欅坂46ドキュメンタリー映画評 平手友梨奈の真実·覚悟·願い

こじらぶ ライター
更新日:2020-09-06 06:05
投稿日:2020-09-06 06:00

ドキュメンタリーであり“音楽映画”でもある

 ゆえに、我々はこの映画で欅坂46の5年間の断片を駆け足で提示されることになる。この形でグループの舞台裏で何が起きていたのかをきちんと把握することは困難だ。

 平手が涙している姿以上に、メンバーと楽しく笑い合っているシーンが素材としてはあったはずだが、構成上ごっそりカットされているようだ。それでもこの映画に一見の価値があるのは、ドキュメンタリー映画であると同時に“音楽映画”でもあるからだ。

 1ミリの嘘も脚色もない、欅坂46が、平手友梨奈が残してきた数々のライブシーン、これこそが欅坂46の真髄であり真実だと確信できる。アイドルの限界を超えた鬼気迫るパフォーマンスは映画館の巨大スクリーンで見るとさらに迫力を増す。これだけで充分、この映画を傑作たらしめる要素になる。

 そして同時に、この映画は平手以外のメンバーたちが平手依存から徐々に脱却し、自分たちだけでもできるのだという自立への成長物語にもなっている。

“休業”という言葉は好きではない

 最後に、平手が欅坂46から“卒業”ではなく“脱退”することになった謎についてこの映画でヒントが提示されていることに言及したい。

 平手は一度2017年末NHK紅白歌合戦後に、メンバーたちに「グループから“離れたい”」旨を打ち明けている。彼女は“休業”という言葉は好きではない(使いたくない)とも言った。

 “休業”ではメンバーやファンが当然“復帰”を前提に待ってしまうからではないだろうか。ただしその際はもちろん、メンバーたちから全力で止められ、平手は初出演にして初主演映画であった「響-Hibiki-」といったソロ仕事に打ち込むなどし、部分的に欅坂46の活動を休止しながらも、グループに恩返しするために同年下半期には復帰していた。

欅坂46から離れた状態で寄り添うという選択

 平手は今度こそ本当にグループから脱退する今年1月の初めに、メンバー1人1人に別れの挨拶をした。この時は、メンバーも平手のあまりの消耗ぶりに全力で止めることはできなかったのだろう。最初に“離れたい”と思ってから2年も踏ん張った。とうとう限界が来た。それでも欅坂46から完全に決別できる“卒業”という言葉は使わなかった。

 自身の口からはラジオで「グループから“離れる”ことになりました」とだけ発した。誰よりも欅坂46を愛し、欅坂46のために全てを捧げてきた平手らしく“卒業”とも“脱退”とも言わなかった。もちろん、下手な期待を持たせる“休業”という言葉も使用していない。ただ、グループから“離れた”状態でグループと同じ事務所に寄り添うように個人として残った。

改名からその先の未来

 欅坂46のグループ改名は、現役メンバーが平手のいた欅坂46にとらわれず前を向くための発展的選択であると同時に、その意図はなくとも、平手が欅坂46を振り返り続けることなく女優として、表現者として自分のためだけに生きる契機になるのではないかと思う。

 そして平手が背負い続けた重荷を心から降ろすことができるのは、改名したあかつきに、平手依存から脱却したメンバーたちによる新グループが大成功を収めた時だろう。平手のためにも、そしてもちろんメンバーたち自身のためにも、そうなるよう願っている。

こじらぶ
記事一覧
ライター
STARTO ENTERTAINMENT、秋元康系女性アイドル、ローカル、地下アイドル等数々の現場を経験。Xでもご意見を募集しております。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


