3年半の歳月をかけて可決された「女性ホルモン」の再開

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2023-08-20 06:00
投稿日:2023-08-20 06:00

生まれも育ちも台東区、お祭り大好きな東京の下町っ子

 2023年7月29日、4年ぶりの開催となる隅田川の花火大会当日、私はシアター上野でのストリップ公演に絶賛出演中であった。

 生まれも育ちも台東区、お祭り大好きな下町っ子ゆえ、心が浮き立って仕方がない。もとより大混雑の会場に足を運ぶ気はなく、実家のベランダで飽きるほど見た花火には、物珍しさもない。ただ、夏のお祭り気分を味わいたかった。

 折しも、劇場から目と鼻の先の不忍池では「うえの夏まつり」が開催され、ほとりにはずらりと出店が並んでいる。こちらもコロナの影響で、盆踊りは4年ぶりの開催だ。

 炎天下の中、仲良しの姐さんと羊串を片手にクラフトビールを飲み、骨董市では古い着物を値切って、1000円で2枚も手に入れた。

 それでも飽き足らず、よつ葉バターをたっぷり塗り付けたクレープを一緒に齧(かじ)り、冷えたハイボールや日本酒を飲み比べ、懲りずに出直したら、店じまい直前の値引きで、シロップかけ放題のかき氷が200円だった。

 1日4回公演のシアター上野で、出番の合間を最も有効に使い切った踊り子、という自負がある。

ストリップデビュー直後にコロナ自粛

 終演後はさすがに出店は終わっていたが、花火後で賑わう上野の居酒屋で、出版関係仲間と終電まで飲んだのだから、我ながらあっぱれである。

 店じまいの早い浅草方面から上野へ、民族大移動のように、浴衣の人々が流れてくる。その誰しもが、まさかコロナでこれほどの間隔が空くとは思っていなかっただろう。

 罹患こそしなかった私にも、コロナ禍の長い間、自粛していたことがある。ストリップデビュー直後、一度開催されたきりだから、正確には3年と半年ぶりだ。

躍れない踊り子が筋トレにはまった結果…

 デビューしてすぐにコロナが流行し始め、ほとんどの劇場が休館していた頃、私には書店員という仕事があった。しかし、やがて勤め先の書店も休業が決まり、時間と体力を有り余らせた私は、Youtubeの筋トレにはまる。

 その熱中ぶりは、うっかり腹筋を割りかけたほどだが、今思えばその行為もまた、次回開催を遠のかせる原因であった。

ストリップの世界でユニセックスな体型はネガ

 もともと女性性を感じさせない、良く言えばユニセックスな体型であった私は、そのことで時折ストリップ客から一般社会ではありえない悪口を叩かれたものだが、自分自身は気に入っていたため、聞く耳を持たなかった。

 しかし、この仕事を続けるうちに、商売としてはマイナスである、と判断せざるを得なかった。書店の仕事だって、自分の好きな本ばかり並べるより、1冊でも多く売れる本屋を目指したではないか。

 仕事としてお金をもらうなら、顧客のニーズにはできるだけこたえてこそ、プロである。

 信念や主義は、そんなところで頑張るものではない。

女性ホルモンが攻勢に転じる!

 コロナ禍の間、花火大会を開催するか否かは、入念に協議が行われたはずである。それと同様、新井の中でも、休止派と再開派が様々な観点から議論を戦わせ、ついに再開が可決された。

 その結果が、ほぼ4年ぶりの生理である。私の体内は、長らく劣勢であった女性ホルモンが形勢逆転し、体はふっくら、バストも1カップUPし、うっかり以前のようにノーブラで歩けば、鼻息の荒い男子が後を付いてくるほどの求心力。自分自身でそれをコントロールしたのだから、してやったりである。

 子供を産むつもりは毛頭ないが、現在の仕事的には、定期的に開催しておいたほうがいいと、3年半かかって新井の体内で可決されたのである。

「エロくなったね」

 今後私の体はどう変わっていくのか。最近お客さんから、エロくなったね、と囁かれる。髪の色が変わっても気付かない男たちは、女性ホルモンの変化なら敏感に察知するのである。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


自分を「幸せじゃない」と思う人に62歳の童貞が伝えたいこと
 キミは「プロ童貞」を知っているか──。コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん...
62歳の童貞・山口明が語る二刀流時代「大谷君より早かった」
 キミは「プロ童貞」を知っているか──。コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん...
ひとり旅のメリットとデメリット 正しく天秤にかけて楽しい時を!
 家族や友人、恋人など誰かと一緒に旅行をするというのは、経験したことがありますよね。でも、ひとり旅って経験したことありま...
子アリ夫婦のつかの間デートに“夜パフェ” 2023.5.13(土)
 GWはみなさん、どこかにお出かけしましたか? 我が家は遠方から義母が飛行機に乗って遊びに来てくれたんですが、連休前日に...
親切の押し売り問題どう乗り切る? しても・されても凹む人への処方箋
 相手の親切心を受け取らないって、すごく苦しいですよね。たとえそれが自分にとってありがたくないものだとしても、受け取らな...
誰も歩かない小道、誰もいない海 2023.5.12(金)
 誰も歩かない小道を進んで、誰もいない海を眺める。  プライベートビーチっていうとちょっと違う気もするけど、このひ...
千葉で震度5強 3.11から12年「まだ終わっていない地震」と専門家指摘
 東京近郊の人は11日早朝の「緊急地震速報」にヒヤリとしただろう。同日午前4時16分、千葉県南部を震源とした最大震度5強...
花咲く庭で発見! モテランキング1位“たまたま”をパチリ☆
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「友達の夫が正直嫌い」女の友情を壊さない付き合い方のコツ
 大好きな女友達の結婚を喜んでお祝いしたのも束の間、「どうしても友達の夫が好きになれない」と悩んでいる女性は意外と多いよ...
ヤバ、膀胱が緊急事態…知らぬは“地獄”行き!トイレを我慢する方法5つ
 誰しも一度は、トイレに行けない状態で今にも漏れてしまいそうになった経験はあるはず……。バスや電車、会議中やトイレのない...
買い物って「小さな判断」の連続なんだ 2023.5.10(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
花屋も「らんまん」に注目!紫の開運花ヘリオトロープを竹雄(志尊淳)に
 イケメンが大好物なワタクシ。ストレス解消のため、仕事の合間にTver(本当に神!)で深夜ドラマを見てはイケメン探しに大...
オスを引き寄せるフェロモンジャッジ!貴女の度数は?【5月前半】
 素敵な女性はいい香りがする――。  そう感じるのは、肌から放たれるフェロモンの効果。フェロモンが高まると色気だけ...
【KALDI】もう手放せない! 鬼リピ不可避4品 2023.5.9(火)
 食いしん坊の聖地「カルディ」。棚一杯に並んだ輸入食品やオリジナル商品は、見ているだけでも楽しいですよね。今回はそんなカ...
なんでもない日々のこんな瞬間が好きだ 2023.5.8(月)
 次の予定があるのかな? 待たせている人がいるのかな?  もしかして、移動は小走りと決めているせっかちな性格なのか...
親友の新彼氏にモヤモヤ。その恋大丈夫?と諭すべきか、だんまりすべきか
 20代の頃は、女友達のヤバめな恋愛相談に乗る時「友達なんだから、止めなくちゃ」と思っていました。  友達が学内で...