「代官山のトレースだね」地元同級生からの“皮肉”が刺さる…“私は違う”と信じた女が虚飾に気付く瞬間

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-18 11:45
投稿日:2025-10-18 11:45

【ある地方都市の女・根上朱里 32歳#3】

 都内から鈍行電車で2時間ほどの港町の故郷に朱里はUターンし、古民家を改装したギャラリーカフェをオープンする。しかし、知人以外の客は来ず苦戦する。妥協して地元客受けするメニューを出すことにする中、幼馴染の俳優が客としてやって来て…。【前回はこちら】【初回はこちら

【関連記事】「世帯年収1500万じゃ恥ずかしい」御茶ノ水からの“都落ち”…武蔵小杉のタワマンを選んだ女のプライド【武蔵小杉の女・鈴木綾乃 35歳】

大輝の“意外な感想”に愕然

 目の前に現れたのは、浜野大輝だった。願ってもない相手であった。

「どうしたの? 帰って来てるの?」

「いやぁ、帰ってきてるっつうか、最近オフは実家で釣り三昧なのよ」

 彼はサングラスを取り、少し焼けた顔をクシャッと崩してぎこちなく微笑んだ。

「釣り…? 好きだったの?」

 海に近いこの町であっても、仕事にしている者を除き釣りをする人間は意外と少ない。釣りやマリンアクティビティは観光客のものという認識だ。

「最近始めたんだ。ここ出身と言うと、釣り好きだって思われるからさ。静岡人がみんなサッカーをやっているって勘違いされがち、みたいな」

 出来もしない釣り関係の仕事が来ることがあるという。だからいっそ好きになってしまおうということらしい。

「へぇすごいサービス精神」

「需要には応えないと。てか、ここで何やってんの? バイト?」

「ギャラリーカフェだよ。イラストレーターやっていたけど、Uターンして地域おこしではじめたの」

 大輝は店内を見まわした。すると、力の抜けた笑顔を浮かべてつぶやいた。

「普通にありそうな店だね」

「へぇ。代官山や鎌倉あたりにも普通にありそうな店だね」

 朱里はその言葉の意味を考える。微かにチクりとしたものを感じた。てっきり、手放しで褒めてくれるものだと思った。反発心で前向きにうけとる。

「オシャレだって言ってくれているんだよね」

「まぁ…」

 ぎこちない表情を見て見ぬふりをして、勢いであの件を持ち掛けた。

「実はここでイベントを計画しているの。ちょくちょく実家に帰っているなら大輝に出てほしいんだ。大輝の事務所にも前、企画書送って…」

「そうなんだ、確認しとくわ」

 目を逸らす彼に朱里は、それ以上言葉を交わすのが怖くなって、事務的に注文を尋ねた。彼はミートソースパスタを選ぶ。新メニューの業務用レトルトの食材のそれを。

 大盛をぺろりと平らげ「うまかったよ」と感想を残し、すぐに店を出て行った。終始笑顔ではあったが、去ってゆく背中に冷たい温度を感じた。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


親不孝じゃないよ! 実家に帰省しない時の冴えた言い訳6選
 シルバーウィークが終わったら、もう年末年始はすぐそこ。長期休暇に帰省をする人は多いですよね。「実家でのびのびすごそ〜♡...
頭重感とは?MRIは異常なし、頭痛の“震源地”は肩こりだった!【薬剤師監修】今すぐできる改善法
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
懐かしの「アジャパー」ポーズを激写! お茶目な“たまたま”にほっこり
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
仏様のお供えは「花」とは限らない! もうすぐお彼岸、仏花にまつわるケンミンSHOW的な話
 ねこ店長「さぶ」率いる我がお花屋は、神奈川の仏事に手厚い土地柄の片田舎にあります。とりわけ、夏のお盆からお彼岸月の9月...
ロボット掃除機より優秀!? “激落ちくん”のお掃除スリッパが突き付けた我が家の床の現実
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの?」「買ってみたいけれど、口...
私の心が狭いのか? 甥っ子が放った「お金持ちだから好き」発言にモヤモヤした話
 あっという間に、9月ですね。早い! 夏休みの帰省で姪っ子や甥っ子に会った方も多いのでは。  筆者にも、5歳の甥っ子が...
テーブル下でこっそり放熱中…ステンレスで涼をとる賢い“たまたま”君
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
子どものいない祭り
 都会の喧騒の中で見つけた祭り。  そこにははしゃぐ子どもの姿はなかった。  たまにはいいかな、自分のためだ...
ほっこり癒し漫画/第81回「センセッ ジカンデスヨッ」
【連載第81回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「鉄漿」って読める? ヒント:最古のメイク
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
子ども同士のLINEにもドラマが!将来の夢はスパイに忍者…ピュアな感じがたまらん
 最近では、小学生でもスマホを持っている子が増えていますよね。連絡ツールとして友達とLINEを使いこなし、時代は変わった...
女はお嫁さん要員? 年収800万でも「行き遅れ」と見下される田舎の地獄
 西新宿の高層ビル内にある大手食品会社のデザイン室に勤務し、初台に暮らす咲子。実家とはほぼ縁を切ってはいるものの、悠々自...
毒親の介護をしたくない 実家から逃げた女が「決別」のため払った金額は
 西新宿のビル内にある大手食品会社のデザイン室に勤務し、初台に暮らす咲子。実家とはほぼ縁を切ってはいるものの、おひとりさ...
田舎を捨てた「独身女」は不幸ですか 絶縁した家族が来て…今さら何の用?
 いまだ残暑が残る9月の初め。月曜日のAM7:30。  すでに汗ばむ陽気に包まれながら、西村咲子は新宿西口の高層ビ...
職場で飛び交う「大人のちくちく言葉」4選。無意識に同僚・後輩のモチベを下げてない?
 人の気持ちを不快にさせる、ちくちく言葉。子どものちくちく言葉は「アホ」「バカ」「マヌケ」などストレートですが、大人にな...
“たまたま”に見覚えあり!尾道市立美術館の「ケンちゃん」ではないかぃ?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...