老化、苦労、ボトックスとも無縁な御年50のハローキティちゃん

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2024-09-30 06:00
投稿日:2024-09-30 06:00
 踊り子として舞台に立ち、エッセイも書く新井見枝香さんの月イチ連載です。アラフォーいろいろあるけど、楽しいよ…!

顔さえ描かれていなければ…

 そのぷっくりと膨らんだつややかな白い頬に、銀のスプーンを差し込もうとしては止め、差し込もうとしては止め…、「お客様、退店のお時間まであと15分です」マジかよ、もう1時間も経ったのか。

 気付けばミニパフェの上に飾られたリンゴ型のジェラートは、晴れた朝の雪だるまみたいにデロデロだった。

 全く感情の読めない無表情でこちらを見つめるキティちゃんは、おそらくミルク味のプリンかムースかババロアか何かだ。そこに顔さえ描かれていなければ、3口で消える。

 しかしどうしたことだろう。食いしんぼうであるこの私が、手をこまねいていた。

【こちらもどうぞ】彼氏に発行したスタンプカード。ラーメン一杯無料が先か、ガチギレが先か。

今年11月1日に“50歳”となるキティちゃん

 ハローキティは今年で生誕50周年だ。その事実を私はついさっき知ったばかりである。サンリオキャラクターでいうと、タキシードサムやゴロピカドンより姐さんだ。例えが渋い。

 それにしても、キティちゃんには、いつまで経っても渋みというものが生まれない。このままでは10年後の生誕60周年で赤いチャンチャンコを着せたところで、赤い服を着たかわいいキティちゃんになってしまいそうだ。

生まれた時からかわいいの最前線

 50年前といえば1974年、セブンイレブンの1号店が開店し、ユリ・ゲラーが来日してスプーン曲げが流行った年だ。ブルボンからルマンドというお洒落なお菓子が発売して、奥様がこぞって買い求めた頃である。

 彼女はその頃からずっと、かわいいの最前線だった。レトロとも、古臭いとも言われることなく、赤いリボンを付けても“イタい人”扱いされず、ピチピチの新興サンリオキャラクターに媚びへつらうこともなく、あののっぺりと老化も苦労も知らない顔にボトックスを打つこともなく、生き抜いてきたのだ。

 それで50歳と聞くと、彼女には何か希望すら感じてしまう自分がいる。

元々はややポムポムプリン推しだった

 ここまでの流れで、相当なキティ信者のように思われるかもしれないが、そんなことは全くない。キティ推しだったことも、一度もない。

 どちらかというと、ポムポムプリン推しだった。それも、彼が犬だと知って萎えたのだが。アンパンマンのように、プリンでできていると思っていたのだ。

キティちゃんへのギャラも上納

 生誕50周年記念に、渋谷109で開催されたキティちゃんのコンセプトカフェに訪れたのは、先輩の踊り子に誘われたからである。

 平日の昼間でも予約で埋まっており、席の利用は75分の各回入れ替え制だ。我々がオーダーしたアフタヌーンティーは、2人分ほどの分量があり、紅茶付きで6,590円。それが安いのか高いのか、判断がつかないが、キティちゃんのギャラが含まれていることは間違いない。

身長はリンゴ5個分、血液型はA型

 運ばれてきたセットには、キティちゃんの体重(リンゴ3個分)にちなんだ、リンゴ型ジェラートをのせたミニパフェや、リボン型にくり抜いたパプリカをあしらったクロワッサンサンドなどが盛り付けられている。

 そしてメインは、キティちゃんと双子の妹のミミィちゃんの、件のデザート。君ら双子だったのか。それにしてもなんだろう、この湧きあがる気持ちは。明らかに、なんていうか、ハイである。

 すると姐さんがすかさず一眼レフを取り出して、バシャバシャと写真を撮り始めた。本気だ。私は極力背景に映り込まないように身を引いて、その様子を見守っていたが、最終的にはキティちゃんを皿に取って、写真を撮ってもらった次第である。わあい。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


アドバイス1000本ノック!“相手の立ち位置”を見極めて選別を
 アドバイスって、たくさんあると困る場合もありますよね。選択肢はあればあるほど良いとはいえ、正反対の意見があったりすると...
ポロリ5秒前の“たまたま”♪ にゃんたまの演出?それとも素?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
秋と冬の足音が聞こえた! 2022.10.5(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
自律神経の乱れに!グリーンハーブ活用&簡単ブーケの作り方
 気がつけば甘くさわやかな香りが漂う季節になりました。香りのもとをたどって見渡せば、大木全体に黄金色の金木犀の花がビッチ...
嗚呼20代に戻りたい…若い頃にやっておけばよかったこと3選
「20代にタイムスリップできるなら、やりたいことは何ですか?」  こんな問いに、あなたならどう答えるでしょうか。30代...
酒天国! TSUTAYA田町駅前店シェアラウンジ 2022.10.4(火)
 思えばスーパーの屋上や、モンテローザ系列の居酒屋やらお得な「飲み放題」のうわさを聞きつけては、飲み散らかしてきました。...
会いたいにゃ!恋する“たまたま”は気分も尻尾も上がっちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「マッスルスナック」潜入ルポ!推し活未経験女がまんまと…
 世間は、空前の推し活ブーム。特に女性の推し活は、リアルでもSNSでもシェアしやすい風潮も広がっていて、推しを目の前に女...
海外はもう古い!? 新婚旅行を国内にする4つの大きなメリット
 新婚旅行の定番といえば、海外のリゾート地を思い浮かべる人も多いでしょう。でも実は今、コロナ禍の影響もあり、国内での新婚...
「怒らない女」の謎メンタル その“正体”はレベチすぎた!
 あんまり怒らない人、みなさんの周りにはいますか? 8割の人間が怒るようなことが起きても、どこか涼しい顔でサラッと流す人...
美少年にゃんこの品性と“たまたま”のワイルドさにキュン♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
メルカリで“コピー品”を買ってしまった…? 2022.9.29(木)
 不要になった物を出品したり、探していた物を購入したり。上手に活用すれば便利で楽しく使えるメルカリですが、基本的には個人...
ワレモコウって漢字で書くと? “超絶短い秋”をおセンチに♡
 すっかりあやふやになった日本の四季。特に春と秋はメッチャ曖昧になってきたなぁと感じる今日この頃。極端な話、体感できる秋...
“たまたま”君の気になる恋の行方!すれ違いざまに猛アピール
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
インフルエンサーの案件自慢にモヤっとするのはバカバカしい
 SNS上に“生息”するインフルエンサーっぽい人たち。何かと自慢が多く、心の奥でなんだかモヤモヤする……。そんな時の対処...
脱ボトルなるか「詰め替えそのまま」の実力 2022.9.25(日)
 ずっと気になっているけれど、値段がネックとなって購入するのを躊躇していたものが、コレ。「詰め替えそのまま」です。シャン...