15分の朝ドラで高揚感を得られるんだ! のぶ&嵩の“子役最終回”が見せた未来の夫婦関係
 久しぶりに登美子(松嶋菜々子)の顔を見て胸がいっぱいになる嵩(木村優来)だったが、登美子は困惑した表情を浮かべる。のぶ...
桧山珠美 2025-04-12 06:00 エンタメ
旧ジャニ会見から1年半、STARTO社の再興成否…CD売上と人権意識から考察、ファンは一体何を望む?
 2023年9月および10月、旧ジャニーズ事務所は創業者問題で2度記者会見を開いた。その後、同社所属タレントのテレビ・C...
こじらぶ 2025-04-12 06:00 エンタメ
「あんぱん」阿部サダヲの配合絶妙な演技。高知つながりで“しょくぱんまん”登場!
 元気のない家族のために力を貸してほしいというのぶ(永瀬ゆずな)の頼みに、草吉(阿部サダヲ)は1回きりの約束であんぱんを...
桧山珠美 2025-04-09 17:20 エンタメ
『あんぱん』RADWIMPSの主題歌は本当に「合っていない」のか? 正統派・朝ドラOPの真逆を貫いた意味
 2025年3月31日より、NHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が開始された。国民的キャラクター「アンパンマン」生みの...
「R-1」さや香・新山や吉住らベテラン勢はなぜ負けた? 売れっ子は予選で有利、決勝で不利な理由
 最もおもしろいピン芸人を決める「R-1グランプリ2025」(フジテレビ系)が3月8日に開催された。決勝常連組やベテラン...
帽子田 2025-04-09 09:48 エンタメ
ヤムおんちゃん草吉はあんぱん代をきっちり集金。ジャムおじさんとは違う“先導”に期待膨らむ
 草吉(阿部サダヲ)のあんぱんを食べて、生きる力をもらった朝田家。羽多子(江口のりこ)は内職の仕事を始め、釜次(吉田鋼太...
桧山珠美 2025-04-07 17:20 エンタメ
「あんぱん」ウラの見所~初週からブチかまし!細部に神経が行き届いた作品だと印象付けた中園脚本
 結太郎(加瀬亮)があの世に旅立ち、悲しみに暮れる朝田家。しかし、のぶ(永瀬ゆずな)は一粒の涙も流さなかった。そんなのぶ...
桧山珠美 2025-04-05 06:00 エンタメ
“百戦錬磨”香川照之ゆえの提案「全6話、スイッチを仕込んでいます」【主演ドラマ『災』インタビュー】
「連続ドラマW 災」(WOWOW、6日22時スタート)は、湿り気を帯びた陰鬱な雰囲気とぞわりとする劇伴が感情を揺さぶる不...
朝ドラ「あんぱん」の描写に25年前の“名台詞”が…CA役だった松嶋菜々子の変わらぬ美貌はさすが過ぎる
 ある日、のぶ(永瀬ゆずな)は千尋(平山正剛)とシーソーに乗る嵩(木村優来)を見かけるが、千尋が軽くて動かない。そこでの...
桧山珠美 2025-04-02 17:20 エンタメ
「あんぱん」ヒロインの着物がオレンジ色の納得。ドキンちゃんのモデルゆえの演出
 昭和初期、家族の愛情をたっぷり受けて育った少女が高知の町中を勢いよく駆けていく。「ハチキンおのぶ」こと朝田のぶ(永瀬ゆ...
桧山珠美 2025-03-31 17:20 エンタメ
朝ドラ「あんぱん」男性俳優陣がめちゃ豪華! 赤楚衛二路線で大ブレーク必須な最注目の若手は?
 31日(月)から新しい朝ドラが始まります。その名も連続テレビ小説「あんぱん」。あの「アンパンマン」の作者やなせたかしと...
【おむすびにモヤっと】伏線をまき散らして放送終了、そしてモヤモヤが残った。結はとんでもなくヤベ~やつ?
 歩(仲里依紗)から詩(大島美優)を引き取ろうとするのは甘かったかもしれないと聞いた結(橋本環奈)は、仮定の話を気にして...
桧山珠美 2025-03-29 06:00 エンタメ
【写真特集】倖田來未の美し過ぎるバスト♡ギリギリショット5連発
【この写真の本文に戻る⇒】40代の倖田來未が《全盛期と変わってない》と話題に…20年前と同系ファッションでも、なぜ痛くな...
2025年「冬ドラマ」を調査! 独走状態の『ホットスポット』、疲れた大人世代に『御上先生』は難しかったか
 2025年1月よりスタートした冬ドラマ。惜しまれつつ最終回を迎えたドラマがあった一方で、期待されていたものの視聴率が振...