「なめられてたまるか」出産直前、夫は女と沖縄へ…密会場所に乗り込む“元ギャル妻”の計画【平塚の女・足立亜理紗 29歳】

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-08-09 11:45
投稿日:2025-08-09 11:45

【平塚の女・足立亜理紗 29歳】

「明日の本社への出張さ、やっぱ早朝に出て新幹線で行くわ」

 1カ月前から予定されていた夫・慶士の大阪出張。

 夕方に着けばいいからと半休をとり、納車されたばかりのベンツで高速を使って向かうのだと、彼は張り切っていたはずだった。

「集合が早くなったの?」

「そんなところだね。よく考えたら5時間も運転するのって体力的に疲れるからさ」

 背中を向けて耳の上を掻いた仕草に、胸騒ぎがした。

 そもそも、1泊2日の大阪出張に自家用車で行くなんて不自然だった。交通費が落ちるかどうかも分からないのに……。

 突然の予定変更は、きっと裏に何かがある。

 ――あの女と泊りで会う、とか?

出産の直前、夫は女と沖縄に行っていた

 夫が浮気のようなことをしているのは、かねてから感づいていた。

 発端は、私のインスタのフィードに見知らぬ女の投稿が現れるようになったこと。その女と自分がどういう繋がりなのか、興味本位で追ったところ、慶士のアカウントにたどり着いた。

 私は、旧友への近況報告がてらたびたび投稿しているが、彼は登録しかしていない。なのに、ふたりは相互でフォローしあっていた。

 見てみると、夫が「会社の同僚と行った」と話していた場所のいくつかが彼女の投稿と一致していた。ショーウィンドー越しに、見覚えのある影が映っていることもあった。

 信じられなかったのが、沖縄へ出張に行っているはずの時期に、彼女も沖縄でバカンスをしていたこと。それは、3子の出産の直前だった。

 彼は国際通りのお土産屋で買ったであろう“パパ大好き”と書かれたベビースタイを買ってきてくれたのだけれど…。

「大阪と称するどこか」へ行く彼を見送る

「じゃあ、いってくるね」

 子供が寝ているうちに、彼はビジネスバッグを持って大阪と称するどこかへ行った。私はそれを静かに見送った。

 午前10時半。

 子供たちとの朝の戦争が一旦落ち着いたあと、恐る恐る女のアカウントを覗いてみる。

カクテルを手にした女の笑顔…鉢合わせを試みることに

 更新は15分前だった。

『大磯のプールでプチリゾート気分♪』そんなコメントと共に、カクテルを手にした女の笑顔があった。

 その場所は、今暮らしている平塚の自宅から車を飛ばせば30分もしない場所にある。私は、自然に身体が動いていた。

「カンタ、莉奈、プール行こうか」

 散らかった部屋で寝転がっていた子供たちは飛び起きて目を輝かせた。

 ほぼ地元ではあるが、このリゾートホテルのプールに来るのは、実は初めてだ。

 いつか行きたい、いつか行きたい、と夏が来るたびに思っているのだけれど、入場料がそこいらのプールの10倍以上するので、結局いつも市民プールや海水浴で済ませてしまっている。

 慶士はいわゆる大手の商社マンで、収入はある方だと思う。だから、値段なんて気にしなくてもいい。だけど、借家暮らしの下流家庭で慎ましやかに育った私の意識がそうさせてしまうのだ。

 ここは、東京のお金持ちが行く場所だと思っていた。友達が何かの伝手で無料券をもらったと言っていた時はすごく羨ましかったくらい。

 ――彼も、最初は地味で庶民的だったはずなのに。

 私と夫との出会いは、江ノ島でのナンパだ。彼の人生はじめてのナンパが私だったという。

ギャルだった私、社会人デビューの彼

 当時私はギャルで、まだ高校生だった。慶士は大学の四年生。焼けた肌の集団の中で、ひとりだけ白い肌の彼が物理的に輝いていた。

 最初はなんとも感じなかった。だけど、時折出る方言や、純粋そうなところが憎めなくて、有名な大学だったこともあり結局私からグイグイ押すようになり、付き合いにこぎつけた。

 そして、彼が大手商社に就職し、私も高校を卒業するタイミングで運よく妊娠が判明した。もちろん、そのまま結婚。大手商社は駐在があるから、早めの結婚が喜ばれるらしい。

 ここまでは、順調だった。

 慶士は社会人デビューをしてしまった。

 雪国で生まれ育った彼は、2浪で大学に合格するまで勉強漬けだったと言っていた。大学時代は周囲の洗練された年下のチャラ系エリートたちの中のグループにいながらも、なかなか殻を破れないでいたようだった。

 入社後、しばらくは同僚たちに私の存在を隠していたそう。多忙や付き合いを言い訳に、合コンやキャバクラにも行っていたとか。

金髪を振り乱して育児ーー拷問みたいな日々

 私? 

