#2「普通の女」に負けた美人は怨念まみれのSNSがバズり快感を覚える

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-10-21 06:00
投稿日:2023-10-21 06:00

禁断の劇団内恋愛。相手の陽士の態度に、紘子は…

『こういうこと』になったからには、陽士は恋人と別れ、紘子と交際を開始するものだと思っていた。

 陽士とは音楽の趣味も合った。ふたりきりでサマソニに行ったこともある。

 椎名林檎のアルバムも最初は彼が貸してくれた。何気ないメールも長く続いたし、主宰からは「仲がいいなら付き合えよ」と言われたこともある。

 つまり、脈ありだと思っていたから……。

 だが、改めてその話をすると、彼は紘子との夜は「ノリだった」と笑い話にした。

“聖心”に通う普通の子

 聞けば、今の恋人とは別れたくないのだという。聖心女子大に通う、同じ予備校で出会ったという彼女。写真を見せてもらったが、どこにでもいる普通の女の子だった。

 彼は言葉巧みに、あの夜を、なかったことにしようとした。気まずい雰囲気を回避するがごとく。

 紘子はそのまま泣き寝入りして身を引かざるを得なかった。しかし、密かに彼へ想いを寄せていた紘子にとって、「なかったことにする」ことなどできなかった。

 結果、方向性の違いという表向きの理由で劇団を離れることにしたのだ。

青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*

パプリカのラジオつまらん。江古田の屋台村でくっちゃべってるレベル。大学ノリまだやってる? 周りの人、ポカンだよ。

青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*

生田陽士の棒演技が耐えられない。。。。。うまくない棒www

青椒ロンリネス@*chinjao_loneliness*

所詮奴らはメディアコントロールがうまくて、業界の大物に気に入られただけなんだよね。バックに何がついてるの? 闇を感じるわ。。。。。

批判&アンチ投稿でフォロワー爆増

 今日も紘子は青椒ロンリネスとして、毎日投稿を続ける。

 スナックでのバイト中も、手が空けばネットパトロールは欠かさない。

 紘子のアカウントは当初、一般の演劇ファンを装い芝居やドラマの評価や実況を垂れ流す用のものだった。だが、パプリカ色素の批判を綴るようになってからフォロワーは爆増し、ニーズに応えるという正義のもと、今に至る。

 増えたフォロワーの中には、プロフィールなどから大学時代の同級生と判断できるアカウントもあった。

 彼らのタイムラインでは「大学時代の仲間が有名人になってうれしい!」と自身がパプリカ色素の知人であることをアピールするがごとく喜んでいるのに、このアンチアカウントを密かにフォローするとは、おかしな話である。

 紘子はそんな同級生たちの秘められた焦燥感を察するたびに、また大海の藁を得たような気持ちになるのだった。

常連ではない男の来店

 ママは、客足が期待できない日は、何だかんだ理由をつけて紘子に店を任すことも多い。その日も、紘子は18時の開店からひとりで店を任されていた。

「すみません、初めてなんですが」

 常連ではない男が扉を開けた。

「いらっしゃい。ここは誰かの紹介で?」

 帽子を目深にかぶったその人物。警戒心とともに、ただものではない引力を感じた。

「……大学の同級生がいると聞いて」

 マスクをずらして顔を紘子に見せる男。顔を見て、絶句した。

「……」

「元気? 紘子がここで働いているって聞いて」

 固まる紘子に笑みを見せながら、彼はじりじりと近づいてきた。

#3へつづく:嫉妬心をSNSで書き連ねる紘子の元を訪れたのは…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


別居、DV、酒浸り…IT起業家の暗黒面あるある“7つの習慣”
 起業家――。華々しい響きを放ち、西麻布、六本木、恵比寿、銀座など煌びやかな繁華街でシャンパンをたしなみ、有名女優との交...
真夜中に突然の大量出血で119番、緊急搬送され人生初のERへ
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。誰...
ハッシュタグは“いいね”を超える? 承認欲求の先にあるもの
 SNSで昨年あたりから、ハッシュタグの新しい使いかたに脚光が集まりつつあります。ハッシュタグとは冒頭に「#」をつけた言...
こにゃんたま君のパパ「タンク君」のご立派“にゃんたま”
 きょうのにゃんたまは、先日ご紹介した「こにゃんたま君」(奥に写る子猫)のパパです!  その名も「タンク」君! ...
悲劇はもう二度と…園児の外遊びの大切さと保育士さんの努力
 保育園の子どもたちや働く保育士さんにとって、あまりに悲しい出来事が続いています。園児2人が亡くなった大津市の事故のショ...
ゴロンゴロン♪ “にゃんたま”流ストレス解消法でリラックス
 気が付くとストレスで、体が緊張状態になっていませんか?  きょうは、体の力を意識的に抜いてコロコロしてみる、にゃ...
毎朝のお弁当作り 「苦痛→楽しい」に変える4つのコツ!
 手作りのお弁当って子どもの頃はもちろん、大人になっても嬉しいものですよね。でも、作る側はいつも大変!うんざりして、苦痛...
「SNSイタい女」とは呼ばせない オトナ女子のインスタ技3選
 InstagramをはじめとしたSNSは、今や日常生活に欠かせないコミュニケーションツールになりました。少し前までは、...
「え、悪性って…」病院を出たら子宮頸がん患者になっていた
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。誰...
三崎港で“にゃんたま”発見! おすすめマグロ店をご案内?
 神奈川県・三浦半島にある三崎漁港。  全国有数のマグロの水揚量を誇る漁港近くで、にゃんたま発見です。  多...
怠惰な人にこそ効く!「やる気が出ない」を解消する3STEP
 どうしてもやる気が出ない時ってありますよね。脳科学を利用した「やる気を出す方法」がネットに多々転がっているものの、それ...
京都・伏見稲荷大社で発見 神のオーラ感じる白“にゃんたま”
 朱色の鳥居と、白いキツネがシンボルの神社。  京都・伏見稲荷大社で、白いにゃんたまωに出逢いました。  鳥...
先生どうして辞めちゃうの? 保育士さんが一斉退職する理由
 保育園で問題になっている保育士さんの一斉退職。子供たちだけでなく保護者の心にも傷を負わせかねない問題ですが、なぜこんな...
私は、子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性です。
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー1年生です。がん告知はひとりで受けました。私...
期間限定だから尊い 可愛い子猫の“こにゃんたま”にメロメロ
 ニャンタマニアのみなさまこんにちは。猫フェチ撮影の日々を送る芳澤です。  きょうは、にゃんとも可愛い子猫にゃんた...
経験者直伝! 出産が「怖い」を「楽しい」に変える考え方
 出産を終えた後、必ずと言って良いほど女友達に聞かれたのが「怖くなかった?」「痛かった?」という言葉でした。出産の「怖さ...