浮気より酷い夫の裏切り SNSには私の知らない「もう1人の彼」がいた

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-07-13 06:00
投稿日:2024-07-13 06:00

【吉祥寺の女・林絵里奈32歳 #2】

 かつて漫画家を目指していた夫婦の絵里奈と拓郎。双子の子供ができたことを機に、夢を諦め堅気の生活を暮らしている。

 夜勤の介護職員の拓郎(31歳)は多忙で絵里奈はほぼワンオペだが、家族のために働いていると思うと何も言えない。そんな中、妊娠6カ月の絵里奈が急激な腹痛に襲われ、職場に電話をかけると…。【前回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 絵里奈は頭の中が真っ白になった。

「拓郎さんなら、すでに帰りましたよ」

 そんなはずはない――改めて家にあるシフト表を確認する。手書きではあったが、間違いなく16時から翌4時までと勤務時間が書かれていた。

「早退ですか? 夫の勤務は朝の4時までとシフト表にあるのですが」

「いやいや0時に退勤しました。そちらの表の間違いじゃないですかね」

「そうですか…」

 一度は納得しながらも、いまだ帰宅していない事実がここにある。

電話に出ないのはなぜ?

 ――帰り際、事故にでも遭ったのかな。

 咄嗟にそう感じて、電話を切った。恐る恐る拓郎のスマホに電話をかける。

 不通…。

 機械的なアナウンスをかき消すように、ツーンという耳鳴りが響いた。不安な心もちと比例するように、下腹部の鈍痛はさらに増す。

 耐えきれず、かかりつけの産科医に電話すると、すぐに来なさいと注意を受けた。絵里奈は娘二人と共に救急搬送されることになったのである。

 下腹部痛の原因は、医師曰く便秘、ということだった。

 妊娠中は子宮やホルモンの働きによって圧迫され、腸管の動きが抑制されるため、痛みを強く感じやすいのだという。

 胎児の心拍も異常なし。数時間もすると痛みも引き、すぐに帰らされた。

 絵里奈は一安心したが、夜中に無理やり起こされたウミとナミは当然ながら不機嫌極まりなく、夜勤の医師や看護師をてこずらせていた。

 それ以上に、気がかりなのは拓郎の状況だ。

 帰りのタクシーでスマホを眺めても、折り返しの着信は依然ない。だが、事故や事件に巻き込まれているのであれば、所持品などで警察から連絡が来るはずだと、自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。

 ただ、彼の無事を心の底から祈る。

夫の明らかな「嘘」に戸惑う

 生まれたての小鹿ような、一歩一歩おぼつかない足取りで双子の手をひき、絵里奈は自宅アパートのドアを開けた。

 すると…

「おかえりー、コンビニでも行っていたの?」

 居間には、クッションを枕にスマホを眺める男が転がっていた。

「拓郎くんこそ。いつ帰ってきたの? 電話したのに」

「ついさっきだよ。今日も山田さんの食事介助に手こずってさぁ。――え、電話? ごめん、深夜だったし、どうせ間違いだと思ってたわ」

 窓辺から降り注ぐ朝の陽ざしに照らされた拓郎は笑顔で平然と告げた。

 「そう…」

 何事もない現実。心から願っていた顛末ではあったのだが…。

「ねー、ママ、眠いよぉ」

「ナミもー」

 眠そうな二人の対応で、蠢く疑問点を解決する暇も与えられぬまま、絵里奈はスマホを眺める拓郎に背を向けた。

 ――食事介助…? 施設を退勤したのは0時なのに?

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


種類豊富で美容と健康の味方! 絶品の台湾フルーツをご紹介
 台湾フルーツといえば、マンゴーと答える方が多くいらっしゃると思いますが、実はマンゴー以外にも日本ではあまり見かけない、...
来年のアナタの幸福は年始の玄関がキメ手「門松」と神のお話
 毎年年末になると、門松を納めさせていただく某旅館がございます。  東京に住む友人とのたわいない話で「そういえば斑...
とにかく安く旅行したい! 3つの節約アイデアで思い出作りを
 日々のストレスから「こんな現実、忘れたい!」「刺激的な体験をしたい!」と思うことはありませんか? そんな日常に贅沢を与...
喧嘩ごっこは立派な学び!やんちゃ盛りの兄弟“にゃんたま”
「にゃんたま」に、ひたすらロックオン!  日々、動体視力を鍛えている猫フェチカメラマンの芳澤です。  今回は...
年末年始の帰省で見抜いてあげたい 老親の秘めた5つのSOS
 お正月というと豪勢な料理が並び、久々に会う親族との談笑が弾む楽しい時間。いつもは仕事が忙しい人でも、年末年始にはまとま...
レンタル彼氏に聞いた 「またか」と思うデートパターンとは
 先日とあるレンタル彼氏(出張ホスト)と話をしました。彼はそれなりに人気があり、指名客も多いのですが、彼が言うには、お客...
ウトウト“にゃんたま”はお日様パワーでエネルギーチャージ
 にゃんたマニアのみなさんこんにちは。  寒いきょうは、日向ぼっこで体を温めてエネルギーチャージするにゃんたまω様...
焦って付き合うのは危険!男性の猛烈アプローチの対処法とは
「クリボッチ(クリスマスにひとり)」なんて罪深い言葉、誰が作ったのでしょうか?  相手がいなくてもそんなに気にしなくて...
不妊治療の話は聞くけれど…卵子凍結が日本で広まらない理由
 日本は不妊治療の件数は世界一なのに、体外受精で赤ちゃんが産まれる確率は最下位。不妊治療の話題がたびたび上がるようになり...
小籔千豊さん「人生会議」は炎上も…家族のためにできること
 男女問題研究家の山崎世美子(せみこ)です。今回は、ちょっと重いテーマかもしれませんが、「もしものとき」について考えてみ...
来年の幸せを呼ぶ 聖域と現世の境界線「しめ飾り」の作り方
 さぶ店長率いる我がお花屋さんのこの時期は、お歳暮とクリスマスとお正月が乱れ打ちで、足の踏み場を探すほど。  もう...
サボりがちなジム通い…やる気を継続させるための4つの工夫
 美容と健康のためにジムに入会している人は多いですが、ジム通いが習慣づいている人は意外と少ないですよね。 「行かな...
新宿で一目惚れ♡洲本発絶品厚焼き玉子サンドはいかがです?
 デパコスの聖地・伊勢丹で新色リップを試した後にZARAで掘り出し物を物色♡といった具合に、コスメもファッションも大好き...
黒くてまん丸…黒猫“にゃんたま”はまるで「あんこ玉」のよう
 白黒猫のにゃんたまωは哲学的なマーブル模様、キジトラは美しいグラデーション。  茶トラは美味しそうな鈴カステラの...
ママ友が面倒くさい! 快適な保護者生活を送るための秘策4つ
 良くも悪くも「ママ友」には、すごくお世話になりますよね。ママ友問題と無縁の夫たちは「そんなの一時の話だろう」と、まとも...
運動量の減少も…介護士が暴露する介護施設のデメリット3つ
 介護士をしていた筆者は、基本的に介護施設に入ることを肯定的に捉えています。介護施設には介護士はもちろん、理学療法士や作...