尻のおできは踊り子の職業病?穴開きクッションの世話になる

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2023-02-24 12:32
投稿日:2023-02-19 06:00
 書店員として本を売りながら、踊り子として舞台に立つ。エッセイも書く。“三足の草鞋をガチで履く”新井見枝香さんの月イチ連載です。踊り子デビューから3年を迎えた新井さんは、あるシモの悩みを抱えているそうで……。

踊り子デビューから3年!

 今年の2月で、踊り子デビューから3年。柿の木3年、石の上にも3年だ。3年間、舞台で尻を出し、冷たい盆に直接座り、楽屋の床にもぺたりと座って、化粧をしたり写真にサインをしたりと、酷使し続けたところ、石が暖まるどころか、柿が生(な)るように、尻っぺたに大きな“おでき”ができた。

 右側の、どう座っても床に当たるところに、いつの間にか現れた突起物。鏡で見てみると、そりゃ痛いのも納得で、思春期のニキビのように周囲が赤く腫れ、中心が白く盛り上がっている。そこに膿が詰まっているのは一目瞭然で、噴火寸前の様相だ。

 指でギュッとやってピュッとやっちまいたくなるが、そうすれば皮膚が裂けて血もビューッと出て、跡が残ってしまう。いくらシワシワの尻とて、これでも商売道具だ。数日後にはまた、尻丸出しで舞台に上がり、夢を売らねばならない。

 大慌てで近所の皮膚科に駆け込み、待合室に片尻を浮かせて座っていると、診察室から「尻の床ずれが痛い」と訴えるおじいちゃんだかおばあちゃんだかの声が聞こえてきた。ソファから片尻を浮かせた私も、他人事ではない。

化膿したおできの正式名は「せつ」

 おできはさまざまな原因が考えられるが、踊り子を始めて以来、実は何度か悩まされている。おできの正式名は「せつ」。毛穴の内部や皮脂腺、その周囲から黄色ブドウ球菌という細菌に感染することで発症するらしい。座っていることが長いのも、原因のひとつだ。

 確かに、書店は基本的に立ち仕事で、パソコンを触る時ですら座ることはない。そもそも、常に布で守られている。お尻のおできは、踊り子の職業病と言えるのかもしれない。

お尻がきれいなお姐さんに相談すると…

 楽屋でそれとなく確認して、最もお尻がきれいなお姐さんに相談を持ちかけることにした。すると彼女は、エステに通っていること、ステージの後は必ずクリームで保湿していること、そして必ず楽屋に持ち込んでいるクッションがAmazonで買えることを教えてくれた。

 それは8の字を横倒しにしたような、穴がふたつ開いたクッションで、さっそく色違いを取り寄せてみたところ、穴にすっぽりおできが入って、確かにだいぶ楽なのだった。

 穴開きクッションは痔の人が使うものと思い込んでいたが、美尻を保つためにも有用なのである。

診察から3日後、ほぼ完治

 診察の後、皮膚科の先生は塗り薬と抗生物質3日分を出してくれた。重ねたガーゼも、毎日交換したほうがよいだろう。

 3日後。やはり処方箋薬の効果は絶大で、おできはみるみるしぼみ、すっかり赤みも引いていた。あの膿はどこへ消えたのか、座っても押しても痛くない。慌てて潰さなくて、本当によかった。皮膚科万歳。

 それなら、あのことも先生に相談してみようかしら――。

 私の肛門には、肌色の小豆が一粒くっついている。おできのように痛くはないし、大きくなったり小さくなったりする気配がないので、おそらく病気ではないのだろうが、じゃあ何か、と問われると、よくわからない。昔話の「こぶとりじいさん」的“こぶ”なのかもしれないが、それにしては小さくてかわいらしいのである。

 客席のお客さんからは見えているのだろうか。面と向かって指摘されたことはないが、場所が場所だけに、言えないだけかもしれない。

私の肛門はスポットライトを浴びる

 生活には全く支障がないし、普通に生きている分には、人目にさらされることもない。歯の治療で言えば、明らかに保険適応外だろう。しかし職業柄、私の肛門はステージでスポットライトを浴びる。

 事情を全て話せば、保険が利くだろうか。しかし取ったら取ったで、「あ、けっこう気にしてたんだ」という周囲の柔らかな反応が面倒くさい。ここに書いてしまった以上、取ろうが取らなかろうが、そう思われることは避けられないのだが。

