広末涼子は世間と時代の破壊者たれ!キルケゴールを読みこなす彼女の一面から見えるもの
【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
「広末涼子は菩薩である」
これは作家・五木寛之が幾千万の戦後のコピーの中でもベスト3に入る傑作だとした、評論家・平岡正明の「山口百恵は菩薩である」(講談社)の二番煎じである。
百恵と広末がどうつながるのかは後で触れるとして、一人の貧しい少女が歌手となり、ひたむきな歌の力で日本を浄化した。優雅な美しさに至った百恵は菩薩といわれるにふさわしいと、約半世紀前に平岡は熱く論じた。往時、“時代と寝た女”といわれた百恵の他に中森明菜、松田聖子、桜田淳子がいた。
明菜は近藤真彦との愛憎の果てに自殺未遂を起こし、芸能活動を一時休止。聖子はその近藤とのニューヨークの「あいびき」をはじめ、数々の浮名を流し、桜田は統一教会入信問題で芸能界から去っていった。
平岡は、フォークソングには反体制はあるが、反社会性はない。反社会性の核心は破壊であるとして、「ジャズ、艶歌、ロックンロールにはこの方向がある」と支持した。
時は移り、幾多のアイドルが輩出した。しかし、浮気や不倫は掃いて捨てるほどあったが、時代を破壊するようなパワーを持った女性はついぞ現れなかった。
私は、広末涼子が起こした今回の「事件」を見ていて、彼女が久々に現れた菩薩ではないかと思ったのである。
彼女は中学時代から芸能活動を始め、1996年、NTTドコモポケベルのCM「広末涼子、ポケベルはじめる」で一躍人気アイドルになった。翌年、「MajiでKoiする5秒前」で歌手デビューし、紅白歌合戦にも出場してトップアイドルの座を確かなものにした。
しかし、事務所やファンから押し付けられた「清純派」のイメージに苦しんでいた彼女は、自らそれを破壊していくのである。多くの男たちにまみれ、出来ちゃった婚や離婚を繰り返し、2023年には有名シェフとのダブル不倫が発覚し、相手の家庭まで破壊してしまった。そこには映画「鉄道員(ぽっぽや)」で演じた女子高校生の可憐さは跡形もない。
その上、今回の不可解な衝突事故と看護師暴行容疑での逮捕。メディアは、広末はヤク中か精神的におかしいのではとはやし立てている。
しかし、彼女が3年前、41歳の時に出した「ヒロスエの思考地図」(宝島社)によると、学生時代から哲学書を読むのが好きだったという。S・キルケゴールの言葉を引用して、「今までの価値があったものに価値を見出せなくなったり、今までの仕事や生き方に関心を失い始めたりする。そんなことが、私にもそろそろ起こるのだろうか?」と不安を口にしている。三木清の「怒り」についての言葉を引用して、「どんな状況であろうと、どんな理由があろうと自分でアンガーマネジメントすることが重要。だって大人なんだから。自分で自分の『落とし前』はつけましょう」と言いながら、「けれども、どんな人でも“喜怒哀楽”があって当然。人間だもの」と肯定もしている。この本を読む限り彼女は心を病んではいない。
私は、広末が破壊しようとしているのは自己だけではなく、マスコミやパパラッチ、平和ボケして惰眠を貪っている日本人ではないのか……と考えている。
4月16日に釈放された広末は、悟りを求める者(菩薩)として、百恵の何倍もの破壊力で、自らの信じる道を突き進むのではないか。その先にあるのは安穏か悲劇だろうか。 (文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
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