不倫相手と別れ、帰ってきた夫
やがて彼らの半同棲生活は一年半で、J子さんから別れを切り出す形で終わりを迎えました。
Kさんは家に戻り、ときおりH美さんのカフェにも顔を出すようになりました。
業界関係者たちは「おかえり」と明るく迎えました。
誰かが、「戻れる場所を守ってくれていたH美さんに感謝すべきですよ」と言います。
Kさんが恥ずかしそうに、「いやはや、面目ない」とおでこを掻きます。
「今日はバツとしてKさんの奢りね」
「えー、失恋したんだからみんなが奢ってよー」
そこにH美さんが、ほがらかな笑顔で言います。
「皆さんほんと、うちの主人がやらかしちゃって、ご心配おかけしました。さあ、お酒もあるから飲みましょう」
やらかした。このひと言で、Kさんの不倫劇は「やらかし」程度の軽いものになり、J子さんは軽く「やられた」女となりました。
不倫相手のその後
そうして一年も経つ頃には、Kさん自ら、この失恋をネタに話すようになります。
「うちの奥さんは、僕が女の子に恋して悶々としていると、プレゼント用のバッグとか買ってきてくれるの。いまも『あなたの写真、そろそろ色気がなくなってきたから、早く新しい恋愛しなさい』ってせっつかれちゃって」
知人たちは、「出来た奥さんだよね」「おもしろいご夫婦だね」
そういうことで一件落着。
J子さんはその後も業界での仕事を続けていましたが、あるとき、すっぱりと辞めていきました。
理由はわかりません。H美さんのおかげで肩身の狭い思いをすることはなく、もしあっても、他人の目を気にする人でもありませんでした。
ただ好きなことをやる限り、いつまで経っても「Kの元彼女」呼ばわりされる状況にうんざりしたのか、あるいはもっとやりたいことを見つけたのか。
KさんよりもH美さんよりも、いちばんのリスクを背負いながらも、ひたむきに相手と向き合い、生きていたのは彼女だったと思います。
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