 ネットで調べたところ、肛門の小豆は「皮垂(ひすい)」というものの可能性が高そうだ。悪いものではないが、やはり見た目を気にして切除する人もいるという。

 だが、しわのないきれいな肛門になっても、つっぱって伸びにくく、取ったことを後悔するケースも多いらしい。それで便秘になったら最悪だ。そもそも術後のトイレを想像するだけで、涙が出そうである。おできなんかの比ではない。

うちのかわいい黒猫の肛門もシワシワ

 きっと肛門には、ある程度のシワが必要なのだ。うちのかわいい黒猫の肛門だって、梅干を食べたおばあちゃんの口みたいに、たくさんシワが寄っている。そんな彼女は毎日快便だ。

 つまり私のお尻の下のシワも、目の下のたるみによるシワも、手術でピンと張ることはできるだろうが、どのシワも、きっと何かに必要なのだろう。先生に相談するのはひとまず止め、小豆は温存することした。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

ビューティー 新着一覧


20代男性の声に震撼! アラフォーのドン引きメイクにご用心
 アラフォー女性の皆さん! 20代男性を侮ってはいけませんよ。  彼らはアラフォー女性のメイクをこっそり観...
ポーチ忘れた!セブンに駆け込む→眉ペンシルだけで美眉は描けるのか
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの?」「買ってみたいけれど、口...
予算10万円、もち自腹!韓国美容旅で念願のリジュラン、水玉リフトetc.
 こんにちは! 「旅する複業家」の林知佳です。「韓国の美容医療は最強だ!」とは有名なお話ですが、2泊3日で顔面に“課金”...
「ちらほら白髪」ぐらいなら染めないがいい? 賢く簡単に隠す4つの方法
 30代を超えると「ちらほら白髪」が出てくるようになります。やはり、髪の毛に白髪があるかないかは、見た目年齢に大きな影響...
肩~頭皮までガチガチ【専門家監修】肩こり解放メソッドでもう悩まない
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
年齢はここに出る! 40代女性が気を付けたい「老け見えポイント」4つ
 最近では、昔に比べて年齢よりとても若く見える人が増えていますよね! 特に40代では差が出やすく、同じ年齢でもおしゃれで...
アイシャドウのパレットは“捨て色”覚悟で!今すぐできる垢抜けアイメイク
 アイメイクは大体いつも同じパターンになっていませんか?  目元は顔の印象を左右する大事なパーツ。アイメイ...
半信半疑なSHEINの美容グッズ…歯のホワイトニングシートで白くなる?
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの?」「買ってみたいけれど、口...
口臭・体臭・尿の悪臭…私のニオイの源は「糖質オフダイエット」が原因!?
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
鹿ちゃんは関係ないよ! 話題の「シカクリーム」の人気の理由は?
 美容アイテムを売っているお店でよく見かける「シカクリーム」。はじめて見た人は「鹿のクリーム?」なんて想像した人もいるか...
2024-01-17 06:00 ビューティー
水蜜桃メイク知ってる?トレンドど真ん中、たった4︎分で叶う衝撃ハウツー
 水蜜桃メイクというメイク法をご存じですか? 中国発でSNSを中心に話題になっているトレンドメイクのひとつで、ピ...
まだまだ流行中のキャップ! 40代コーデで野球少年風を卒業するコツは?
 帽子コーデが好きな人が、必ず定番で持っているのがキャップです。でも、子供っぽくなったり、大人っぽいスタイルにどう合わせ...
30~40%の日本女性が整形!? それでも踏み切れない4つの理由
 今では、美しくなるための手段として珍しくなくなってきている整形。日本では30%〜40%の女性が、生涯のうちに1回は整形...
新年だしスッキリしよ! 昔の服が捨てられない人への処方箋
 必要最低限のお気に入りの持ち物で生活する「ミニマリスト」とは対照的に、「物を捨てられない」と悩む人はたくさんいますよね...
新年初買いはECサイトで30%オフのパンツ!プロの接客と裾上げにも涙…
 冬のセール真っ只中、仕事の合間にD2Cブランドのワイドサテンパンツをポチっとしました(笑)。で、手元に届いた“戦利品”...
【専門家監修】心を健康に! 自己肯定感を上げるセルフコンパッション術
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...