 地元の友達や高校の同級生が遊び盛りなのを横目に、金髪を振り乱して育児をしていましたよ。飲みの誘いには行けないし、いつメンのグループからも外されたり。拷問みたいな時間だった。

 意地で、彼から買ってもらったバッグや、リンクコーデの可愛い子供たちを見せびらかして、SNSで幸せなアピールをしていた。バカげているかと思うが、そうしなければ精神的にやってられなかった。

 今もそう。

 無駄に料理を手作りしてインスタにあげている。ホントは夕食なんてメイン一品だけで十分だと思っている。

 英国の地方都市に駐在することになって、彼の遊びは一旦収まったけど、帰国して東京勤務になってからまた怪しくなった。

 育児に助かるだろうからと、実家に近い平塚に一軒家を購入してくれたのは有難かったが、それは罠だった。

 ここは、都内から1時間以上かかる。会社での付き合いも多い。したがって、週何日かの外泊がザラになったのだ。終電を逃したことと、遅く帰って子供を起こしたくない、という名目で。

夫は今、どこにいる?

「ママー、流れるプールだぁ!!」

 プールサイドに出るなり、息子はすぐに流れるプールへと飛び込んだ。私は下の子を抱いて、警備員でもないのに敷地内をパトロールする。

 あの女を探すために――。

 そしてすぐ、見つかった。女はパラソルの下でひとりのんびり日光浴をしている。片手にはトロピカルな色の飲み物。身体に悪そうだ。

 幸い、隣のパラソルは空いている。

 夫は今、どこにいるのだろう。

 私はその女の隣のパラソルを借りることにした。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


花屋解説!コロナ禍の「喪中ハガキ・メール」お悔やみマナー
 今年もあと1カ月程度。猫店長「さぶ」率いる我がお花屋さんも、年末の準備をしなければいけない時期になっておりました。 ...
「アヒル隊長 大冒険セット」再販に歓喜! 2022.11.22(火)
 昨年11月、数量限定発売されたバスクリン「きき湯とアヒル隊長 大冒険セット」。現在、再販しているのを知っていますか? ...
女から嫉妬されやすい女性の特徴 無意識ほど怖いものはない
 女性の中には、「なぜか同性から嫌われる」という人がいます。相手に何かしたわけでもないのに、初対面から嫌な態度を取られた...
SNS疲れしたあなたへ 30代は“中途半端な人間関係”の清算を
 いまや年齢に関係なく、多くの人が「使いこなして当たり前」のSNS。でも、表情も声色(こわいろ)も分からないSNS投稿で...
白×黒柄のカモフラ!? めちゃ尊い“たまたま”に心が洗われる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
外で心が乱されても居場所があれば大丈夫 2022.11.20(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ステージ衣装用の真っ赤なランジェリーで“魔法”にかかった
 書店員として本を売りながら、踊り子として舞台に立つ。エッセイも書く。“三足の草鞋をガチで履く”新井見枝香さんの月イチ連...
残業して当然なの? 子なし女性がイラッとした非常識LINE3選
 アラサー・アラフォー世代には、子持ち女性と子なし女性が混在しますよね。だからこそ、自分と環境が異なる女性へLINEする...
2022-11-19 06:00 ライフスタイル
“業界用語”炸裂トークにイラッ!「皆が知ってる」前提は危険
 みなさんは友達が同じ職種の方って、どのくらいいますか?  私はほとんどが自分とは違う業種で働いている人ばかりです。そ...
新宿から35分!「里地里山」で心に栄養を 2022.11.17(木)
「疲れたー、疲れたー、やっぱり疲れたー」  が、口癖になっている筆者に「日めくりコクハク」でもおなじみ、街の景観を...
苦手ならしゃーない!義理の姉とは適度な距離感をキープして
 どんなにコミュニケーション能力が高い人だって、「苦手だな」と感じる人はいるものです。それがプライベートの関係であれば、...
キスだけにしておけばいいのに…欲ばり“たまたま”の失恋物語
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
菊=仏花は古い!改め「マム」は邪気祓いにも一役買います
 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が最高にオモシロイです! 放送が待ち遠しく毎週日曜日には古(いにしえ)の人々のドラマ...
秋の日はつるべ落とし 長い夜どう過ごす? 2022.11.16(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
おひざ大好き♡ 甘えっ子“たまたま”がいっぱいな癒しのお店
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「五十路アイドル」キムタクに膨らむ妄想 2022.11.13(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...