 アラフォーに突入し、運動不足が原因で体がたるんできたなんて人も多いのではないでしょうか? 特に薄着の季節に気になるのが...
美髪で“後ろ姿年齢”-5歳に…「夜のヘアケア」正しい順番でやってますか
 若い頃は、艶がありボリューミーな髪の毛の人でも、加齢とともに髪はパサつき、ボリュームがなくなってしまうものです。つまり...
忙しい朝の救世主!5分で「血色メイク」ができる神コスメ4選
 慌ただしい朝はゆっくりメイクする時間もなく、丁寧にメイクするのが難しいですよね。しかしテキトーなメイクでは、いかにも手...
驚愕! 雑誌の付録なのに「EMS電気ブラシ」が付いてきた
 最新号「&ROSY」には、なんとEMS電気ブラシが付録でついてきます! 超軽量で使いやすく、頭皮・顔・ボディなど毎日の...
40代女性必見! 老けて見えないアイライン5つのテクニック
「なんか、今までのメイクがしっくりこない!」と感じている人はいませんか。特に、年齢が出やすい目元のメイクは悩みのタネ。「...
「お、いい感じ」美容家が惚れ込んで実践する『40代からの美髪レシピ』
 アラフォーと呼ばれる年代を過ぎてから、髪の不調に悩む人が増えます。ツヤやうるおい不足、なんとなく頭皮がかゆい、フケが増...
プチプラで節約美容! 高価じゃなくてもキレイになれる♡
 値上がりラッシュが続く今、財布の紐を引き締めて節約したいところです。もちろんプチプラでも、良いものはたくさんあります!...
メノポーズケアって何?“更年期予備軍”35歳から始めたい【専門家監修】
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
20代の小娘が失礼を承知で…「アラフォーアイメイク」3つの残念すぎる
 街を歩いていると、まだまだマスクをつけている人が多いですよね。マスクをつけていると、どうしても人の視線は目元に集中しが...
シェイバーで剃った陰毛はどこへ行くのか?
 まだコロナが流行る前のこと、明日発売の雑誌を閉店後の店内に並べていると、横にいた上司の口元が「変なおじさん」みたいに変...
夕方になると「ん?」頭皮の臭いが気になる原因5つ&対策法
 毎日シャンプーをしているはずなのに、「夕方になると、頭皮の臭いが気になる」と思ったことはありませんか。年を重ねて、自分...
「女性の裸を見たい」女ひとりでストリップ初鑑賞&女子力UPの秘密3つ
 ストリップを鑑賞する女性が増えているそうです。綺麗な女性を愛でたいという感情は、多くの女性が持っているとはいえ、裸をじ...
悩ましい性交痛に「膣PRP療法」膣美容で叶うデリケートゾーンの若返り
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
【プチプラ豊作】1700円以下で垢抜け顔!アラフォー激推しコスメ5選
 プチプラコスメの進化が止まらない!「この仕上がりで、プチプラ!?」と驚くような仕上がりが得られるコスメがどんどん増えて...
40代はセンス以外も必要 お金をかけるべきファッションアイテムとは?
 時代によって大きく変化するファッション。最近では、ファストファッションを上品&おしゃれに着こなす40代女子も多いですよ...
マスカラがうまく使えない!まつ毛を改善するべくプロに依頼
 外出から帰宅して、鏡に映った自分の顔に愕然……。マスカラが目の下に落ちて、ウソみたいに真っ黒に! マスクの蒸気でマスカ...