見た目は熟女、心は小学生。アドレナリン全開踊り子の夏休み初日。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-07-31 15:27
投稿日:2025-07-31 11:45
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

寝て回復するタイプと遊んで復活するタイプがいる

 10日間で40回のステージを踊り、泥雑巾のように疲れ果てた踊り子には、ひたすら寝ないと回復できないタイプと、パーッと遊んで復活するタイプがいる。オフ初日の朝、目覚ましのタイマーを鳴るより前に止めた私は、尿意を我慢できずに目が覚めてしまう老化現象を差し引いても、確実に後者のタイプだった。

 グズグズとベッドから抜け出せなかった昨日が嘘みたいにスッと立ち上がり、すっぴんのまま軽い足取りで家を出る。午前中に友達と、海が見える駅で待ち合わせをしているのだ。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

 ホームに熱海行きの電車がやってきた。目の前にグリーン車が停まったのは偶然ではない。今の私には1000円を払ってでもグリーン席に座る理由があった。

 しかしそれは公演でバキバキになった体を労わるためではない。やがて見えてくる海を窓側で楽しみ、夏休み気分を盛り上げるためだ。車窓に1000円もかけたのだから、一睡もしない覚悟である。

いつも通り過ぎていた無人駅へ

 熱海の劇場へ向かう時に、いつも後ろ髪を引かれながら通り過ぎていたパステルカラーの無人駅に降り立つと、高台から海が見下ろせた。友人はもう一本後の電車で来るはずだ。たまらず坂を駆け下り、海岸へと向かう。

 服が濡れるのも構わず、サンダルのまま海に入って、バチャバチャと浅瀬で蟹を追いかけた。昨日までは劇場の楽屋でせっせと髪を巻いていた時間だが、しかし私は今、寝癖だらけの髪を帽子に突っ込み、子供みたいに真夏の海と戯れている。

 このまま頭から海へ飛び込むことだってやぶさかではない。しかし待ち合わせ時間が迫っていた。今度は来た道を1キロほど駆け上がり、友人と合流して川沿いのマス釣り施設へ向かった。そこでニジマスを釣って昼飯にするのだ。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


どこにたどり着くのか分からない こんな気持ちのときがある
 あっちでもないし、こっちでもないし、でもやっぱりこうだし……。  行って戻ってこんがらがって。結局は同じ場所に戻...
異次元の入り口かにゃ? 興味津々の“たまたま”をロックオン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「すっぴん」と“シミ撃退”韓国旅行の話
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
春巻ではなくハルマキ?自炊疲れでも10分&大さじ4の揚げ焼きで“天国”へ
 餃子サンや焼売サンに比べて、どことなくハードルの高さを感じるのが、春巻サマです。  餡作りからしておっくう。だか...
「写ルンです」が流行る若者のレトロブームは、何を写しているのか
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
喪中はがきが届いたら? 寒中見舞い等で相手に心を伝えるためのマナー集
 年末が近づいてくる頃、突然「喪中はがき」が届いて慌ててしまった人もいるはず。  特に、日本の季節やイベントにまつわる...
「股間を狙え」夜道の一人歩き対策で元ヤンバレ!過去のやんちゃがポロリ
 若い頃にヤンキーだった人も、大人になればだんだんと落ち着いてくるものですよね。  社会に出ると、若気の至りだった...
#1 10代で絶頂期の30歳元アイドル、まだ終わらないと信じる女の日常
 JR立川駅から徒歩で20分ほど。立飛のららぽーとからも、モノレールの駅からも、微妙に遠い住宅街の狭小住宅が麻美の現在地...
#2 専業主婦がライブ配信にハマるわけ「誰かが私の才能を見出して…」
【#1のあらすじ】  かつて2流アイドルグループの中堅メンバーだった麻美は、現在立川で専業主婦として平凡な毎日を送...
#3 立川の夫と恵比寿の彼、女の幸せはどちらに?元アイドルが選んだ道は
【#1、#2のあらすじ】  かつて2流アイドルグループの中堅メンバーだった麻美は、現在立川で専業主婦として平凡な毎...
40女開運が気になるお年頃!金運UP「雑誌付録の財布」どう活用する?
 今回ご紹介する雑誌付録は、人気キャラ「マムアン」のインテリアBOXとフォーチュンアドバイザー・イヴルルド遙華さん監修の...
何が起こった? 街にあふれる人に少し違和感を抱いて
 いつも、穏やかな参道にただようちょっと物々しい雰囲気。  何があったかは分からないけど、思わずカメラを構えた。 ...
親ガチャにハズレた! 5つの苦い思い出とそこから一歩を踏み出す方法
 生まれる時、私たちは親を選べません。どんな親のもとに生まれるかは、ガチャガチャのごとく運次第。  大人になるにつれ「...
寂しがる親との距離感、よい解決策は?大人になるほど複雑に
 みなさんは、親との距離感って考えながら付き合っていますか? ベタベタしすぎず、ドライすぎず、お互いを尊重し合えるのが理...
キッチンに馴染む 無印良品の「真っ白な消火器」買いました
 突然冷え込んで、一気に冬っぽくなってきました。この時期になると我が家の近所では見回りの小さな消防車が「カンカン」と音を...
ニャルソック発動中!カメラバックに夢中な“たまたま”の後姿
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...