その女と出張へ…ケイタイに登録されていた私の生理周期

うかみ綾乃 小説家
更新日:2019-11-14 17:00
投稿日:2019-09-05 17:00
 その女、「G」に出会ったとき、私は30代で、フリーランスの仕事をしていました。彼女は40代後半。私に仕事を依頼した会社での担当者でした。一見は人当たりが良く、仕事熱心で、後輩の面倒見も良い女性でした。ですが私はすぐに彼女に対して、なにとは言えない違和感を覚えるようになりました――。
 前回の話はこちら→「#1 必要以上に身体を触られ…アラフィフ女に覚えた違和感

いよいよGと二人で出張旅行に

 Gとの出張旅行は、のっけから戸惑うことの連続でした。

 まず、待ち合わせの喫茶店で会うなり、Gはハイテンションで一時間以上も喋り続け、私が時間は大丈夫かと訊いたときには、乗る予定だった特急が発車した後でした。

 電車内では、Gはケイタイで電話をかけにデッキへ行きましたが、扉を閉めずに話すので、声が車両中に響きわたります。

 電話の内容は私のことで、他社の、まだ公開を控えるべき仕事の内容を喋り、続いて私の本名、住所、電話番号を、スラスラと伝えます。

 いたたまれない思いで座っていると、彼女は、「いま、ちょうどあやさんといるんですよ」とシート席に戻り、私の耳にケイタイを当ててきました。

 この人はきっと、一生懸命になると舞い上がりやすい気質なのだ……

 小声で電話に対応しながら、なるべく良い方に考えるようにしました。

ケイタイに登録されていた“生理周期”

 電話を切ると、彼女は、手作りのしおりを広げ、旅行のスケジュールを説明しはじめます。

G「せっかくなので、◯◯や▽▽も観光しましょう。ホテルはちょっと離れているんですが、特別に素敵なリゾートホテルを取ったんですよ」

私「せっかくですが、観光は仕事を終えてからでいいですか。実は私、今日、生理で……」

 生理というのは嘘でしたが、そう言えば女同士、納得してくれると思ったのです。すると、

G「うそぉ。あやさんの生理は一週間前に終わってるはずです。だって私、あやさんの月経周期をケイタイのアプリに入れてますから。ほら」

 見せられたケイタイには、以前、なにかで伝えた私の生理日から計算された、毎月の予定日が記されていました。

私「それは……私のとはズレてます……(本当に)」

G「えぇ? じゃあまた入れ直しておきます。今回は何日に始まったんですか」

 その声は相変わらず、静かな車両内に響いています。

 私は生理痛よりも気分が悪くなり、窓を向いて寝た振りをしました。

うかみ綾乃
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小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

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